第304話 ネット世界の紫猫
あのシーンの意味がここに閃く。
カチャカチャカチャカチャ!
ゲームパッドのボタンを連打する女性。
暗くした部屋。LEDのライトを最光量にしている。
三枚のディスプレイに映るのは、それぞれ別の画面だ。
一枚目は今遊んでいるゲーム。久々にサイレントダークを遊びたくなった。
二枚目は配信画面だ。女性は今、配信をしている。カメラや音など、常に表示して意識をする。
三枚目は配信中のμTubeの画面だ。ゲーム画面が表示され、コメントも流れる。けれど大事なのは右下。猫耳を生やした紫髪の少女が映っていた。
その姿は現実の女性ではない。
所謂Vtuberと呼ばれる存在で、十数年前から流行した。
今では主流となっており、女性も顔出しをせずに配信をしている。
その方が変に気を使わなくてもいいからで、個人勢として楽しく配信していた。
「でさぁ、PCOでサイレントダークっぽい作品とコラボ? みたいなことしててさぁ」
女性はいつものテンションで喋っていた。
丁度サイレントダークを遊んでいるのはPCOが原因だ。
PCOでサイレントダークとのコラボが行われる。
感化されてしまったせいか、サイレントダークを引っ張り出したのだ。
「面白いんだよねぇ。サイレントダークって……おっとぉ」
画面上で女性が操るキャラクターが、鬼械と対峙していた。
振り下ろされた腕をギリギリで回避する。
完璧な回避が成功すると、土煙を避けながら、ビルの中に逃げ込む。
:上手っ!
:パリィ成功すんのかよwww
:これはやり込んだ動きですね~
:アイテムは取りに行かないんですか!?
:確かそのビル、回復アイテムあったような
:もしかして、RTA……じゃない!?
……
慣れた動きでドンドン進んで行く。
アドベンチャーゲームだが、ストーリーは全て頭に入っている。
とは言え今回はRTAじゃない。効率は目指しつつも、最後までは遊ばない。
思い出しながら進んで行くニャーぷるは、ふと雑談を始めた。
「そうだぁ。今日ねぇ面白いプレイヤーに出会ったんだよねぇ」
ニャーぷるはPCOを遊んでいる。
いつも一人で活動し、自由気ままに放浪してきた。
だからこそ、人気オンラインゲームのPCOで、フレンドの数が圧倒的に少ない。
いないと言っても差し支えないのだが、珍しくプレイヤーと会話した。
それがまさか自分と同じ大学の後輩で、偶々講義を受けていたなんて、正直想像もしていなかった。
「しかもさぁ、知ってるかなぁ? 《PCOの死神》~」
ニャーぷるはあの有名な《PCOの死神》と出会った。
しかも自分が助ける側に回るとは想定もしていなかった。
正直、PCOの有名人に会ったからか、あれでもテンションは上がっていた。
世界は案外狭いと思いつつも、湧き上がる衝動を抱えていたのだ。
:マジですか!?
:ヤッバ
:本当に実在したんだ
:アイツにはいい思い出がねぇ
:知らない~
:誰?
……
《PCOの死神》の名前を出した途端、コメントが盛り上がった。
PCOを知っているからこそ、《PCOの死神》の存在を認知している。
何せ公式放送に載り、その圧倒的な実力を知らしめた。
運営陣の中にお気に入りがいるのか、その露出は顕著だった。
けれど当然、知らない人も多かった。
コメントの中でチラホラ「誰?」と訴え掛ける。
説明は難しい。ネットリテラシーがある。
「凄く強いプレイヤーだよぉ。本当、強かったなぁ~」
ニャーぷるは《PCOの死神》を、グリムの活躍をこの目で見ていた。
流石に鬼械を相手にあれだけ判断が出来るのは優秀だ。
実際に倒してはいなかったもの、ニャーぷる自身が体感した。
たった一つの動作だけで、首を落とされる恐怖を体現したのだ。
「だってさぁ。私もねぇ、結構遊ぶんだよぉ? 戦うのは得意じゃないけぉ、不意は突いたのにぃ、簡単に押さえつけられちゃったぁ」
ニャーぷるは戦うつもりがあった訳ではない。
ただし、一度ボウガンの矢を握り、攻撃を仕掛けた。
姿を消し、気配を殺し、視線も切ったのだが、完全に読まれていた。
踏み込んだら最後、標的が自分で無くても押せ付けられたのだ。
:戦ったんですか!!!
:その言い方、もしかして負けた?
:ニャーぷるさんってPCOでなに使っているんですか?
:もしかして盗賊系?
:ヤバッ、どんだけ強いんだよwww
:ニャーぷるさん、リベンジするんですか!?
……
コメント欄が盛り上がっていた。
“強さ”に惹かれてしまうのは、人間の性。
それを踏まえて改めて考えると、リベンジをする気はない。
寧ろその逆だと、ニャーぷるは考える。
「うーん、リベンジはしないかなぁ。でも、また会ってみたいよぉ」
リベンジをする気はないものの、面白いのは伝わった。
何よりも仲間達が個性的で見ていて楽しかった。
何より意見を訊いて尊重してくれる。そんなグリムの精神に惹かれた。
:会ってどうするんだよw
:会えるといいですね
:フレンド登録しなかったの?
:呼べばよくね?
:ニャーぷるさんなら有名人で、向こうから会いに来るんじゃね?
:有言実行、即行動!!!
……
コメントがたくさん届いていた。
ニャーぷるは色んな意見を参考にしつつも、わざわざそんなことはしない。
何故なら、明日講義があるので、大学に行くからだ。
「まぁ、そのうち会えるよねぇ~」
あくまでも受動的だった。
その姿勢は決して崩さないので、本当に自分から行動したのは珍しかった。
欠伸をして全身を伸ばし、体を柔らかくすると、まるでネコのように振舞う。
やはりと言うべきか、ニャーぷるは完全に夜型の生活を送っているので、大抵深夜は元気だった。
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