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壊れた僕は、今日も笑う。  作者: ニィギンヤ


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27/80

未来の僕へ

 部屋の空気が重い。


⸻


 悠は。


⸻


 破れた手紙を見つめたまま動けなかった。


⸻


『もし、この手紙を読んでいるなら。』


⸻


『僕はきっと、全部忘れています。』


⸻


 それは。


⸻


 間違いなく。


⸻


 自分の字だった。


⸻


「……僕が。」


⸻


「書いたのか。」


⸻


 如月も黙っている。


⸻


 こんな手紙の存在は。


⸻


 彼も知らなかった。


⸻


「続きを……。」


⸻


 悠は破れた跡へ指を添える。


⸻


 綺麗に切り取られている。


⸻


 故意だった。


⸻


 誰かが。


⸻


 一番大事な部分だけを。


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 持ち去った。


⸻


「誰が……。」


⸻


 その時だった。


⸻


 ヒラッ。


⸻


 便箋の間から。


⸻


 一枚の小さな紙切れが落ちる。


⸻


「これは……。」


⸻


 拾い上げる。


⸻


 子どもの落書き。


⸻


 三人の似顔絵。


⸻


 下には。


⸻


『ゆびきり』


⸻


 その一言だけ。


⸻


 書かれていた。


⸻


 途端に。


⸻


 世界が揺らぐ。


⸻


『約束だからね!』


⸻


『絶対だよ!』


⸻


『うん!』


⸻


 三人の小さな指。


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 夕焼け。


⸻


 笑い声。


⸻


 そして。


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 突然。


⸻


 景色が赤く染まる。


⸻


『悠!!』


⸻


『連れて行け!!』


⸻


『いや!!』


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 叫び。


⸻


 泣き声。


⸻


 炎。


⸻


 煙。


⸻


「……っ!」


⸻


 悠はその場へ膝をついた。


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「神代!」


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 如月が肩を支える。


⸻


「呼吸しろ!」


⸻


「はぁ……。」


⸻


「はぁ……。」


⸻


 涙が止まらない。


⸻


「思い出せない……。」


⸻


「あと少しなのに。」


⸻


 その姿を見た如月は。


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 苦しそうに目を伏せた。


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「無理に思い出すな。」


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「でも!」


⸻


「僕は!」


⸻


「澪を一人にするなって!」


⸻


「どういう意味なんだ!」


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 静かな部屋に。


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 悠の叫びだけが響く。


⸻


 如月は答えない。


⸻


 答えられない。


⸻


 ◇


⸻


 その夜。


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 朝倉は部屋で勉強をしていた。


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 だが。


⸻


 参考書のページは。


⸻


 三十分経っても進まない。


⸻


「……神代君。」


⸻


 小さく呟く。


⸻


 スマートフォンを手に取る。


⸻


 連絡先。


⸻


『神代 悠』


⸻


 画面を開く。


⸻


『大丈夫?』


⸻


 文字を打つ。


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 しばらく眺める。


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 そして。


⸻


 全部消した。


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「違う。」


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「今じゃない。」


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 スマホを伏せる。


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「待つって。」


⸻


「決めたもん。」


⸻


 窓の外では。


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 雨が降り始めていた。


⸻


 ◇


⸻


 一方。


⸻


 学園の屋上。


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 黒いフードの人物が。


⸻


 街を見下ろしていた。


⸻


 その隣には。


⸻


 スーツ姿の男。


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「記憶は。」


⸻


「予想より早い。」


⸻


 男が言う。


⸻


 フードの人物は頷く。


⸻


「彼は強い。」


⸻


「だから戻る。」


⸻


「計画は?」


⸻


 少しの沈黙。


⸻


 そして。


⸻


「変更だ。」


⸻


「次は。」


⸻


「彼自身に。」


⸻


「鳳園へ来てもらう。」


⸻


 男は驚く。


⸻


「危険です。」


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「全部思い出します。」


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 フードの人物は。


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 静かに笑った。


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「それでいい。」


⸻


「もう。」


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「終わらせる時だ。」


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 風が強く吹く。


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 フードがめくれる。


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 一瞬だけ。


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 首元に古い火傷の痕が見えた。


⸻


 だが。


⸻


 顔までは見えない。


⸻


 ◇


⸻


 翌朝。


⸻


 悠は教室の机を開ける。


⸻


 中には。


⸻


 白い封筒が一通。


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 差出人はない。


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 ゆっくり開く。


⸻


 中には。


⸻


 一枚の写真。


⸻


 焼け焦げた建物。


⸻


 その裏には。


⸻


 たった一行。


⸻


『鳳園へ来い。真実を知りたければ。』


⸻


 悠は写真を見つめたまま。


⸻


 静かに息を呑んだ。

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