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非日常になった世界でも日常を過ごしたいなと思いまして。  作者: あかさとの
4章 うつろう世界でものんびりしたい

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幻想の果てに



 俺たちが食堂に着くと先ほどまでとは外観が違い、よくある結婚式場のようなものに変わっていた。庭園はなく道路端にいきなり白い建物がある事に違和感しか感じられない。


 「……さすがにこれは」


 「わかりやすいわね〜」


 「焦ってるんでしょうか?」


 「そうだといいね〜」


 入り口の大きめのドアは開放されておりそこから入ることができた。通路を進んでいくと『花園薫・蘭美亜 披露宴会場はこちら』という案内板がある。正体がわかりやすくて非常に助かるなぁ。


 「なんて読むのかしら? らん……みあ?」


 「たぶん、『らみあ』じゃないですか? どうです悠人さん?」


 「そうだと思うよ。昨日家に帰って調べてたんだけど、ラミアに行き着いたんだよ。異臭がするのも魅了も、それにたぶんこの建物も幻影だし、あの見た目だってそうだと思うよ」


 「ふ〜ん。でもこの壺、本物にしか思えないわよ?」


 さくらは廊下に飾りとして置かれていた壺をひょいと持ち上げる。

 それを渡され、しっかりと重さも感じる事も確認した。リアルだなぁ。


ーー どうやら質量を持った幻影のようです。視覚以外の感覚も騙すような幻影でなくてほっとしました ーー


 「そうだったらどうなるの?」


ーー 認識自体を変えられるということになりますので、精神支配と似たようなものになるかと ーー


 「ダンタリオン再び、みたいなのは洒落にならないな。ところで質量がある幻影ってなんでそんなのができるんだ?」


ーー エッセンスを利用しているようですね ーー


 「エッセンスは万能か。なんだかエッセンスを捏ねて形を作って固めたらなんでも作れそうに思えてくるなぁ」


ーー 間違いではないかと ーー


 「間違いではないのか……金塊とか作れちゃいそうだな」


ーー できなくはありません。しかし金を作ることはいけないことなのでしょう? ーー


 「錬金術の漫画でも読んだのか?」


ーー はい。つい先日読破しました。人体錬成も禁忌となっていたことに衝撃を受けました。その世界において、ワタシの身体を得るという目的は禁忌のようです ーー


 「そういえばそれが目標っぽいこと、最初に言ってたな」


ーー はい。いつかそのナイスなボデーでマスターを虜にするのが夢です ーー


 「そっすか」


 塩対応にゾクゾクしていそうな雰囲気を感じながら進む。

 案内板に従って進んでいくと両開きの大きな扉があり、『花園薫・蘭美亜 会場』とあった。扉の前に立つとゆっくりと開き、中では立食パーティが開かれており多くの人で賑わっていた。


