思い出すな
保健室。
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「神代!」
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「しっかり!」
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目を開ける。
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白い天井。
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消毒液の匂い。
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「……先生。」
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「気が付いた?」
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養護教諭が安堵したように笑う。
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「急に倒れたのよ。」
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倒れた。
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そうか。
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あの後。
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何も覚えていない。
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「気分は?」
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「……大丈夫です。」
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また。
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笑う。
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先生は少し困った顔をした。
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「本当に?」
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「はい。」
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また嘘。
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◇
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保健室を出る。
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廊下。
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夕方。
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誰もいない。
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静かだった。
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「……。」
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頭が痛い。
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ズキ。
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ズキ。
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ズキ。
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その度に。
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知らない景色が浮かぶ。
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鉄の扉。
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赤い床。
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誰かの泣き声。
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「違う。」
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「思い出すな。」
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思わず口に出た。
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「何を?」
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後ろから声。
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振り返る。
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朝倉だった。
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「神代君。」
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「一人で喋ってた。」
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「あ……。」
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「いや。」
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「独り言。」
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笑う。
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朝倉は笑わない。
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「また。」
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「その笑顔。」
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胸が痛む。
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「今日は。」
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「やめてもいいよ。」
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「……。」
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何も言えない。
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「無理なら。」
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「笑わなくても。」
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悠は目を逸らした。
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「出来ない。」
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小さく。
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本当に小さく。
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そう答えた。
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◇
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その頃。
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屋上。
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如月零は一人立っていた。
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夕日を見つめながら。
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「思い出しかけた。」
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小さく呟く。
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「予定より早い。」
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屋上の扉が開く。
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「いたか。」
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一人の教師。
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「転入初日から問題を起こすな。」
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如月は振り返らない。
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「問題?」
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「俺は何もしてません。」
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「神代が勝手に倒れただけです。」
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「……。」
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教師は如月を見つめる。
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「君は。」
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「神代を知っているのか。」
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数秒の沈黙。
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そして。
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「知っています。」
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「誰よりも。」
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教師の表情が変わる。
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「どういう意味だ。」
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「まだ言えません。」
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「でも。」
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如月は空を見上げた。
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「あと少しで。」
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「全部思い出します。」
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「彼は。」
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◇
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夜。
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悠の部屋。
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机の上。
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昨日の紙。
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『やっと見つけた。』
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その横に。
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新しい紙が置かれていた。
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「……!」
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慌てて部屋を見回す。
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誰もいない。
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窓も閉まっている。
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震える手で紙を開く。
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そこには。
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『思い出すな。』
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たった四文字。
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裏返す。
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何も書いていない。
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でも。
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悠には分かった。
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昨日の紙とは。
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筆跡が違う。
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一人じゃない。
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二人いる。
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一人は。
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『やっと見つけた。』
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もう一人は。
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『思い出すな。』
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正反対の言葉。
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正反対の意思。
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悠は紙を握り締める。
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「一体……。」
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誰が。
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何のために。
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僕の記憶を。
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その夜。
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また夢を見る。
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今度は。
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暗闇ではなかった。
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小さな部屋。
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誰かが笑っている。
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そして。
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知らない少年の声が響いた。
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『悠。』
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『絶対に。』
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『思い出すな。』
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そこで夢は終わった。




