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壊れた僕は、今日も笑う。  作者: ニィギンヤ


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19/78

欠けた記憶

 写真を持つ手が震える。


⸻


「……なんで。」


⸻


 何度見ても。


⸻


 写っているのは。


⸻


 幼い自分。


⸻


 そして。


⸻


 幼い如月零。


⸻


 二人とも。


⸻


 笑っていた。


⸻


 こんな笑顔。


⸻


 僕は知らない。


⸻


「覚えて……ない。」


⸻


 写真の裏を返す。


⸻


 黒いマジックで。


⸻


 少し滲んだ文字。


⸻


『また三人で遊ぼう』


⸻


 三人。


⸻


「三人……?」


⸻


 如月はいる。


⸻


 僕もいる。


⸻


 じゃあ。


⸻


 もう一人は。


⸻


 写真の右端。


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 そこだけ。


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 不自然に切り取られていた。


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「誰なんだ。」


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 その瞬間。


⸻


 頭の奥が軋む。


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 ズキッ。


⸻


『悠!』


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 知らない声。


⸻


 でも。


⸻


 涙が出そうになるほど。


⸻


 懐かしい声。


⸻


「……っ!」


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 写真を落とす。


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 呼吸が乱れる。


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 胸を押さえる。


⸻


「思い出せない……。」


⸻


 ◇


⸻


 翌日。


⸻


 教室。


⸻


「神代。」


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 担任が声を掛ける。


⸻


「校長先生がお呼びだ。」


⸻


「僕が?」


⸻


「理由は聞いていない。」


⸻


 教室がざわつく。


⸻


「何したんだ?」


⸻


「昨日の件じゃない?」


⸻


 悠は苦笑した。


⸻


「行ってきます。」


⸻


 ◇


⸻


 校長室。


⸻


「入りなさい。」


⸻


 静かな部屋。


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 壁には古い賞状。


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 本棚。


⸻


 そして。


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 校長の向かいには。


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 もう一人。


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 如月が座っていた。


⸻


「……。」


⸻


 悠の足が止まる。


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「座りなさい。」


⸻


 校長は穏やかだった。


⸻


 二人は向かい合って座る。


⸻


「神代君。」


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「昨日の件について聞きたい。」


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「はい。」


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「君は。」


⸻


「如月君を見て。」


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「何か思い出したかね。」


⸻


 沈黙。


⸻


「……写真を。」


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「見ました。」


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 校長の表情が変わる。


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「写真?」


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「僕と。」


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「如月が写っていました。」


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「でも。」


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「もう一人だけ。」


⸻


「切り取られていました。」


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 部屋が静まり返る。


⸻


 校長は。


⸻


 ゆっくり目を閉じる。


⸻


「……そうか。」


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 その一言だけだった。


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「先生。」


⸻


 悠は顔を上げる。


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「僕。」


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「昔。」


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「如月と会ってたんですか。」


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 校長は答えない。


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 代わりに。


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 如月が口を開く。


⸻


「会ってた。」


⸻


「毎日。」


⸻


 短い返事。


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「嘘だ。」


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 思わず声が漏れる。


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「そんなはずない。」


⸻


「覚えてない。」


⸻


「だから。」


⸻


 如月は静かに言う。


⸻


「忘れたんじゃない。」


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「忘れさせられた。」


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 空気が凍る。


⸻


「……え?」


⸻


「それ以上。」


⸻


 校長が遮った。


⸻


「如月君。」


⸻


「今はまだ話すな。」


⸻


「ですが。」


⸻


「まだ早い。」


⸻


 如月は悔しそうに唇を噛む。


⸻


「……分かりました。」


⸻


 悠だけが。


⸻


 取り残される。


⸻


「何ですか。」


⸻


「何なんですか!」


⸻


 思わず立ち上がる。


⸻


「僕だけ。」


⸻


「何も知らないじゃないですか!」


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 初めてだった。


⸻


 先生に。


⸻


 感情をぶつけたのは。


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 校長は静かに立ち上がる。


⸻


 悠の前まで歩く。


⸻


「神代君。」


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「君を守るためだった。」


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「……。」


⸻


「だから。」


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「もう少しだけ。」


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「待ってほしい。」


⸻


 守る。


⸻


 誰から。


⸻


 何を。


⸻


 何一つ分からない。


⸻


 ◇


⸻


 校長室を出る。


⸻


 廊下。


⸻


 悠は立ち止まる。


⸻


 壁にもたれる。


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「守るって……。」


⸻


「何だよ。」


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 笑おうとする。


⸻


 でも。


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 笑えない。


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 その様子を。


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 少し離れた場所から。


⸻


 朝倉が見ていた。


⸻


 悠は気付かない。


⸻


 朝倉は。


⸻


 初めて見た。


⸻


 神代悠が。


⸻


 誰にも見せない顔で。


⸻


 静かに涙を流している姿を。


⸻


 その涙は。


⸻


 声もなく。


⸻


 ただ一筋だけ。


⸻


 頬を伝って落ちた。

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