鳴り続ける鈴
チリン。
⸻
小さな鈴の音が。
⸻
耳から離れない。
⸻
「神代!」
⸻
如月が悠の肩を掴む。
⸻
「その鈴を渡せ。」
⸻
悠は反射的に手を引いた。
⸻
「嫌だ。」
⸻
自分でも驚くほど。
⸻
強い口調だった。
⸻
如月の目が揺れる。
⸻
「……理由は。」
⸻
「分からない。」
⸻
「でも。」
⸻
「これは。」
⸻
「僕が持ってなきゃいけない。」
⸻
胸の奥で。
⸻
誰かがそう囁いていた。
⸻
如月は何かを言いかける。
⸻
しかし。
⸻
静かに息を吐いた。
⸻
「……分かった。」
⸻
「でも。」
⸻
「絶対に一人になるな。」
⸻
「え?」
⸻
「今日から。」
⸻
「お前は狙われる。」
⸻
その言葉は。
⸻
冗談には聞こえなかった。
⸻
◇
⸻
その日の夜。
⸻
窓を叩く風が強い。
⸻
悠は机に鈴を置き。
⸻
じっと見つめていた。
⸻
「君は。」
⸻
「何を知ってる。」
⸻
返事はない。
⸻
チリン。
⸻
また。
⸻
鈴が鳴る。
⸻
風なんて。
⸻
吹いていないのに。
⸻
その瞬間。
⸻
部屋の電気が消えた。
⸻
パチン。
⸻
「停電?」
⸻
カーテンが揺れる。
⸻
月明かりだけが。
⸻
部屋を照らす。
⸻
その光の中で。
⸻
鈴が。
⸻
淡く光っていた。
⸻
「……!」
⸻
光は。
⸻
床へ細く伸びる。
⸻
一本の線のように。
⸻
部屋の本棚を指していた。
⸻
「なんだ……?」
⸻
悠は近付く。
⸻
本棚を押す。
⸻
動かない。
⸻
もう一度。
⸻
力を込める。
⸻
ゴゴ……
⸻
本棚が少しだけ動いた。
⸻
「隠し……。」
⸻
壁の中。
⸻
小さな金庫が現れる。
⸻
鍵穴が一つ。
⸻
悠はポケットへ手を入れる。
⸻
真鍮の鍵。
⸻
「まさか。」
⸻
差し込む。
⸻
カチッ。
⸻
ゆっくり回す。
⸻
ガチャ。
⸻
金庫が開いた。
⸻
中には。
⸻
一冊のノート。
⸻
そして。
⸻
一枚のICカード。
⸻
ノートの表紙には。
⸻
『観察記録 神代 悠』
⸻
悠の呼吸が止まる。
⸻
「……観察。」
⸻
「記録?」
⸻
ページを開く。
⸻
一ページ目。
⸻
日付は。
⸻
十二年前。
⸻
『被験者Y-17』
⸻
『記憶処理後の経過を観察する』
⸻
「被験者……?」
⸻
ページをめくる。
⸻
『感情反応 正常』
⸻
『外傷 軽度』
⸻
『記憶欠落 確認』
⸻
『実験成功』
⸻
実験。
⸻
その文字を見た瞬間。
⸻
吐き気が込み上げる。
⸻
「何なんだよ……。」
⸻
「これ。」
⸻
最後のページ。
⸻
そこには。
⸻
誰かの署名。
⸻
『主任研究員 黒瀬 恒一』
⸻
聞いたことのない名前。
⸻
だが。
⸻
胸がざわつく。
⸻
その時。
⸻
玄関のチャイムが鳴った。
⸻
ピンポーン。
⸻
夜の十時。
⸻
こんな時間に。
⸻
「誰だ……。」
⸻
インターホンを確認する。
⸻
画面には。
⸻
誰も映っていない。
⸻
もう一度。
⸻
ピンポーン。
⸻
ゆっくり。
⸻
ドアへ近付く。
⸻
覗き穴を見る。
⸻
誰もいない。
⸻
「……。」
⸻
ガチャ。
⸻
少しだけ扉を開く。
⸻
廊下には。
⸻
小さな段ボール箱が置かれていた。
⸻
送り主はない。
⸻
恐る恐る開ける。
⸻
中には。
⸻
一台の古いボイスレコーダー。
⸻
電源は。
⸻
最初から入っていた。
⸻
ガサッ……
⸻
ノイズ。
⸻
数秒後。
⸻
女性の震える声が流れ始める。
⸻
『悠くん。』
⸻
『もし、この録音を聞いているなら──』
⸻
その声に。
⸻
悠の全身が凍り付く。
⸻
「……澪?」
⸻
録音は。
⸻
まだ続いていた。




