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私はメイドです!〜お嬢様の世界征服に巻き込まれた哀れな日々〜  作者: ほしみん
第一章 国内改革

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第106話 法治国家〜アルブレヒト視点〜

視察から戻った。


部屋に一人、座っている。


恐ろしい。情実なく切り捨てる君主。味方だろうが、長年仕えてきた家臣だろうが、関係ない。不正を働けば──切る。


窓の外を見る。帝都の夜景が広がっている。この街の下で、今も処遇が続いているのだろう。


今日見た光景が、頭から離れない。





朝、シャルロッテに呼び出された。


「アルブレヒト、今日は見学よ」


「見学……ですか」


「廃藩置県の処遇。帝国貴族たちがどう扱われるか、見ておきなさい」


俺は頷いた。断る選択肢はない。


見せたいのか。ノルデンだけじゃない──帝国も同じだと。


処遇の現場は、官庁街の一室だった。


部屋の隅に立っていた。クラウスが机の向こうに座り、貴族が一人ずつ呼び出される。


最初の一人。年配の貴族だった。戦時中、ノルデンとの国境で指揮を執っていた家だ。


「……中央官僚で」


「承知しました」


署名。退出。次の一人が入ってくる。


淡々としている。怒鳴る者もいれば、黙って署名する者もいる。でも結果は同じだ。領地を失い、処遇を受け入れる。


何人目かも分からなくなった頃──見覚えのある顔が入ってきた。


第二次ノルデン戦争の時、帝国軍の先頭で旗を振っていた男。「帝国万歳!」と叫んでいた。


「クラウス卿、私は──」


「選択を」


「しかし、私は帝国のために──」


「選択を」


貴族の顔が歪んだ。でも──署名した。


「……名誉職で」


「承知しました」


退出していく背中を、俺は見つめていた。


あの男が。「帝国万歳」と叫んでいた男が。こんな風に──処理されていく。


ノルデンを滅ぼした時は、まだ分かった。敵だから。父上も、俺も、敵だったから。


でも……帝国の貴族たちは、代々仕えてきた家臣だろう。味方だったはずだろう。それを──あんな風に。


背筋が冷たくなった。


この君主は、味方すら容赦なく切り捨てる。敵だから切るんじゃない。不要なら切る。不正なら切る。


いつ自分も切られるか分からない。


一区切りついて、クラウスが立ち上がった。窓際に移動し、外を見ている。


俺は──声をかけた。


「ノルデンだけじゃなくて、自国内も冷酷に切るんですね」


「……」


「あなたは、どう思っているんですか」


クラウスは振り返らない。しばらく沈黙があった。


「……私も、最初は戸惑った」


「……」


「でも、だからこそ公正なんだ」


「敵も味方も関係ない。ノルデンだから切る、帝国だから残す──そういう贔屓がない」


「不正を働けば裁かれる。それだけだ」


俺は──言葉を噛み締めていた。


公正。敵も味方も関係ない。


ノルデンの俺たちは、敵として扱われた。帝国の貴族たちも、同じように扱われている──不正を働いた者は。


差別がない。贔屓がない。それを、「公正」と呼ぶのか。


ドアが開いた。次の貴族が入ってくる。


クラウスが席に戻った。俺は──また壁際に立った。


処遇は、まだ続いていた。




今日の出来事を部屋に戻って、一人で考えている。


恐ろしい。でも──待てよ。


考えを整理する。


不正をしていない貴族も、領地を取られていた。放送で名前が呼ばれなかった者も、同じように処遇を受けていた。


法を守っていても──領地は持っていかれた。


椅子から立ち上がり、部屋を歩く。


でも──殺されなかった。選択肢があった。


中央官僚として働くか、名誉職に退くか。命と機会は、残されていた。


敵でも味方でも同じ基準。ノルデンだから切る、帝国だから残す──そういう贔屓がない。クラウスはそう言っていた。


逆に言えば。敗戦国の王子でも──誠実に働けば出世できる。領地はなくても、道はある。


足を止めた。


これが……法治国家か。


土地を持つことが貴族の証だった。でも──この国では違う。能力で評価される。実績で評価される。


厳しいけど──分かりやすい。


封建制から中央集権国家……とでも言うのだろうか。


領主が領民を治める──それが当たり前だった。父上の代も、祖父の代も、そのまた前も。それが──終わる。


一つにまとめることで、ルールの統一化ができる。不正を減らせる。大局的に見れば合理的で、誠実なのだ。


貴族目線で言えば不条理なだけで。


窓辺に立つ。遠くに、旧ノルデンの方角があるはずだ。


父上。あなたの選択は──正しかったのかもしれない。


この君主に逆らい続けたら、ノルデンは根こそぎ消えていた。民も、文化も、言葉も。テルミットとダイナマイトで、何も残らなかった。


降伏したから──まだ俺たちはここにいられる。ノルデンの民は、今も生きている。


目を閉じる。


悔しいけど。認めたくないけど。父上の判断は──間違っていなかった。


ベッドに腰を下ろす。クラウスの顔が浮かぶ。


俺は「される側」で戸惑っただけだ。領地を奪われ、処遇を受ける側。


でも──あの人は「する側」だ。しかも、自分の仲間に対して。かつての知己に向かって、「選択を」と言い続ける。


処遇の部屋で見た光景を思い出す。クラウスは淡々としていた。でも──本当に何も感じていないのか?


「私も、最初は戸惑った」


あの人は、そう言っていた。


ルールは明快でも、旧知の顔に向かってそれを告げるのは──それでも淡々とやり遂げた。迷いがなかったわけじゃないのに。


果たして俺にできるだろうか。


クラウスの、あの立場になったとき──淡々と職務を遂行できるだろうか。


かつての友人に向かって、「選択を」と言えるだろうか。恨み節を黙って聞いて、それでも折れずにいられるだろうか。


分からない。でも──クラウスはそれをやっている。


あの人は──強い。強いというか……芯がある。何を信じているのか、分かっているんだ。だから折れない。


「公正だから」


「敵も味方も関係ないから」


それが、あの人の芯なんだ。


いつの間にか、夜が明けようとしていた。窓の外が、少しずつ白んでいく。


俺は──どうする。このまま、ただ従うのか。それとも──


……いや。従うとか、従わないとか、そういう話じゃない。


ルールを守る。誠実に働く。それだけだ。


シンプルなはずだ。法治国家とは、そういうものだ。


立ち上がる。新しい一日が始まる。


クラウスのようになれるかは分からない。でも──目指してみてもいいかもしれない。あの人の背中を。


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