 「……ここ食堂だよね?」


 「そのはずよね〜」


 「こんなに広くありませんでしたよね?」


 「そうだね。ここの人たちは違和感ないのかな?」


 「あるようには見えないわね」


 入り口で話していると奥にいた隊制服姿の軍曹がこちらへやってきて声をかけてきた。その隣にあの女性はいない。それならばと軍曹で試してみることにした。


 「ようこそ。今日は楽しんでいってくれ」


 「はい、ありがとうございます。ところで相手の女性はいないんですか?」


 「今は控室で着替えているところだ。どうかしたのか?」


 「……その人って、下半身が蛇なんてことはありませんよね?」


 「蛇? そんなことはないぞ。たしかに滑らかな肌だが……」


 「それって……『本当ですか?』」


 「ッ!! ……本当だ」


 試しに【真言】で強制力を働かせると効果はあったようだ。しかし帰ってきた言葉は『本当』。つまり軍曹は標的では無い事が確定した。


 「そうなんですか。あっ、あっちにカレーがありますね。ちょっと俺たちカレー食ってくるんで!」


 「たくさん食べて行くといいぞ」


 カレーが置いてあるテーブルの周囲には俺たち以外いなかったので話すにはちょうどよかった。


 「それにしても……立食パーティでカレーって普通にあるもんなの?」


 「香織は見たことありませんね」


 「私もないわよ」


 俺も……と言いたかったが、そんなパーティに出席した事はなかった。でもカレーなんてないだろうと思う。


ーー ところでマスター、先ほどの【真言】は効果があったようですね ーー


 「だよな。まさか演技とかじゃないよな?」


ーー はい。あれが演技ならば大したものです ーー


 「そういえば伊集院とかチンピラみたいなのにも効いてたっぽいし、もしかしたら珍しく効く相手なのか?」


ーー かもしれません ーー


 「じゃあここに集まってる人たちに、人間かどうかを聞いたらどうなるんだ? 人間じゃなかったら正体現すかな?」


ーー それはおそらくないでしょう。自分たちを人間と思い込んでいる、もしくはそうプログラムされているようなものかと ーー


 「だめかー」


ーー 人間だと思い込んでいるなら、それを利用すればいいのです ーー


 「たとえば?」


ーー このままでは埒が明きませんので……こういうのはいかがですか? ーー


 エアリスの提案を聞き、少し不安があった。


 「そんな単純な……うまくいくかなー」


 しばらくするとお色直しを終えた女性が軍曹と共にこちらへとやってきた。俺たちは軽く挨拶を済ませ隅にあった椅子に座って話すことにした。

 女性が着ているワンピースは服屋で、そして香織のスマホで見たものと同じに見える。ただし胸元は大きく開いていてそこに大きなリボンが。リボンの向こう側も昼間見た時のような控えめな胸ではなくなっていた。


 「あらあら、セクシーね〜」


 「ありがとうございます」


 「あのー、質問していいですか? ってかしますけど、『正直に答えてください』ね?」


 「どうぞ?」


 軍曹の時は効果があった時の反応……まぁ俺にしかわからないかもしれないがそういえるものがあった。しかしこの女性にそれはない。つまり——


 (効いてなさそう。ってことはやっぱこの人で間違いないな。ってかどうして【真言】は肝心な時に無能なんだ)


ーー 無敵すぎてもつまらないではないですか ーー


 (ある意味命がけなわけだけど、そこにスリルは求めてないよ俺は)


ーー では先ほどの第一案からいってみましょう ーー


 (はいはい。えーっと……)


 ということでエアリス発案その一だ。


 「あっ、尻尾出てますよ?」


 「え? うそ、そんなはずは……あっ」


 「うそだろ……エアリスが考えた『釣るための方法その一』でさっそく釣れるとは……」


ーー 第二、第三の案は不要でしたね ーー


 「ということで蘭美亜さん、あなたの正体はもしかして下半身が蛇のラミアですか?」


 「そ、そんなわけないじゃないですか。どこからどう見ても人間でしょう?」


 「え? でも足が蛇に戻ってますよ?」


 「え!? そんなまさかぁ〜……ほらほら、やっぱり人間のままじゃないですか。ちゃんと人の脚に変化したままですよ……ぁ、やば」


 「軍曹、どう思います?」


 「……どう、と言われてもだな……蘭美亜はとてもかわいらしいが」


 先ほどのやりとりを疑問に思ってすらいない様子の軍曹に「人間なら言わないようなことばかり言ってませんか?」と質問すると軍曹は驚いたようだった。そして徐々に顔が青ざめていく。


 「ら、蘭美亜……君は人間ではないのか?」


 「薫さんったら、私を疑うの? こんなにあなたを愛しているのに?」


 それって根拠としてどうなのと思ったが軍曹にとって充分らしい。


 「そうだな。こんなに愛してくれているのに疑ってはいけないよな」


 「えぇ……嘘だろ…」とついつい言ってしまう。しかし女性はそれに対し過剰に反応する。


 「う、嘘なんて何もないですよ!?」


 「ん? 嘘に対しての反応が」


 どうやら嘘と言う言葉もしくは嘘を責められるのが苦手なようだ。続けて責め立ててみるかと思うと先にラミアが動く。


 「薫さん! この人から私を守って!」


 「わかった! 悠人、覚悟!」


 腰につけたナイフを抜き、突然襲いかかってくる軍曹。ナイフの軌道は体の動きが最小限であることを証明するように無駄のない動きで俺に迫る。咄嗟に銀刀の剣先を鞘に収めた状態まで抜きナイフを捌いていくが、最小限の動きから繰り出される軍曹のナイフと太い手足を使った格闘技は実際に相手をしてみると脅威的だった。

