大石さん
翌朝……
「よし、悠里、デートしようぜ!」
「は!? ご飯食べてる時に何言ってんの!?」
「まぁまぁいいじゃん。この間の……なんだっけ。ピクシーサークル?」
「フェアリーサークルね……え? 連れてってくれるの!?」
「それそれフェアリーサークル。気分転換にどうよ。あっ、でもその前に肉集めもしたいからそれも手伝っておくれよん」
「で、でも……」
香織とさくらに目をやっているところを見るに、なにかしらの気を使っているのだろう。気を使いすぎるのは良くないんだぞ、たぶん。
「手伝ってあげて、ね?」
「悠里、がんばって」
「じゃああたしは今日もニートしてますね! ……じゃなくて次の格ゲー世界大会に向けて特訓しておきますね!」
「じゃ、じゃあ……行く」
「よーし決まりな。食べ終わったらすぐ準備してきてくれる? なるべく早く行きたいから」
「わかったよ」
悠里がそう言うと香織、さくら、杏奈の三人はいつも悠里がやっている事を分担しようとなったようだ。
「洗い物なら任せて〜」
「香織も洗い物手伝うね」
「じゃああたしも……スペースがないんでやっぱり特訓してますね!」
と思ったが三人も並んで洗い物ができるほどのスペースはログハウスのキッチンには無い。もっと大きなものを……いやいや、さすがにお金が掛かる。自作でなんとかできない事はないと思うがこのシステムキッチンはみんながお金を出し合って用意してくれたものだからな。
「チビも行くぞ〜」
「わふ!」
悠人、悠里、チビが出かけたログハウス内では香織とさくらが組んだ手を顎の前に置き両肘をテーブルにつけ深刻な表情を作って向かい合っていた。
「香織、由々しき事態よ」
「うん。由々しいね」
「悠人君、初めて自分から“デート”と言ったわ」
「うん。初めてだね」
「うらやましいわね」
「うん。そうだね。でも」
「そうね……」
「悠里が元気になるといいね」
「悠里が元気になるといいわよね」
一方俺たちは岩山の麓でワイバーンの肉を補充していた。悠里は【マジックミラーシールド】を展開しつつ【アイスランス】を滞空させ空から襲いかかるワイバーンを次々と迎撃していく。岩山に入っていないのに襲ってくるのは【索敵】を利用して“釣り”をしたからだ。【索敵】はエッセンスを糸のように張り巡らせその情報を得るが、逆にその糸に敵意を込めるとどうなるかというと、本能に訴える挑発となるのだ。巣を守るワイバーンにとって敵は排除しなければならない対象となるためその発生源を辿りここに向かってくる。
「いやー、楽勝ですなー。回収回収っと」
「あの岩山ってこんなにたくさんいるの? そろそろ百くらいは来たと思うんだけど」
「21層よりもいるんだよ。それに隣の岩山にも挑発してみたから、そっちからかなり来てるな。実は26層でエアリスが防壁のためにエッセンスを大量消費してたから助かるよ」
「そうなんだ。大変だった?」
「んー。エアリスはいろいろと大変だったみたいだけど俺はそれほどでも。ラミア自体はすぐボロだしてくれたし二人が制圧してくれたから俺はデコピンしただけだったしな。でも軍曹に攻撃されたのはちょっと焦ったかな」
「指輪があるから平気なんじゃないの?」
「星銀の指輪は、ゲームで言ったら滅多に手に入らない全回復するアイテムみたいなものだから、そういうのをケチって結局最後まで使わないタイプの俺にとってはあんまり使いたくないものなんだよ」
「ところで、このワイバーンはいつまで続くの?」
「んー。あと百匹くらいくるっぽい。肉のためによろしく頼む」
ワイバーンの群れを迎撃し終えた頃には俺の肉を入れている保存袋にはワイバーンの肉が大量にストックされた。そこでふと思ったのだが、これは儲かるのでは? ダンジョン資源と呼べる肉類を卸す会社を作れば……。探検免許の発行元である迷宮統括委員会がダンジョン資源の買取をしてはいるが、個人でやってはならないという決まりはないはずだ。そのうちさくらにでも聞いてみよう。
