表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私はメイドです!〜お嬢様の世界征服に巻き込まれた哀れな日々〜  作者: ほしみん
第一章 国内改革

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/125

第81話 ノルデンの王子〜アルブレヒト視点〜

俺の名はアルブレヒト。ノルデン王国の王子だ。


今年で18になる。父上──ヴィルヘルム3世の跡を継ぎ、いずれはこの国を背負う立場にある。


だが、その父上は──


3年前のあの日から、父上は変わってしまった。


かつての父上は、誇り高きノルデンの王だった。


幼い頃の記憶がある。軍事演習を見学した時、父上は自ら馬を駆り、先頭で剣を振るっていた。兵士たちの歓声が上がる中、俺は母上の隣で目を輝かせていた。


「いつか俺も、父上のように」


そう思った。ノルデンの王とは、ああいうものだと信じていた。


ノルデンと帝国。


この二つの国は、100年以上も戦い続けてきた。


幼い頃、父上から何度も聞かされた話がある。


「いいか、アルブレヒト。我がノルデンと帝国は、100年前から雌雄を決することができずにいる」


「100年……」


「そうだ。取ったり取られたり。国境線は何度も動いた。講和のたびに、双方が『勝った』と主張する。だが本当の決着は、一度もついていない」


父上の目は、炎のように燃えていた。


「俺の代で、終わらせる」


「終わらせる……?」


「ああ。誰も文句を言えない、完全な勝利でな」


それが父上の──いや、代々のノルデン王の悲願だった。


祖父も、曽祖父も、その前の王も。皆が「いつか決着を」と誓い、そして果たせずに死んでいった。


俺もまた、物心ついた頃からその話を聞かされて育った。帝国は宿敵だ。いつか必ず倒さねばならない相手だ、と。


5年前には、父上自身が軍を率いて国境で戦った。結果は──またも引き分け。双方が「勝利」を宣言して終わった。


だが父上は諦めなかった。


「次こそは」


そう言って、軍備を増強し続けた。


即位して10年。父上は国力を上げ、軍を強くし、民からは「名君」と呼ばれるようになった。100年の因縁に決着をつける──その野望を、俺は誇りに思っていた。


なのに今は──



3年前、父上は自ら2万の軍を率いて帝国に侵攻した。


帝国では王族がほぼ全滅し、残ったのは2歳の幼帝と、6歳の摂政だけ。千載一遇の好機だった。父上は意気揚々と出陣し、俺は城で吉報を待っていた。


だが、戻ってきた父上は──別人だった。


顔色は土気色で、目は虚ろ。何があったのかと尋ねても、答えない。ただ震えていた。


「父上、何があったのですか」


「……」


「戦は……どうなったのですか」


「……3年の停戦だ」


それだけ言って、父上は自室に籠もった。


後から聞いた話では、父上は帝国軍に捕らえられたらしい。そして──あの6歳の摂政に、何かをされた。何をされたのかは、誰も知らない。父上が語らないからだ。


ただ、戻ってきた時の父上の様子だけが、兵士たちの間で囁かれていた。


「陛下は……様子がおかしかった」

「何事もなく送り返されてきたらしいが……」

「何があったんだ」

「わからん。だが……まるで別人のようだったそうだ」



それから3年。


父上は変わってしまった。いや、壊れてしまった、と言うべきか。


かつては毎日のように軍事演習に顔を出していた。兵士たちと酒を酌み交わし、共に汗を流した。だが今は、城から出ようとしない。


「父上、軍の視察に行きましょう」


「……いや、今日はいい」


「では明日は」


「……また今度だ」


その「また今度」が来ることはなかった。


帝国の話題が出ると、父上の手が震える。摂政の名前が出ると、顔から血の気が引く。


一度、俺は父上に詰め寄ったことがある。


「父上、何があったのですか。教えてください」


「……」


「敵を知らねば、戦えません。あの摂政は、一体何者なのですか」


「……お前は知らなくていい」