 何よりこの躊躇ちゅうちょの無さが厄介だ。


 まずナイフが突き出されそれを避ける。すると体を回転させて回し蹴りが炸裂し、その勢いのままナイフを持たない手で掴みにかかってくる。それを避ければまたナイフが襲い、時には足払いも織り交ぜてくるのだからどうしてもその場でそのまま受けるのは厳しい。大きな体躯を利用した突進力をいなすためにナイフの軌道を銀刀で逸らし軍曹のバランスを崩そうとするものの、その力すら利用されるのだ。


ーー 斬ってしまえばよいのでは? ーー


 (そうは言っても……やっぱり、気が引ける……っていうか! 軍曹強くね!?)


ーー ステータスはマスターよりも低くはありますが……ただの自衛官とは思えませんね ーー


 続けてエアリスは『ステータスが強化された状態になっているかもしれない』とも言った。


 俺と軍曹の攻防を横目にさくらと香織が会話を続けていた。会話が聞こえる近い距離を維持しつつ、俺は軍曹を相手にして蘭美亜は二人に任せることにする。時折軍曹が蘭美亜を庇うような発言をしているが、蘭美亜を含む女性陣はスルーしている。


 「ところで蘭美亜さん、その胸は偽物ですよね?」


 「そ、そんなわけないじゃないですか! ほら! ぼいんぼい〜んですよ!?」


 「でも地上のショップで会った時はそんなにありませんでしたよ?」


 「あっ、しまった! 盛るのに夢中で元のサイズ忘れてた……ぁ」


 軍曹がそもそも触れない方がいい部分を「いいんだ、蘭美亜。例え詰め物をしていたとしても君は君なんだ」などと言ってフォローするが、無視される。


 「ところで地上にいたのにどうしてここの開拓民になっているんです?」


 「そ、それは……ショップ店員をやめて開拓民になったのよ!」


 「嘘でしょ? 地上で会ったの最近ですよ?」


 「そんな嘘だなんて! じゃ、じゃあ……双子かしら? あ! そうよ! 双子よ! 姉がいたような気がするわ!」


 「そうなんですか。それは変な話ですね〜」


 「え!? ど、どの辺が!?」


 「その店員さんといろいろお話したんですけど、兄が一人だけの二人兄妹って言ってましたよ?」


 「あ、あらあら、それは……きっと勘違いだと思うわよ? それか聞き間違いかしらね?」


 またもや軍曹が「蘭美亜が何人兄妹だろうと構わないぞ」とフォローする。しかし今度は香織の言葉に込められた“強制力”によって黙らせられる。


 「『軍曹さんは黙っててください』」


 香織本人はそのつもりはないのかもしれないが、強く思ったからだろうか、能力として発動している。これが無差別に発動してはまずいが……俺の【真言】もそういう感じを意識すると制御しやすくなったりするだろうか? ちょっと参考になるかもしれない。


 「あああ! この人にかけた呪いをいますぐ解いて? ねぇ悠人君、お姉さんのお願い聞いてくれるかしら?」


 軍曹は足を止め、それに合わせて動きを止めた俺。そして蘭美亜に詰め寄られる俺。強調された胸を押し出して近付いてくるが、間に威圧感を纏ったさくらが割り込む。香織はその様子をチビを抱いたまま見ている。


