再会
――澪。
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その名前が。
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喉の奥で止まる。
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目の前にいる女性は。
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静かに笑っていた。
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写真で見た少女より。
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ずっと大人になっている。
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それでも。
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その笑顔だけは。
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変わっていなかった。
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「……本当に。」
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「澪なのか。」
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「うん。」
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短い返事。
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悠は一歩近付く。
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「生きて……。」
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最後まで言えなかった。
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澪の左頬。
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首。
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そして左腕。
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そこには。
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痛々しい火傷の痕が残っていた。
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思わず息を呑む。
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「……ごめん。」
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澪は苦笑する。
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「びっくりした?」
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「私は。」
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「ちゃんと生きてる。」
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その言葉だけで。
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悠の胸がいっぱいになる。
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「よかった……。」
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自然に。
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涙が零れた。
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◇
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「朝倉さんは。」
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悠は涙を拭いながら尋ねる。
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「無事なんだよね。」
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「もちろん。」
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澪は頷く。
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「眠ってもらってるだけ。」
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「傷一つない。」
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「……よかった。」
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「でも。」
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「どうしてこんなことを。」
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澪は視線を落とす。
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「悠くんは。」
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「ここへ来ないと。」
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「真実を知ろうとしない。」
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「だから。」
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「ごめんね。」
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その謝罪は。
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本心だった。
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◇
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しばらく。
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二人とも黙っていた。
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やがて。
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悠が口を開く。
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「ずっと。」
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「会いたかった。」
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澪は少し驚いた顔をする。
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「覚えてないのに?」
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「覚えてない。」
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「でも。」
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「心は。」
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「ずっと探してた。」
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澪は目を閉じる。
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肩が小さく震えた。
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「……ずるいなぁ。」
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「そんなこと言われたら。」
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「泣いちゃうじゃん。」
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その声は。
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もう震えていた。
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◇
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「ねぇ。」
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澪が静かに尋ねる。
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「悠くん。」
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「一つだけ。」
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「約束して。」
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「何。」
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「この先。」
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「私が何を話しても。」
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「最後まで聞いて。」
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「途中で。」
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「私を嫌いにならないで。」
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その一言に。
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悠は違和感を覚える。
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「嫌い?」
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「どうして。」
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澪は笑った。
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でも。
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その笑顔は。
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どこか壊れていた。
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「私は。」
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「君を。」
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「裏切ったから。」
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時間が止まる。
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「……え。」
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「鳳園の日。」
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「全部。」
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「私のせい。」
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悠は首を横に振る。
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「違う。」
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「録音では。」
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「悪いのは。」
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「あの人たちだって。」
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「うん。」
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「それも本当。」
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「でも。」
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「始まりは。」
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「私。」
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悠の頭が混乱する。
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信じたい。
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でも。
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信じられない。
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「何が。」
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「あったんだ。」
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澪は。
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静かに窓の外を見た。
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「全部話す。」
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「でも。」
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「その前に。」
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廊下の奥へ目を向ける。
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「盗み聞きは。」
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「良くないよ。」
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その瞬間。
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物陰から。
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一人の男が姿を現した。
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白衣。
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四十代ほど。
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眼鏡。
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穏やかな笑み。
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「気付いていたか。」
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澪は冷たく睨む。
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「十二年ぶり。」
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「黒瀬先生。」
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その名前を聞いた瞬間。
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悠の頭に。
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ノートの最後のページが浮かぶ。
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『主任研究員 黒瀬 恒一』
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男は。
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悠へ視線を向ける。
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「久しぶりだね。」
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「被験者Y-17。」
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その呼び方だけで。
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悠の中の何かが。
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音を立てて軋み始めた。




