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私はメイドです!〜お嬢様の世界征服に巻き込まれた哀れな日々〜  作者: ほしみん
第一章 国内改革

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第105話 クラウスと貴族〜クラウス視点〜

部屋は簡素だった。


机が一つ、椅子が二つ。窓からは、帝都の街並みが見える。


私──クラウスは、机の向こう側に座っている。これから、貴族たちが一人ずつ呼び出される。処遇を選ばせる役目だ。


中央官僚として働くか、名誉職への退任か。二択を迫る。簡単な仕事だ──表面上は。


ドアが開いた。最初の一人が入ってくる。





入ってきたのは──見知った顔だった。


ブラント伯爵。父の代から付き合いのある家。子供の頃、何度か遊んだこともある。


「クラウス……お前がこの役か」


「……」


「……そうか」


彼は椅子に座った。視線が、私を射抜いている。


「我々は代々帝国に仕えてきたのに」


「ノルデンの連中と同じ扱いか」


「あの蛮族どもと机を並べろと?」


私は書類を差し出した。


「……選択を」


「……」


貴族は書類を見ようともしない。私を見つめたまま、話し続ける。


「お前の家も、同じだろう」


「領地を召し上げられて、官僚に転身した」


「それで満足か、クラウス」


「……」


「答えろ」


「……選択を」


彼の顔が歪んだ。


「そうやって逃げるのか」


「あの小娘の言いなりになって」


「恥ずかしくないのか」


私は──黙っていた。


この男の帳簿を見た。


年にこれだけ、領民から余分に取っていた。飢饉の年でさえ、徴税額を下げなかった。


「誇り」を語る資格があるのか。「代々仕えてきた」と言う資格が。


でも、口には出さない。


出す必要もない。数字は既に公開された。領民たちは知っている。


私が何を言っても、何も変わらない。言い返しても、彼は傷つくだけだ。そして私も──消耗するだけだ。


「……選択を」


三度目の言葉。貴族は──ようやく書類に手を伸ばした。


貴族は書類を読んでいた。表情が、少しずつ変わっていく。怒りから──諦めへ。


「……名誉職で」


「承知しました」


彼は署名し、立ち上がった。ドアに向かう──途中で、振り返る。


「クラウス」


「……」


「お前は──間違っている」


「……」


「いつか分かる日が来る」


彼は去った。部屋に、静寂が残る。


……間違っている、か。


そうかもしれない。でも──正しさだけで、国は動かない。


ドアが開く。次の一人が入ってくる。




何人目だろう。


顔ぶれが変わるだけで、内容は同じだった。


恨み節。言い訳。開き直り。そして──署名。


疲れる。言い返さないことが、こんなに疲れるとは。




何日目だろう。


顔ぶれは変わるが、言葉は似たようなものだった。


今日の相手は──若い貴族だった。私と同世代。面識はないが、名前は知っている。


「クラウス、これで満足か」


「……」


「お前はいいよな。勝ち馬に乗って」


私は黙っていた。いつもの台詞だ。


「あの小娘の犬になって、恥ずかしくないのか」


「貴族の誇りはないのか」


「……」


貴族は机に手をついた。身を乗り出してくる。


「お前だって分かってるだろう」


「これは不当だ。代々守ってきた領地を、奪われる。それを──お前が手伝っている」


私は彼の目を見た。怒りと──どこか、すがるような色。


「なぜだ、クラウス。なぜ、あの女に従う」


私は──


口を開いていた。


「……私も、最初は戸惑った」


「!」


言うつもりはなかった。でも、口が動いていた。


「私は内務大臣として、この廃藩置県を先導している。そして──私自身も領地を返還した一人だ」


貴族が目を見開いた。


「お前も……領地を……」


「ああ、当然だ。お前たちに領地を返還させて俺はそのまま、という道理は通らない。むしろ率先して返上した。他の貴族に示しがつかないからな」


「……」


「だからまあ。


──分かる。お前の気持ちは。先祖代々の土地を手放す──その重さは」


「……なら──」


「だが」


私は貴族の目を見つめた。


「だからこそ公正なんだ」


「……何?」


「敵も味方も関係ない」


「ノルデンだから切る、帝国だから残す。私だから残す──そういう贔屓がない」


「不正を働けば裁かれる。それだけだ」


貴族は黙った。何か言おうとして──言葉が出ない。


この男の帳簿も見た。不正の額は──大きくない。でも、ゼロではなかった。


私は続けた。


「お前の帳簿を見た」


「……」


「お前のだけじゃない。全部みた。全部知っているんだ、私は」


貴族の顔から、血の気が引いた。


「それでも、シャルロッテ様はお前たちに選択肢を残した──だからお前たちの言い訳は聞かない」


「選択を」


長い沈黙の後──貴族は署名した。


「……中央官僚で」


「──承知しました」


立ち上がり、ドアに向かう。振り返らない。


ドアが閉まった。私は──息を吐いた。


言い過ぎた、か。いや──言うべきだったのかもしれない。黙っているだけでは、伝わらないこともある。





窓の外を見る。帝都の街並みが広がっている。


私は──何をしているんだろう。恨み節を聞くだけの役目だったはずだ。なのに、気がつけばシャルロッテ様の政策を語っている。


……布教、だな。シャルロッテ様の考えを、貴族たちに伝えている。


ドアが開いた。次の一人が入ってくる。


まあいい。どうせ聞かれるんだ。「なぜ従うのか」と。


なら──答えればいい。


「公正だから」と。


「敵も味方も関係ないから」と。


私は──書類を差し出した。


「……選択を」


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