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私はメイドです!〜お嬢様の世界征服に巻き込まれた哀れな日々〜  作者: ほしみん
第一章 国内改革

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第83話 小競り合い〜アルブレヒト視点〜

翌朝。


空は快晴だった。雲一つない青空が広がり、風がなだらかな丘陵を吹き抜けていく。


進軍を再開してまもなく、斥候が駆け戻ってきた。


「殿下、前方に帝国軍を発見しました」


俺は馬を進めた。


「どこだ」


「あの丘の上です。……風上ですな」


丘陵の上に、小さな人影が見える。数は……1000もいないように見えた。


──やっと出てきたか。


「殿下、地形が悪うございます。こちらは風下、しかも登り坂」


将軍が眉をひそめる。だが、俺は鼻で笑った。


「臆病なことを言うな。数を見ろ。我が軍は5万だ」


5万対1000。勝負になるはずがない。


「しかし殿下、地形の不利は──」


「だからこそ、まず偵察だ。先遣隊を出せ。敵の出方を見る」


将軍は何か言いたげだったが、最終的には頷いた。


「……御意」



先遣隊が丘に向かって前進する。


200名の精鋭だ。丘を登り、敵陣の様子を探る──それだけの任務。危険はあるまい。帝国の主力は1000程度。連弩を構えた我が軍に、まともに立ち向かえるはずがない。


本陣から、その様子を見守る。


「順調ですな」


将軍が呟く。


「あと少しで敵陣に──」


その時だった。


乾いた音が、連続して響いた。


パン、パン、パン──


「……何だ、今の」


俺は眉をひそめた。


先遣隊の動きが、おかしい。人が倒れている。一人、また一人。


「何が……」


将軍が言葉を失う。


兵士たちが散り散りに逃げ始めた。悲鳴が、風に乗って聞こえてくる。


「何をしている! まだ敵陣には届いていないはずだ!」


連弩の射程は50歩ほど。まだ丘の中腹にも達していない。なのに、なぜ──


遠目に見ても、明らかに異常だった。先遣隊は逃げ惑い、次々と倒れていく。敵の姿は、丘の向こうに隠れて見えない。


──何が起きている。



「殿下! 先遣隊が壊走しました!」


息を切らせた兵士が、本陣に転がり込んできた。全身汗まみれで、顔は蒼白だ。


「……何があった。報告しろ」


「わかりません……何が起きたのか……」


兵士は震えていた。まともに言葉が出てこない。


「敵の姿が見えないんです……丘の上には誰もいなかった……」


「見えない?」


「なのに、仲間が次々と倒れて……矢じゃない……矢じゃないんです……」


「何を言っている」


「穴が空くんです、胸に……小さな、丸い穴が……」


兵士の目が、恐怖に見開かれていた。


「でも背中は……背中は弾けてるんです……中身が……」


「……」


「矢なら見えます。矢なら避けられます。でも、これは……何が飛んできたのかすら……」


兵士は声を震わせた。


「丘の上に……小さな人影が見えました……あんな遠くから……連弩の何倍も遠くから……」


──馬鹿な。


そんな武器があるはずがない。


「……何人やられた」


「200名ほどが……全滅です」


将軍が報告する。その声も、どこか震えていた。


「敵の損害は」


「……確認できた限り、ゼロです」


──ゼロ?


200対0?


「馬鹿な。そんなことがあるか」


俺は声を荒げた。


「あの臆病者どもが、戦わずに逃げ出しただけだ!」


「しかし殿下、この者の報告が事実なら──」


「事実なものか! 見ろ、この男を! 恐怖で錯乱している!」


生き残りの兵士は、何も言い返せなかった。ただ震えているだけだった。


「殿下、敵の武器を調査すべきでは──」


将軍が進言する。だが俺は首を横に振った。


「本隊で押しつぶす。数の前には、小細工など無意味だ」


5万だ。


5万の軍勢がいる。


200人の臆病者が逃げ帰っただけで、何を恐れる必要がある。


──あの丘を、蹴散らしてやる。


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