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私はメイドです!〜お嬢様の世界征服に巻き込まれた哀れな日々〜  作者: ほしみん
第一章 国内改革

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第61話 【技術回】ドリルとフライス盤〜ギュンター視点〜

※作者の趣味で技術蘊蓄が延々と続きます。興味ない方は遠慮なく飛ばしてください。


軸は完璧になった。


旋盤のおかげで、ガタつきはなくなった。歯車はスムーズに回っている。


でもよ……問題は歯車の歯だ。


俺は木製の歯車を手に取った。


「歯車がな、木だとどうしても摩耗する。使ってるうちに歯が欠ける」


歯車の歯を指でなぞる。もう何本か、角が丸くなり始めている。


「鉄で作りてえんだ。この前嬢ちゃんにも言われたしな──旋盤じゃ歯車の歯は作れねえって」


「鉄の歯車は作れないんですか?」


「作れなくはねえ。一本ずつヤスリで削りゃあな」


俺は首を振った。


「でも途方もねえ時間がかかる。しかも精度が出ねえ」


一本の歯を削るのに何時間もかかる。それを何十本も。気が遠くなる。


「旋盤みてえに、機械で歯を削れねえもんかな……」



「ギュンター。何を悩んでいるの」


嬢ちゃんが工場に姿を見せた。


「歯車の歯を機械で削りてえんだが……」


「旋盤では?」


「無理だ。旋盤は丸いもんしか作れねえ」


「なぜ?」


「回転させるからだ。回転させたら、丸くなっちまう」


当たり前のことだ。回転してるもんに刃を当てりゃ、丸くなる。


「じゃあ、別のものを回転させましょう」


「……は?別のもの……?」


何を言ってるんだ、この嬢ちゃんは。


「旋盤は、材料を回して刃を当てる。でも歯車の歯は丸くしたくない」


「ああ」


「なら、材料は回さない。代わりに──」


待て。


材料を回さない。


代わりに──


「……待て」


「気づいた?」


「刃を……回すのか?」


「正解」


そうか。材料じゃなく、刃を回す。


発想の転換だ。


嬢ちゃんが図を描いた。


回転する円盤状の刃。その下に、固定された材料。


「回転する刃を材料に当てて、横に動かす。そうすれば溝が削れる」


「溝……歯車の歯の間の溝か!」


「そう。これを『フライス盤』と呼ぶわ」


頭の中で設計が組み上がっていく。


「待て、ちょっと考えさせろ」


腕を組んで、図を睨みつけた。


「刃を回すのは……水車の力でいける」


「……」


「材料を固定して、少しずつ動かす……」


「……」


「歯の間隔を一定にするには……」


「割り出し台を使うのよ」


「割り出し台?」


「材料を正確な角度で回転させる台。歯の数だけ等分に割り出せる」


なるほど。歯を10枚作りたきゃ、一周を10等分して、ちょっとずつ回せばいいってことか。


「……それなら均等な歯が作れる」





数週間後。


俺は歯車を手にしていた。


鉄の歯車。一つ一つの歯が、正確に刻まれている。


「見ろ」


二つの歯車を噛み合わせる。


滑らかに回転する。木の歯車とは比べ物にならない精度だ。


「……できた」


声が震えた。自分でも分かる。


鉄の歯車。精密な歯車。


手作業じゃ絶対に作れなかったもんが、ここにある。


「嬢ちゃん!」


「何?」


「これで何でも作れる!」


興奮が抑えられねえ。


「何でも?」


「歯車だけじゃねえ。溝が必要なもんは全部だ!」


「……」


「鍵の溝も、レールの溝も、何でもだ!」


「……」


「フライス盤すげえ!!」


三度目の「すげえ」だった。自分でも分かってる。


でも、言わずにいられねえ。


ふと、思いついた。


「……待てよ」


「何?」


「刃を回して溝を削れるなら……刃を回して押し付けりゃ、穴も開くんじゃねえか?」


嬢ちゃんが微笑んだ。


「あら、気づいた?」


「回転する刃を押し付けりゃ、丸い穴が開く……」


「それをドリルと呼ぶわ」


ドリル。


今まで錐でチマチマやってた仕事が、一瞬で終わる。


「フライス盤とドリル……刃を回すだけで、こんなに広がるのか」


「ねえ、ギュンター」


「ん?」


「旋盤とフライス盤。この二つが揃って、何ができるか分かる?」


俺は考えた。


「……丸いもんと、溝があるもんが作れる」


「それだけ?」


それだけ?


丸いもんと、溝があるもん。


軸、歯車、ネジ、ボルト、ナット──


「機械を作る機械、よ」


「……!」


「旋盤とフライス盤があれば、新しい機械の部品が作れる。つまり──」


「機械が機械を生む……」


「そういうこと」


機械を作る機械。


旋盤で軸を作る。フライス盤で歯車を作る。その軸と歯車で、新しい機械を組み立てる。


新しい機械で、また別のものを作る。


終わりがねえ。


どこまでも広がっていく。





夜、一人で工場に残った。


旋盤とフライス盤を眺める。


俺が作った機械。嬢ちゃんの知恵と、俺の腕で生まれた機械。


「機械が機械を生む……か」


この先、何が生まれるんだろう。


俺には想像もつかねえ。


でも──楽しみだ。


嬢ちゃんの頭の中には、きっともっと色々なもんが見えてる。


俺はそれを形にする。


それが俺の仕事だ。


職人として──いや、もう職人って言葉じゃ足りねえな。


何て呼べばいいんだろう。


まあ、名前なんかどうでもいい。


作るのは俺だ。それだけで十分だ。


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