「父上!」


「知らなくていいんだ……あれは……あれは……」


そこで言葉が途切れた。父上の目に、恐怖の色が浮かんでいた。


40を過ぎた大人の男が。一国の王が。戦場を駆け抜けてきた歴戦の勇士が。


6歳の──いや、今は9歳か──小娘の話をするだけで、震えている。


俺は、その姿に失望した。




民の間では、父上への評価が変わり始めていた。


「陛下は臆病風に吹かれたのでは」

「3年前の戦で、何かあったらしい」

「帝国の小娘に怯えているとか」

「情けない話だ」


宮廷でも、似たような空気が流れていた。重臣たちは表向き忠誠を誓っているが、その目には失望が滲んでいる。


このままでは、ノルデンは内側から崩れる。


俺は決意した。父上がやらないなら、俺がやる。


3年間、俺は準備を進めた。軍の再編、兵器の改良、兵站の確保。父上が城に籠もっている間、俺は将軍たちと話し合い、計画を練った。


5万の軍勢。3000挺の改良型連弩。1000騎の重装騎兵。


父上が失った誇りを、俺が取り戻す。



そして停戦期限の前日。


俺は父上の部屋を訪れた。


「父上、停戦期限は明日です」


父上は窓の外を見たまま動かない。背中が小さく見えた。3年前までは、あんなに大きかったのに。


「軍は準備完了しております。5万の兵が国境に集結しました」


「……」


「父上?」


「……本当にやるのか」


振り向いた父上の目は、どこか虚ろだった。


「やらねばなりません。これはノルデンの誇りの問題です」


「……お前は、あの子を知らない」


「たかが小娘でしょう? 子供です」


「違う……あれは……」


言葉が途切れる。父上の手が、微かに震えていた。


──また、これだ。


3年間、ずっとこうだ。「あの子を知らない」「お前にはわからない」。そう言うばかりで、何も教えてくれない。


「父上、何をされたのですか」


「……」


「3年間、ずっと聞いています。教えてください。敵を知らねば──」


「知らなくていい」


「なぜですか!」


俺は声を荒げた。


「俺は王子です! いずれこの国を継ぐ身です! なのに、なぜ何も教えてくださらないのですか!」


父上は、ゆっくりと俺を見た。


その目に浮かんでいたのは──恐怖でも、怒りでもなかった。


悲しみだった。


「……お前には、あんな目に遭ってほしくないんだ」


「……父上」


「行くな、アルブレヒト。頼むから……」


その声は、王のものではなかった。ただの、怯えた父親の声だった。


俺は、父上の言葉を振り切った。


「父上。私が必ず勝利を持ち帰ります」


「……」


「ノルデンの誇りを、取り戻してみせます」


父上は何も言わなかった。ただ、窓の外を見つめていた。



国境に集結した5万の軍を見渡した。


壮観だった。


「殿下、ご覧ください。新型の連弩です」


将軍が差し出したクロスボウは、従来のものより一回り大きい。


「改良を重ね、装填速度が3倍になりました。これなら騎兵が突撃する前に3射できます」


「素晴らしい。数は?」


「3000挺。弩兵全員に行き渡っております」


さらに、重装騎兵の列が目に入る。鋼鉄の板金鎧が陽光を反射して輝いていた。


「鍛冶師を総動員して作らせました。この鎧を貫ける武器は、この大陸には存在しません」


「……見事だ」


5万の兵。3000挺の連弩。1000騎の重装騎兵。


父上が怯えていた帝国など、この軍の前では塵に等しい。


──9歳の小娘が何をできる。



翌朝。


俺は5万の軍の先頭に立った。


「……死ぬなよ」


見送りに来た父上は、それだけ言った。かつてなら自ら先陣を切っていたはずの人が、城に残る。


その目は、まだ虚ろだった。でも──どこか、悲しそうにも見えた。


「行ってまいります」


振り返らなかった。振り返りたくなかった。


──待っていろ、帝国。


父上を壊したあの小娘を、俺が倒す。


ノルデンの誇りを、俺が取り戻す。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