~宴の終わりと現実への帰還・深まる絆と明日の予感~
マーサお婆さんの家の囲炉裏で、最後の一片の薪がパチリと爆ぜた。 レッドボア鍋の滋味深い香りと、仲間たちの満足げな溜息が、小さな部屋に満ちている。 俺——アルトは、膝の上で青く透き通った姿に擬態しているルナを優しく撫でた。
「 ……さて。そろそろ帰らなきゃいけない時間だな。 」
その言葉に、アイラ(ソフィア)が寂しそうに、けれどもしっかりとした口調で応じる。
「 ええ。明日からは小学校の授業も本格的に始まるし、準備が必要だものね。 そうちゃん……唯奈ちゃんの様子、後でこっそり教えて。 」
「 ああ、わかってる。 アイラ、今日のポーション素材の件、助かったよ。 」
アタル(ソルダード)も拳を軽く合わせ、「俺も現実でイメージトレーニングしとくぜ!」と笑っている。 俺はマーサお婆さんに向き直り、深々と頭を下げた。
「 お婆さん、ルナをよろしくお願いします。 俺たちがいない間、こいつの『浄化の力』が、この家を……そしてこの村を守ってくれるはずです。 」
「 案じなさんな、稀人さん。 この子もあんたの帰りを待っておるよ。 」
俺はメニュー画面を開き、『ログアウト』のボタンに指をかけた。 「 ……絶対に、完成させてみせる。 」
光の中に意識が溶け、数瞬の後。 鼻腔をくすぐったのは、マーサの家の煙の匂いではなく、スイが整えた清浄な空気と、恩田家の夕食の匂いだった。 目を開けると、そこは小学一年生の自分の部屋。 6歳の柔らかな体、そしてランドセルが置かれた日常。 リビングからは、父・翔太がOTOGI-TECNOの資料をめくる音と、母・亜希の明るい声が聞こえてくる。
「 あ、にいたん! 起きた!? 」
パタパタと足音がして、3歳の妹・唯奈が部屋に飛び込んできた。 彼女の頬は少し赤く、呼吸も微かに浅い。 先天的な病が、彼女の小さな体から自由を奪おうとしている現実がそこにあった。 俺は唯奈を抱き上げ、その背中を優しくさすった。 掌から微かな魔力を通し、スイに命じて彼女の熱を和らげる。
「 ただいま、唯奈。 いい子にしてたか? 」
「 うん! にいたんと遊びたかったの。 」
唯奈の笑顔は、この世の何よりも尊い。 今日、OWOで得た薬草の知識、ルナが持つ女神の浄化能力……。 そのすべてを、いつかこの子の病を消し去るための『雫』に変えてみせる。 窓の外では、現実世界の魔素溜まりが不気味に揺らめいているが、俺にはもう迷いはない。 学校、家庭、そしてOWO。 三つの場所で結ばれた絆を糧に、俺は明日、さらなる高みへと駆け上がる。




