非常ベル
キーンコーン――。
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四時間目終了の鐘が鳴る。
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「やっと昼だ!」
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「腹減ったー!」
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教室はいつもの騒がしさを取り戻す。
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僕も席を立つ。
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「神代、学食!」
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「今日こそカツ丼勝負!」
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「勝負って何。」
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笑い声が広がる。
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その時だった。
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――ビーッ!!
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突然。
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耳を裂くような警報が鳴り響いた。
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教室が静まり返る。
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「な、何?」
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「火事?」
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放送が流れる。
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『全生徒は教室で待機してください。繰り返します――』
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途中で途切れた。
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ノイズだけが響く。
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ザザッ……
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ザザザ……
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嫌な静けさ。
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先生の表情が変わる。
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「全員、その場を動くな。」
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その一言で。
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教室の空気が張り詰めた。
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窓の外を見る。
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校庭。
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教師たちが慌ただしく走っている。
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何かがおかしい。
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胸騒ぎがした。
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ドン!!
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校舎全体が揺れた。
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「きゃあっ!」
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女子生徒の悲鳴。
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天井から砂埃が落ちる。
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誰かが転ぶ。
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教室は一気に混乱した。
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「落ち着け!」
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担任が叫ぶ。
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でも。
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誰も動けない。
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その時。
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廊下から。
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「助けて!」
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小さな声。
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子ども……?
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違う。
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一年生だ。
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泣いている。
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その声を聞いた瞬間。
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心臓が止まりそうになる。
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『たすけて』
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まただ。
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頭の奥で。
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別の声が重なる。
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息が苦しい。
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視界が揺れる。
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「神代!」
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朝倉の声。
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「大丈夫?」
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「……。」
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大丈夫じゃない。
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でも。
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笑う。
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「うん。」
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その瞬間。
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廊下の壁が崩れた。
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瓦礫。
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悲鳴。
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一人の女子生徒が下敷きになる。
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「危ない!」
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考える前だった。
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身体が動く。
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瓦礫へ飛び込む。
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重いコンクリートを押し上げる。
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普通なら。
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持ち上がる重さじゃない。
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それでも。
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持ち上がった。
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「今だ!」
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女子生徒を引き寄せる。
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安全な場所へ押し出す。
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次の瞬間。
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瓦礫が崩れ落ちる。
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あと一秒遅ければ。
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助からなかった。
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「神代!」
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クラス中が息を呑む。
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「ありがとう……!」
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泣きながら頭を下げる女子生徒。
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僕は。
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ただ笑った。
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「無事でよかった。」
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それだけ。
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でも。
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朝倉だけは見ていた。
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瓦礫を持ち上げた時。
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悠の腕が。
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小刻みに震えていたことを。
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そして。
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その瞳には。
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“恐怖”しか映っていなかったことを。
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窓の外。
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校舎の屋上に。
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一人の黒いフードを被った人物が立っていた。
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「……見つけた。」
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小さく呟く。
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その視線は。
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まっすぐ。
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神代悠へ向けられていた。




