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壊れた僕は、今日も笑う。  作者: ニィギンヤ


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32/81

再会

 ――澪。


⸻


 その名前が。


⸻


 喉の奥で止まる。


⸻


 目の前にいる女性は。


⸻


 静かに笑っていた。


⸻


 写真で見た少女より。


⸻


 ずっと大人になっている。


⸻


 それでも。


⸻


 その笑顔だけは。


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 変わっていなかった。


⸻


「……本当に。」


⸻


「澪なのか。」


⸻


「うん。」


⸻


 短い返事。


⸻


 悠は一歩近付く。


⸻


「生きて……。」


⸻


 最後まで言えなかった。


⸻


 澪の左頬。


⸻


 首。


⸻


 そして左腕。


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 そこには。


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 痛々しい火傷の痕が残っていた。


⸻


 思わず息を呑む。


⸻


「……ごめん。」


⸻


 澪は苦笑する。


⸻


「びっくりした?」


⸻


「私は。」


⸻


「ちゃんと生きてる。」


⸻


 その言葉だけで。


⸻


 悠の胸がいっぱいになる。


⸻


「よかった……。」


⸻


 自然に。


⸻


 涙が零れた。


⸻


 ◇


⸻


「朝倉さんは。」


⸻


 悠は涙を拭いながら尋ねる。


⸻


「無事なんだよね。」


⸻


「もちろん。」


⸻


 澪は頷く。


⸻


「眠ってもらってるだけ。」


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「傷一つない。」


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「……よかった。」


⸻


「でも。」


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「どうしてこんなことを。」


⸻


 澪は視線を落とす。


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「悠くんは。」


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「ここへ来ないと。」


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「真実を知ろうとしない。」


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「だから。」


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「ごめんね。」


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 その謝罪は。


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 本心だった。


⸻


 ◇


⸻


 しばらく。


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 二人とも黙っていた。


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 やがて。


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 悠が口を開く。


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「ずっと。」


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「会いたかった。」


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 澪は少し驚いた顔をする。


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「覚えてないのに?」


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「覚えてない。」


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「でも。」


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「心は。」


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「ずっと探してた。」


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 澪は目を閉じる。


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 肩が小さく震えた。


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「……ずるいなぁ。」


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「そんなこと言われたら。」


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「泣いちゃうじゃん。」


⸻


 その声は。


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 もう震えていた。


⸻


 ◇


⸻


「ねぇ。」


⸻


 澪が静かに尋ねる。


⸻


「悠くん。」


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「一つだけ。」


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「約束して。」


⸻


「何。」


⸻


「この先。」


⸻


「私が何を話しても。」


⸻


「最後まで聞いて。」


⸻


「途中で。」


⸻


「私を嫌いにならないで。」


⸻


 その一言に。


⸻


 悠は違和感を覚える。


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「嫌い?」


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「どうして。」


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 澪は笑った。


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 でも。


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 その笑顔は。


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 どこか壊れていた。


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「私は。」


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「君を。」


⸻


「裏切ったから。」


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 時間が止まる。


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「……え。」


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「鳳園の日。」


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「全部。」


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「私のせい。」


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 悠は首を横に振る。


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「違う。」


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「録音では。」


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「悪いのは。」


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「あの人たちだって。」


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「うん。」


⸻


「それも本当。」


⸻


「でも。」


⸻


「始まりは。」


⸻


「私。」


⸻


 悠の頭が混乱する。


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 信じたい。


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 でも。


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 信じられない。


⸻


「何が。」


⸻


「あったんだ。」


⸻


 澪は。


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 静かに窓の外を見た。


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「全部話す。」


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「でも。」


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「その前に。」


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 廊下の奥へ目を向ける。


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「盗み聞きは。」


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「良くないよ。」


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 その瞬間。


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 物陰から。


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 一人の男が姿を現した。


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 白衣。


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 四十代ほど。


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 眼鏡。


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 穏やかな笑み。


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「気付いていたか。」


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 澪は冷たく睨む。


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「十二年ぶり。」


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「黒瀬先生。」


⸻


 その名前を聞いた瞬間。


⸻


 悠の頭に。


⸻


 ノートの最後のページが浮かぶ。


⸻


『主任研究員 黒瀬 恒一』


⸻


 男は。


⸻


 悠へ視線を向ける。


⸻


「久しぶりだね。」


⸻


「被験者Y-17。」


⸻


 その呼び方だけで。


⸻


 悠の中の何かが。


⸻


 音を立てて軋み始めた。

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