保健室
保健室。
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「神代。」
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「座りなさい。」
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養護教諭が椅子を指した。
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「はい。」
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素直に腰を下ろす。
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「貧血じゃないでしょう?」
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ドキッとする。
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「顔に書いてある。」
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優しく笑う先生。
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その笑顔が。
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少し苦手だった。
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「最近。」
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「眠れてる?」
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「……はい。」
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嘘。
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「食事は?」
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「ちゃんと。」
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嘘。
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「悩み事は?」
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「ないです。」
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また。
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嘘。
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先生はカルテを閉じた。
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「神代。」
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「一つだけ。」
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「無理はしないこと。」
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笑う。
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「大丈夫です。」
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「僕、丈夫なんで。」
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また。
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先生は少し寂しそうに笑った。
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「そういう子ほど。」
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「突然倒れるのよ。」
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返事が出来なかった。
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◇
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放課後。
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体育館。
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自主練習。
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「神代!」
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「一本勝負!」
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「いいよ。」
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木刀を構える。
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相手は二年生。
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「一年でここまで強いって噂、本当か?」
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「そんな強くないですよ。」
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開始。
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一歩。
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二歩。
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三歩。
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全部見える。
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攻撃。
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癖。
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呼吸。
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全部。
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「……。」
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木刀を軽く払う。
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勝負は。
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三十秒も掛からなかった。
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「参った。」
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二年生が笑う。
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「いや、お前。」
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「本当に一年か?」
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「たまたまです。」
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また笑う。
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その様子を。
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体育館二階。
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教師達が見ていた。
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「どう思います?」
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一人が尋ねる。
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担任は腕を組む。
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「不自然だ。」
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「不自然?」
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「あの生徒。」
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「勝ち方を知っている。」
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「訓練された人間の動きだ。」
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「だが。」
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「本人は隠そうとしている。」
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沈黙。
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「調べますか?」
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「……いや。」
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「本人が話すまで待とう。」
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「無理に聞けば。」
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「壊れる。」
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◇
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帰り道。
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雨。
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傘を差す。
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ぽつ。
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ぽつ。
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「神代君。」
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朝倉だった。
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「傘。」
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「入る?」
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「あ、ありがとう。」
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二人で歩く。
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静かな帰り道。
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「ねぇ。」
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「神代君。」
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「何?」
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「笑うの。」
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「疲れない?」
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雨音だけが響く。
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答えられない。
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何秒経っただろう。
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ようやく。
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「もう。」
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「慣れたから。」
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それだけ。
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朝倉は歩みを止める。
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「慣れちゃ駄目だよ。」
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その一言が。
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胸に刺さる。
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慣れたんじゃない。
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そうしないと。
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生きられなかっただけだ。
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でも。
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そんなこと。
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言えるわけがない。
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「ありがとう。」
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笑う。
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いつもの笑顔。
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朝倉は。
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初めて。
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少しだけ怒ったような顔をした。
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「……また。」
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「笑った。」
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悠は何も言えなかった。
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雨は。
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少しだけ。
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強くなっていた。