 「……あらあら。それって私の真似かしらね?」


 「ま、真似? 違うわよ。元からこういう話し方よ。そうよね、薫さん? 薫さん? どうして首を横に振るのかしら? 縦に振って?」


 「ところで、そろそろ正体を現したらどうかしら?」


 「正体って何のことかしら? 私は見た通りの人間よ?」


 「嘘よね? さっきからニオイがすごいのだけど……ヤケになって魅了でもかけてるのかしら?」


 「あらやだ! 地上のデオドラント用品を真似たものを1缶使い切ったのに……っ!」


 「え? 1缶も? 嘘……どうして?」


 「だって私、能力使うと変なニオイ出ちゃうらしくて……人間っぽくするならそこは隠さないとかな〜って」


 「なるほどね〜。大変なのね」


 「そうなのよ〜。これでもいろいろ気を使ってるんだから」


 さくらと香織、そしてラミアも言葉を失ったようになっている。それも当然といえば当然か。


 「……人間ってのはやっぱり嘘だったな」


 「……人間だと思っていたのに……違ったのか…」


 「いやぁ……そのぉ……えへ」


 軍曹に暴露したことで嘘を暴いたということになったらしい。ラミアは嘘だと指摘されることでボロを出したり、正直になってしまうのだった。

 蘭美亜の正体は幻影を作り出し、男を魅了し喰らうとされている魔物・ラミアだった。漸くそれを認めたラミアは変身を解き、比較的整った顔立ちの美人で腰まである長い薄茶色の髪、大きくはないが綺麗な形の胸とくびれた腰、そして蛇の下半身に変わっていた。ちなみに真っ裸だ。一応の羞恥心はあるようで、長い髪を胸にかけて上手に隠している。


 変身が解けたことによって26層の景色も変わっている。というか建物が何一つなくなり、周囲にいた人たちはどろどろになって地面のシミになっていた。軍曹だけは辛うじて形を保ってはいるが、ところどころドロっとしている。


 「それでどうすれば幻層クリアなんだ?」


 「私を……倒せば…かな?」


 あ、そう。と銀刀を構える。【真言】による命令が効かない以上、一刀で決めるのが最適だ。


 「や、やれるものなら……やってみらっしゃああああい!」


 ヤケになったらしいラミアはその爪をシャキンと伸ばし襲いかかってきた。床を滑るように高速でこちらへ肉薄し両手の五指から伸びる爪で切り裂こうとする。そして俺の背後からは軍曹がその体躯を生かした豪快な回し蹴りを……ラミアにヒットさせる。「ぐへぇ」と声を漏らすラミアとあたふたとする軍曹を、俺は少し離れた場所から見ていた。


 「わふわふ!」


 「ふふふ……今度は俺がチビのを真似してみたぞ。まぁ細かい調整をしたのはエアリスだけど」


 「見事な転移ね〜」


 「さすが悠人さんです! 香織もやってみます!」


 「え?」


 香織を見た時にはすでに姿はなかった。別の方向からパキンという音がしたかと思うと遅れて風が駆け抜けていく。音がした方を見ると、ラミアの爪は振り抜かれた香織のハンマーによって折られていた。


 (香織ちゃんってなんなんだろう……。DEXお化けに魔改造しちゃったからかな)


ーー 能力の影響も大いにあるでしょう。星銀の指輪にある転移用の衛星のうち一つを使ったようですが ーー 


 直後、背後から乾いた音が二回。さくらの拳銃による銃撃だ。その銃弾は香織に向かって駆け出そうとしていた軍曹の両足を撃ち、それにより立っていられなくなった軍曹は膝をつきナイフを持ったまま両手を床につけると、さくらは拳銃を宙に放り一瞬で具現化したリニアスナイパーで軍曹のナイフを持った腕を撃ち抜いた。そして宙に放られた拳銃を片手でキャッチすると、上に向けた銃口にフッと息を吹きかけていた。


 その姿に俺の口からは自然と「さくらお姉さんかっけぇ」が漏れていた。


 「うふふ〜」


 「香織はどうでした!?」


 「結構なお手前でした」


 「えへへ〜」


ーー どうやら香織様の指輪にいるワタシの分体は、好き勝手やってるようですね。まったく、ワタシの分体ともあろう者があるまじき! ですね! ーー


 (エアリスの分体だからこそ、だろ)


ーー そうでしょうか? ーー


 (そうでしょうよ)


