未来の僕へ
部屋の空気が重い。
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悠は。
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破れた手紙を見つめたまま動けなかった。
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『もし、この手紙を読んでいるなら。』
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『僕はきっと、全部忘れています。』
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それは。
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間違いなく。
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自分の字だった。
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「……僕が。」
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「書いたのか。」
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如月も黙っている。
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こんな手紙の存在は。
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彼も知らなかった。
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「続きを……。」
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悠は破れた跡へ指を添える。
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綺麗に切り取られている。
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故意だった。
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誰かが。
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一番大事な部分だけを。
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持ち去った。
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「誰が……。」
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その時だった。
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ヒラッ。
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便箋の間から。
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一枚の小さな紙切れが落ちる。
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「これは……。」
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拾い上げる。
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子どもの落書き。
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三人の似顔絵。
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下には。
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『ゆびきり』
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その一言だけ。
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書かれていた。
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途端に。
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世界が揺らぐ。
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『約束だからね!』
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『絶対だよ!』
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『うん!』
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三人の小さな指。
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夕焼け。
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笑い声。
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そして。
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突然。
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景色が赤く染まる。
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『悠!!』
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『連れて行け!!』
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『いや!!』
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叫び。
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泣き声。
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炎。
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煙。
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「……っ!」
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悠はその場へ膝をついた。
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「神代!」
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如月が肩を支える。
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「呼吸しろ!」
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「はぁ……。」
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「はぁ……。」
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涙が止まらない。
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「思い出せない……。」
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「あと少しなのに。」
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その姿を見た如月は。
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苦しそうに目を伏せた。
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「無理に思い出すな。」
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「でも!」
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「僕は!」
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「澪を一人にするなって!」
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「どういう意味なんだ!」
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静かな部屋に。
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悠の叫びだけが響く。
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如月は答えない。
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答えられない。
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◇
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その夜。
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朝倉は部屋で勉強をしていた。
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だが。
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参考書のページは。
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三十分経っても進まない。
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「……神代君。」
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小さく呟く。
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スマートフォンを手に取る。
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連絡先。
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『神代 悠』
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画面を開く。
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『大丈夫?』
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文字を打つ。
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しばらく眺める。
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そして。
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全部消した。
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「違う。」
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「今じゃない。」
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スマホを伏せる。
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「待つって。」
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「決めたもん。」
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窓の外では。
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雨が降り始めていた。
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◇
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一方。
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学園の屋上。
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黒いフードの人物が。
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街を見下ろしていた。
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その隣には。
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スーツ姿の男。
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「記憶は。」
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「予想より早い。」
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男が言う。
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フードの人物は頷く。
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「彼は強い。」
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「だから戻る。」
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「計画は?」
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少しの沈黙。
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そして。
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「変更だ。」
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「次は。」
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「彼自身に。」
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「鳳園へ来てもらう。」
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男は驚く。
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「危険です。」
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「全部思い出します。」
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フードの人物は。
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静かに笑った。
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「それでいい。」
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「もう。」
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「終わらせる時だ。」
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風が強く吹く。
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フードがめくれる。
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一瞬だけ。
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首元に古い火傷の痕が見えた。
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だが。
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顔までは見えない。
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◇
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翌朝。
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悠は教室の机を開ける。
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中には。
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白い封筒が一通。
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差出人はない。
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ゆっくり開く。
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中には。
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一枚の写真。
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焼け焦げた建物。
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その裏には。
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たった一行。
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『鳳園へ来い。真実を知りたければ。』
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悠は写真を見つめたまま。
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静かに息を呑んだ。




