↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
壊れた僕は、今日も笑う。  作者: ニィギンヤ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
31/78

笑顔の終わり

 ピロン。


⸻


 通知音だけが。


⸻


 やけに大きく聞こえた。


⸻


 悠は。


⸻


 スマートフォンを握り締める。


⸻


『朝倉さんを助けたければ、一人で鳳園へ来い。』


⸻


 短い文章。


⸻


 だが。


⸻


 そこに込められた悪意は。


⸻


 十分すぎるほど伝わった。


⸻


「神代。」


⸻


 如月が画面を覗き込む。


⸻


 表情が険しくなる。


⸻


「行くな。」


⸻


「無理だ。」


⸻


 悠は即答した。


⸻


「放っておけない。」


⸻


「罠だ。」


⸻


「分かってる。」


⸻


「それでも。」


⸻


「行く。」


⸻


 教室で。


⸻


 初めて会った日。


⸻


 屋上で。


⸻


 何も聞かず待つと言ってくれた日。


⸻


 泣いている自分を。


⸻


 見ても。


⸻


 何も聞かなかった日。


⸻


 朝倉の笑顔が。


⸻


 頭をよぎる。


⸻


「助ける。」


⸻


 その一言に。


⸻


 迷いはなかった。


⸻


 ◇


⸻


 夕暮れ。


⸻


 校門の前。


⸻


 悠は一人で立っていた。


⸻


 如月は来なかった。


⸻


 いや。


⸻


 来られなかった。


⸻


 職員室へ呼ばれ。


⸻


 校長に止められている。


⸻


 それを。


⸻


 悠は知っていた。


⸻


「ごめん。」


⸻


 小さく呟く。


⸻


「これは。」


⸻


「僕が行く。」


⸻


 バスへ乗る。


⸻


 窓の外。


⸻


 街並みが。


⸻


 少しずつ途切れていく。


⸻


 山道。


⸻


 雑草。


⸻


 人気のない道路。


⸻


 やがて。


⸻


 見えてきた。


⸻


 錆び付いた門。


⸻


 傾いた看板。


⸻


 そこには。


⸻


『児童保護施設 鳳園』


⸻


 と。


⸻


 かすれた文字が残っていた。


⸻


 ◇


⸻


 門をくぐる。


⸻


 草は膝の高さまで伸び。


⸻


 建物の窓ガラスは。


⸻


 ほとんど割れている。


⸻


 風が吹くたび。


⸻


 ギシ……


⸻


 ギシ……


⸻


 不気味な音が響く。


⸻


 悠は。


⸻


 一歩ずつ進む。


⸻


 その瞬間。


⸻


 チリン。


⸻


 ポケットの鈴が鳴った。


⸻


 同時に。


⸻


 頭へ流れ込む。


⸻


『悠!』


⸻


『早くこっち!』


⸻


 幼い澪。


⸻


 笑いながら。


⸻


 中庭を走っている。


⸻


 その後ろを。


⸻


 自分と如月が追い掛ける。


⸻


 懐かしい。


⸻


 温かい記憶。


⸻


 だが。


⸻


 次の瞬間。


⸻


 景色が燃え始める。


⸻


 炎。


⸻


 黒煙。


⸻


 子どもたちの悲鳴。


⸻


 悠は頭を押さえる。


⸻


「……っ!」


⸻


 まだ。


⸻


 思い出せない。


⸻


 ◇


⸻


 建物の玄関。


⸻


 扉は半分崩れていた。


⸻


 中へ入る。


⸻


 焦げた匂いは。


⸻


 もう残っていない。


⸻


 それでも。


⸻


 胸が苦しい。


⸻


 廊下の壁。


⸻


 子どもたちの手形。


⸻


 身長を測った跡。


⸻


 色褪せた絵。


⸻


 全部。


⸻


 記憶と繋がっていく。


⸻


 その時。


⸻


「来たね。」


⸻


 声。


⸻


 廊下の奥。


⸻


 黒いフードの人物が立っていた。


⸻


 逃げない。


⸻


 隠れない。


⸻


 ただ。


⸻


 悠を見つめている。


⸻


「朝倉さんは。」


⸻


「どこだ。」


⸻


「無事だよ。」


⸻


「今はね。」


⸻


「会わせろ。」


⸻


「その前に。」


⸻


 フードの人物は。


⸻


 ゆっくり右手を上げる。


⸻


「一つだけ。」


⸻


「質問だ。」


⸻


「……。」


⸻


「君は。」


⸻


「本当に。」


⸻


「何も覚えていないのか?」


⸻


 悠は睨み返す。


⸻


「覚えてない。」


⸻


「でも。」


⸻


「必ず思い出す。」


⸻


「全部。」


⸻


 沈黙。


⸻


 数秒後。


⸻


 フードの人物は。


⸻


 小さく笑った。


⸻


「そうか。」


⸻


「なら。」


⸻


 ゆっくり。


⸻


 フードへ手を掛ける。


⸻


「思い出す手助けをしよう。」


⸻


 布が。


⸻


 静かに下ろされる。


⸻


 そこに現れた顔を見た瞬間。


⸻


 悠の呼吸が止まる。


⸻


「……え。」


⸻


 その顔は。


⸻


 アルバムで見た。


⸻


 幼い少女の面影を。


⸻


 今も残していた。


⸻


「澪……?」


⸻


 目の前の女性は。


⸻


 悲しそうに微笑んだ。


⸻


「久しぶり。」


⸻


「悠くん。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。