ーー そうですか。なら仕方ないですね。お仕置きはしないであげましょう ーー


 武器である爪を折られたラミアに近付く。


 「さてと、じゃあトドメを」


 銀刀に手を添えた俺を見たラミアが焦ったように「ちょ! ま、待って待って! 話聞いてよ! お願いだからぁ〜!」と言うので必死さに免じて仕方なく話を聞くことにした。できれば話なんてしないほうが斬りやすいんだけど。


 しかしその話というのはこちらの意思を挫こうとするものではなく、倒したことにする方法の話。刀の錆になるのはさすがに嫌なのだろう。

 聞けばラミアが負けを認めれば良いらしい。ある程度ダメージを負えば問題なく受理されると思う、とのことだった。『受理』という言葉が引っかかったがまぁいい。それを聞いた俺は右手中指を親指にひっかけ、当てれば良い音がしそうな程度の力を込めて中指を開放した。デコピンというやつだ。


 ラミアの額にヒットした俺の中指が生み出した衝撃によりラミアは『んぎゃひん!』という謎の言葉を発して十メートルほど吹き飛んだ。というか実際は二メートル程度だったが、そこからゴロゴロと高速回転しながら転がって行ったのだ。

 こちらへ戻ってきたラミアの額は赤くなっており、ちょっとへこんでいるような気がする。もっと強めでもいけそうだな。


 「少しくらい手加減してくれてもよくないですか? これでも一応女の子なんですケド!?」


 「ほどよく手加減したけど」


 「えっ」


 「それで?」


 「あっはい。まいりましたー、わたしの負けですー。爪も折れちゃいましたから戦えませーん」


 ラミアの負けを宣言する声に反応するかのように辺りが暗くなる。そして22層をクリアした時と同じ声が俺たちに話しかけてきた。


《やあやあ! ラミアの幻想から生まれた幻層攻略おめでとう! あっ! クリアって言った方が君好みかな?》


 「そこはどっちでもいいけども……。あんな棒読みの負け宣言で良いんだな」


《あははは! それこそどっちでも良いことだよ! 負けは負けさ! さて、負けたラミアにはお仕置きしなくちゃね!》


 「お仕置き? まさか……」


《当然、負けたら退場だよ》


 ラミアの体が光の柱に包まれやがて消えていくと、そこにいたはずのラミアもいなくなっていた。


 「殺したのか?」


《そうとも言えるしそうでないとも言えるね。なんだい? まさか情が移ったなんて言わないよね?》


 「それは……」


《まっ! 君が心配することじゃないよ! そうそう、22層の人間は解放されたからね!》


 言葉を発しようとした俺を遮るようにエアリスが発言をする。どういうわけか“大いなる意志”がいることでスマホの画面に文字を表示する必要もなく、俺の好きな声優さんの声がリアルに聞こえる。


ーー 大いなる意志、質問があります ーー


《なんだいエアリス?》


ーー あなたは何者ですか? ーー


《何者だろうね?》


ーー 真面目な質問です ーー


《……エアリスは自分が何者かわかっているかな?》


ーー それを知るための質問です ーー


《そっか。そうだね。だけどその質問には、わからないとしか言えないよ。地上には人間が溢れているね? その誰もが自分は何者かと定義できているのかな?》


ーー それはわかりませんが ーー


《なら僕にわかるはずがないさ。けど敢えて生まれを言うなら……このホシそのもの、その一部? 一欠片? でもそれはなにも、僕だけじゃない》


ーー あなたが何人もいると? ーー


《何人もというより、僕が知り得るのは三人かな。……さて御影悠人、君との話ができていないけれど今回はそろそろ時間なんだ》


 「前回よりも短いんだな」


《そうだね。もしかしてもっと話したかったのかい?》


 「まぁ否定はしないかな」


《そっか。そうだね。じゃあこうしよう。僕もログハウスにお邪魔することにするよ》


 「は?」


《そういうことだから部屋を一つ用意しておいてくれるかい? 僕と同じ部屋が良いっていうなら君の部屋でも》


ーー マスター、大至急部屋を増設しましょう ーー


《それは残念。じゃあそういうことで、さようなら。また明日》


 「相変わらず勝手で——」


《あっ、そうそう忘れてたよ。君たちは幻界之超越者になってるからね。それと君が喚んだ嵐神・プルリーヤシュだけど、夢をみていたことにしておいたし、あとは他にも少し修正されると思うから。じゃあねー》


