追いかけない
放課後。
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屋上には。
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誰もいなかった。
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朝倉は。
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ベンチに一人座っていた。
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「……。」
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缶ジュースは。
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まだ半分も減っていない。
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「私。」
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「間違えたかな。」
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独り言。
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答える人はいない。
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神代君は。
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苦しそうだった。
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だから。
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助けたかった。
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でも。
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近付いたら。
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傷付けてしまった。
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「ごめん。」
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小さく呟く。
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その時。
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「それでいい。」
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聞き慣れない声。
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振り向く。
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如月零だった。
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「転入生……。」
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朝倉は立ち上がる。
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「何?」
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如月は屋上のフェンスにもたれる。
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「追いかけなくて正解だ。」
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「え?」
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「今の神代は。」
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「追われると逃げる。」
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朝倉は眉をひそめる。
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「どうしてそんなこと分かるの?」
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如月は少しだけ目を細めた。
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「知ってるから。」
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「神代のこと。」
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「……。」
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「昔から?」
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数秒。
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沈黙。
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「そうだ。」
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「でも。」
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「本人は覚えていない。」
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「どういう意味?」
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如月は答えない。
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ただ。
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空を見上げる。
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「時間がない。」
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「……?」
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「神代が全部思い出す前に。」
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「俺は。」
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そこで言葉を止める。
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「いや。」
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「まだ早いか。」
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そのまま屋上を後にした。
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朝倉だけが。
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取り残された。
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◇
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一方。
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悠は。
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誰もいない旧校舎へ来ていた。
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静かだった。
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誰もいない場所。
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今は。
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そこが一番落ち着く。
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「最低だな。」
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壁にもたれる。
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「朝倉さんに。」
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「怒鳴るなんて。」
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頭を抱える。
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また。
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思い出す。
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あの小さな手。
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血。
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泣き声。
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「やめろ。」
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「思い出すな。」
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耳を塞ぐ。
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それでも。
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声は止まらない。
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『悠。』
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『助けて。』
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『置いていかないで。』
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「違う!!」
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拳を壁へ叩き付ける。
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ドンッ!!
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古い壁が。
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大きくひび割れた。
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「……。」
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悠は。
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自分の拳を見る。
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傷一つない。
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「また……。」
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力が。
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勝手に。
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◇
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その様子を。
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廊下の角から。
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一人だけ見ている者がいた。
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如月零。
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「やっぱり。」
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「抑え切れなくなってる。」
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静かな声。
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「限界だ。」
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ポケットから。
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一枚の古い写真を取り出す。
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そこには。
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二人の少年が写っていた。
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一人は。
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幼い悠。
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もう一人は。
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写真の端だけが。
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破り取られていた。
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「……。」
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如月は写真を見つめる。
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「約束。」
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「守れなくてごめん。」
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その表情は。
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初めて。
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悲しそうだった。
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◇
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夜。
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悠は部屋で。
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机の引き出しを開ける。
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奥にある。
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裏返しの写真。
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今日は。
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手が止まらなかった。
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震えながら。
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ゆっくり。
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写真を表に返す。
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そこには。
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笑顔の子どもが二人。
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一人は。
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間違いなく。
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幼い自分だった。
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「……え。」
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もう一人の顔を見た瞬間。
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悠の呼吸が止まる。
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「……如月?」
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その写真は。
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十年以上前に撮られたものだった。




