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壊れた僕は、今日も笑う。  作者: ニィギンヤ


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14/79

見つけた

 避難誘導は。


⸻


 十分ほどで終わった。


⸻


 幸い。


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 大きな怪我人はいない。


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 崩れた壁も。


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 訓練用の結界が暴走しただけだったらしい。


⸻


 教室には。


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 安堵の空気が流れていた。


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「怖かったぁ……。」


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「寿命縮んだ。」


⸻


「神代、本当にありがとな。」


⸻


「いや。」


⸻


「みんな無事で良かった。」


⸻


 笑う。


⸻


 いつも通り。


⸻


 その笑顔を見ても。


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 誰も違和感を覚えない。


⸻


 ……一人を除いて。


⸻


 ◇


⸻


 職員会議室。


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「結界の暴走?」


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 担任が眉をひそめる。


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「原因は?」


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「まだ不明です。」


⸻


「外部から干渉された可能性があります。」


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 教師たちの表情が変わる。


⸻


「侵入者か。」


⸻


「現在、学園内を捜索中です。」


⸻


 ◇


⸻


 放課後。


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 校門。


⸻


「神代君。」


⸻


 朝倉が追い掛けてきた。


⸻


「一緒に帰ろ。」


⸻


「うん。」


⸻


 二人で歩く。


⸻


 今日は。


⸻


 珍しく朝倉も何も話さない。


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 沈黙だけが続く。


⸻


「……さっき。」


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 ようやく口を開いた。


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「怖かった?」


⸻


 悠は少しだけ笑う。


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「うん。」


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「正直。」


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「すごく怖かった。」


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「でも。」


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「逃げなかった。」


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「逃げられなかった。」


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 朝倉はその言葉を聞いて。


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 何も返せなかった。


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 その”逃げられなかった”には。


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 何か別の意味がある。


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 そんな気がした。


⸻


 ◇


⸻


 帰宅。


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 玄関。


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 靴を脱ぐ。


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 鍵を閉める。


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 静かだ。


⸻


 静かすぎる。


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 その時。


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 カタン。


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 部屋の奥から。


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 小さな音がした。


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 息が止まる。


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「……誰?」


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 返事はない。


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 一歩。


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 また一歩。


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 リビングへ向かう。


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 誰もいない。


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「気のせい……?」


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 そう思った。


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 机の上を見るまでは。


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 一枚の紙。


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 さっきまで。


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 そこには無かった。


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 震える手で拾う。


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 白い紙。


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 たった一行だけ。


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『やっと見つけた。』


⸻


 頭の中が真っ白になる。


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 誰が。


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 どうやって。


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 鍵は閉まっていた。


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 窓も閉まっている。


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 なのに。


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 紙だけが置かれていた。


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 次の瞬間。


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 バサッ。


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 カーテンが揺れた。


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 風は吹いていない。


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 悠は勢いよく窓を開ける。


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「誰だ!」


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 外には。


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 誰もいなかった。


⸻


 ◇


⸻


 同じ頃。


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 学園から少し離れたビルの屋上。


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 黒いフードの人物が。


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 街を見下ろしていた。


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「笑っている。」


⸻


 小さく呟く。


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「まだ。」


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「ちゃんと笑えるんだな。」


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 その声は。


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 どこか懐かしそうだった。


⸻


「でも。」


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 ゆっくりと口角が上がる。


⸻


「今度こそ。」


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「思い出してもらおう。」


⸻


「全部。」


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 フードの奥で。


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 その人物は静かに笑った。


⸻


 ◇


⸻


 夜。


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 ベッドに横になる。


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 眠れない。


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 机の上には。


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 あの紙。


⸻


『やっと見つけた。』


⸻


 その文字だけが。


⸻


 頭から離れない。


⸻


「誰なんだ……。」


⸻


 答えはない。


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 ただ。


⸻


 胸の奥で。


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 忘れたはずの記憶が。


⸻


 ゆっくりと。


⸻


 軋み始めていた。

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