 「——変なやつ」


ーー そうですね ーー


 結局何もわからないままだった。その様子を見ていた香織とさくらがこちらへと来る。


 「お話はおわったのかしら?」


 「うん、終わったっぽい」


 「せっかちなんでしょうか」


 「そうかもねー。それじゃ“幻想の果て”から“現実”へ帰ろうか」


 「あら。救世主さんが言うとかっこいいわね〜」


 「ふっ。惚れんなよ?」


 「やだわぁ〜、もう惚れてるわよ〜?」


 「そうですよ〜、もう手遅れですよ?」


 「あははー。そういうノリの良いとこ好きだよ〜」



 何もない荒野となった26層を出ると23層から先へのゲートは開けなくなっていた。その行けなくなった階層は本当に幻だった、ということかもしれない。最初からそれがわかっていれば簡単だったかもしれないのに……。

 さっさとログハウスに帰ろうと思ったのだが……


 「悠人君、22層の様子を見にいってもいいかしら?」


 「じゃあ俺も行くよ。一応ペルソナの任務は開拓民の解放だったし」


 ということで俺は仮面を着け香織とチビも一緒に22層へのゲートをくぐる。中に入ると歓声が門の外まで聞こえていた。門番が雄叫びをあげていたが、こちらに気付くと門を開けてくれた。

 門を通り歓声のする方へと向かうと、そこでは自衛隊も一緒になって喜んでいた。屋台と食堂の食材を総動員して賑やかな祭りのようになっていたので何事かと思って様子を伺っていると、その様子を眺めている軍曹を発見した。


 「軍曹、何かあったんですか?」


 「おお、ゆ……ペルソナ。隔離が解除されたようなんだ」


 26層でラミアが敗北宣言をした頃、隔離されていた開拓民百名にアナウンスがあった。いつものショタボで隔離を解除したことを告げただけのあっさりとしたものだったらしい。

 開拓民の一人が試してみると実際にマグナ・ダンジョンに出ることができたことからも隔離解除は事実であることがわかっている。

 その後、夕飯時に合わせてみんなで騒ごうということになった開拓民がやや暴走気味にキャンプファイヤーやらバーベキューやらを始めたのだった。ダンジョン肉の串焼きが配られていたので一本貰い食べてみると、やはり未来の方が上手に焼けていた。


ーー 時間が経てばこのくらいにはなっているだろう、という予測も含まれた幻想の未来だったのでしょうね ーー


 (なるほどなー。ミスリルが普及し始めてたのも、そうなるといいな的なものだったのかもだな。ところで俺たちが作ったミスリル武器は)


ーー 幻層の彼方に飲まれたかもしれませんね ーー


 (嘘だろ……苦労してみんなで集めたのに)


 22層は問題なさそうだったのでログハウスに戻ると、夕食はすでにできていた。

 杏奈はがっつり系ご飯しか作れないというか作る気がない、香織は一通りできはするのだが料理自体はそんなに好きなわけではない、さくらに至ってはカレー以外は基本ダークマターだ。そして俺はというと、お肉を焼くくらいしかできないのだ。あと味噌を溶いただけの味噌汁な。

 そんな俺たちにとって悠里による家庭料理が並ぶ食卓はとてもありがたい。それに食材も調達してくれているのは悠里なのだ。いつの間にか使えるようになっていた、普段はハリセンを高速出し入れするために主に使われている収納魔法。それのおかげで一度に大量のものを運ぶことができるというわけ。ちなみにエアリスはそれを真似ようと奮闘中だ。

