残された声
ザーッ……
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ノイズが続く。
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悠はボイスレコーダーを握り締めた。
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『……聞こえる?』
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震えた女の子の声。
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幼い。
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でも。
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どこか懐かしい。
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「澪……。」
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無意識に名前が零れる。
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『悠くん。』
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『これを聞いてるってことは。』
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『やっぱり。』
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『忘れちゃったんだね。』
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胸が締め付けられる。
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『でもね。』
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『忘れたのは。』
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『悠くんのせいじゃないよ。』
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『だから。』
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『自分を責めないで。』
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涙が一滴。
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机へ落ちた。
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『あの日。』
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『悪かったのは。』
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『誰でもない。』
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『あの人たちだから。』
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ノイズが混じる。
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『……もし。』
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『全部思い出しても。』
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『お願い。』
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『復讐だけはしないで。』
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ブツッ。
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録音が途切れた。
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「終わり……?」
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再生時間を見る。
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十二分ある。
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「まだ続きが。」
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早送りを押す。
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ガガッ……
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ノイズ。
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そして。
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別の日の録音が始まる。
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『今日はね。』
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『零くんと喧嘩した。』
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『でも。』
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『すぐ仲直りしたよ。』
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思わず笑ってしまう。
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記憶にはない。
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それでも。
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三人の日常が。
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少しだけ見えた気がした。
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しかし。
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最後の録音だけは違った。
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『もし。』
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『この声しか残らなかったら。』
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『私はもう。』
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そこで。
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ガガガッ!!
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激しいノイズ。
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何かが倒れる音。
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男の怒鳴り声。
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『見つけたぞ!』
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少女の悲鳴。
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『悠!』
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『逃げて!!』
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『零も!!』
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ドン!!
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録音が終わる。
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「……。」
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部屋が静まり返る。
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悠は動けなかった。
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◇
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翌朝。
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眠れないまま学校へ向かう。
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教室へ入ると。
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違和感があった。
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静かすぎる。
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朝倉の席。
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空席。
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「朝倉さん?」
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返事はない。
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隣の席の生徒が答える。
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「今日。」
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「休みらしい。」
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「体調不良だって。」
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嫌な予感。
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理由は分からない。
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でも。
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胸がざわつく。
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昼休み。
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悠は如月を探した。
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屋上。
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そこに如月はいた。
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「朝倉さん。」
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「何か知らない?」
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如月の表情が固まる。
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「……昨日。」
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「誰かにつけられてた。」
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「え?」
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「俺も。」
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「確認した。」
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悠の鼓動が速くなる。
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「まさか。」
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「神代。」
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如月は真っ直ぐ見据えた。
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「これは。」
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「お前だけの問題じゃなくなった。」
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「どういう意味だ。」
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「奴らは。」
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「お前の記憶を戻したい。」
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「でも。」
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「戻すためなら。」
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「周りを利用する。」
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その瞬間。
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悠のスマートフォンが震えた。
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知らない番号。
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画面には。
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『朝倉さんを助けたければ、一人で鳳園へ来い。』
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その一文の下には。
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添付された一枚の写真。
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薄暗い部屋。
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椅子に座らされた朝倉。
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眠っているのか。
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意識はない。
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だが。
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その首元には。
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見覚えのある銀色の鈴が掛けられていた。
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悠の頭の中で。
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何かが音を立てて切れた。
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「……ふざけるな。」
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初めてだった。
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悠の笑顔が。
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完全に消えたのは。