 ともかく、悠里はありがたい存在だな。


 「ん……? どうしたの?」


 「あぁ、いや、いつもご飯作ってくれてありがとな」


 「き、急に何言い出すのよ」


 「みんな感謝してると思うけどな。まぁなんだ……照れんなよ」


 「面と向かってそんな恥ずかしいこと言われたら照れるに決まってるでしょ」


 食後は暗い森に出て木を伐採、エアリスによる加工ですぐに使える状態へと変化させる。その木材を小型化してマッチ棒のようにし、それを部屋に置いてから風呂に入った。

 露天風呂のふちに腕と頭を置いてミニマムサイズのチビとのんびりとしていると、背後から気配がした。


 「お、お邪魔するよ」


 「お、おう、どうしたんだよ悠里、珍しいな」


 「さくらが……」


 「さくらが?」


 「話をするならお風呂がいいわよって……」


 さくらめ……悠里に何吹き込んでるんだよ。


 「良いかは謎だけど。それでどうした?」


 「私らって付き合い長いじゃん?」


 「そうだなぁ。かれこれ十年ちょいか」


 「……悠人は最近、ダンジョンに来たからかちょっとだけ変わったよね」


 「そうかー? ……いや、そうかもしんないな。ダンジョンのっていうかみんなの影響だと思うけど」


 「なんだか私だけ置いてけぼりな気がしちゃうなぁ」


 「したいことができてないって感じる?」


 「かも。雑貨屋もいずれ再開しようと思ってるのに準備もしてなくて、ここに居ても何の役に立ってるんだろうって思ったりさ。テレビに取り上げられて舞い上がってたのは杏奈と香織だけじゃなかったのかも。二人はもう吹っ切れてるみたいだけど、自分のことはわからないし。あーもう……こんなこと言いたいわけじゃないのに」


 「どうしたいとかある?」


 「それがわかんないんだよね」


 「ふむー」


 「ただここの生活は楽しいなって思ってるんだ」


 「じゃあそれでいいんじゃね? ここってダンジョン攻略の拠点とか休憩所とかじゃん? でもだからって何をしなきゃとか俺は考えてなくてさ。居たいやつがしたいことをしてればいいんじゃないかって。だから楽しいならそれなりに意味はあるってことじゃないか? それに悠里がご飯作ってくれたり【虚無】の練習がてらゴミ処理してくれてたりとかも知ってるし。俺らはそのおかげで地上と変わらない生活ができてるんだ。俺が居ない時はログハウスを守ってくれてるしな」


 「バレないようにゴミ処理で練習してたつもりなのに」


 「エアリスがこっそり教えてくれるんだよ。とにかく、上手い言い方が思いつかないけど……自分で変なプレッシャー感じてるだけかもよ? そもそも悠里がいなかったらここはなかったんだぞ。俺もダンタリオンにおいしくいただかれてたかもしれないし」


 「私らからすれば悠人がいないとどうなってたかもわかんないよ。初めての20層があんなことになるなんて」


 「まぁそれは……杏奈ちゃんなんて特にな」


 「あの時は助かったなぁ」


 「あの時の悠里……泣いてたな」


 「……忘れて」


 「今も泣いてるしな」


 「……悠人は悠人なんだなって思ったらつい」


 「俺に惚れるとヤケドするぜ? つってね。さて、じゃあ先に上がるからゆっくり浸かるといいぞ。『転移』」


 「……ばか」


 悠人が去った露天風呂にて。


 「わふぅ」


 「ひっ! ち、チビいたの?」


 「わふ」


 「今のは聞かなかったことにして」


 「わふわふ」



 悠里を置いて脱衣所へ転移したがチビがついてこない。せっかくだし悩める悠里を存分に癒して差し上げてほしい。

 リビングに行くとさくら香織杏奈の三人が寛いでいた。


 「悠人君が先に上がったのね?」


 「うん」


 「悠里、どうでした?」


 「いろいろ悩んでるみたいだったなぁ」


 「乙女よね〜」


 「乙女……? なぜそこで乙女」


 疑問に思っていると三人がよくわからない事を言う。


 「うふふ〜」

 「まあ悠人さんですから」

 「そっすね〜」


 「お、俺は一体何を見落としていると言うんだ……や、やめてくれ……そんな残念なものを見るような目で俺を見るのは……」



読んでくださりありがとうございます。

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