20層の森へと向かい入り口へ近付くとモンスターの気配が俺たちの向かう先を囲むように展開しているのがエアリスの索敵によって判明した。おそらく、あの猫たちだろう。今回も護衛のようなことをするのかはわからないが、目的地に着けばまた餌を強請ってくるに違いない。なぜかと言えば、この森は食糧になり得るものの気配が少なく、ほぼ無いと言ってもいいくらいなのだ。そしてその予想は当たり、目的地であるフェアリーサークルに着くと次々と三毛猫が姿を現した。ただし“巨大な”ではあるが。
「ここがあの写真の場所なんだね。……綺麗なところだね」
「たぶんダンジョン統合が起きてからできたところだと思うんだけどね」
悠里は少し考える仕草をし言う。
「ダンジョンってなんなんだろうね」
「なんだろうな。とりあえず、あんなのと出会える場所ではあるな」
視線を向けた先には肉を貪る巨大な三毛猫たちがいる。その様子を眺める悠里の横顔はペットがご飯を食べているところを見ているようなやさしげな表情だ。
「悠里さんや、そんな顔で眺めてるけど、猛獣だぞ」
「チビで慣れたんだと思う」
「わふ?」
チビは元の大きさに戻っていてその顔はとても凛々しい。しかし首を傾げているのを見ると俺たちにとってはかわいいだけだ。
「わからないでもない」
「一度行きたいと思ってた場所がダンジョンの中にあるなんてね」
「そうだなー。地上を参考にでもしてるんじゃないか?」
「かもね」
地上にありそうな場所、地上にいそうな動物を元にしたようなモンスター、人類の御伽噺や神話に出てくるようなモンスターがダンジョンの中には存在している。大いなる意志がそれらを創造したのだろうか。そういえば何か忘れているような気がするが……まぁいいか。
猫たちの食事が終わると数匹こちらへ寄ってきて足元で寝転んでいた。一通り撫でてやると、ゴロゴロと喉を鳴らして目を閉じていたのだが、ゴロゴロと喉を鳴らすのは……猫っぽいしたぶん気持ち良いという事なんだろう。時間が経つのも忘れてのんびりした時間を過ごしていると俺の腹が鳴り昼食の弁当を食べる。今朝悠里を誘ってから急遽作ってくれた弁当は初枝さんから料理を教授された事もありそれまでと比べてもワンランク上の弁当になっていた。
弁当を食べ終わり猫たちと戯れていると、突然チビが鼻をひくひくさせ遠くを眺め始める。
「どうしたチビ?」
「わふぅ」
ーー あちらになにかあるようですね ーー
「んじゃちょっくら飛んで見てみるか」
翼を広げ浮遊しチビが向いている方角を見てみると、煙が上がっていた。ダンジョン内で煙が上がっているのを見たことはなく、それにあの煙の昇り方は……狼煙か?
それを悠里に伝え様子を見てくると言うと一緒に行くとのことだったので巨大な三毛猫たちに護衛されながら狼煙の方角へと向かった。鬱蒼とした森を抜ける頃になると、猫の気配は離れて行きやがて感じなくなった。
遠くの立ち上る煙を見た悠里は「自然の煙じゃないね」と言う。
「俺たち以外の人が20層に来たのかも」
チビが先頭を歩き狼煙の元へと向かうと、そこには案の定探検者がいた。一人は薄い金髪の外国人、他に三人いるがみんな黒髪の日本人だ。その四人はチビに気付くと新手が現れたと言わんばかりに警戒心を剥き出しにしている。
チビは体が大きく初めて見ると威圧感や存在感を大きく感じるかもしれない。そのせいか俺たちが見えていなかったであろう四人組の中の唯一壮年の男性が「お前たちは逃げるんだ! あれはまずいかもしれない!」と言い大きな棍棒でチビに殴りかかる。しかしチビはそれを大きな顎で咥えて止め持ち上げる。すると男性の足は地面から離れ空中でジタバタとしていた。
「あの〜、うちのペットは大人しいので大丈夫ですよ?」
「ぺ、ペットぉ!? って……人ぉ!?」
「チビ、おろしてあげて」
チビが男性をそっと地面におろすと男性は尻餅をつき、そこへ三人の女性が駆け寄ってきた。一人は壮年の女性、もう一人はその娘だろうか、高校生くらいの女の子だ。そしてもう一人、この顔には見覚えがあった。
「あれ? リナ?」
「え? 会ったことありマスか?」
(あぁそうか。総理の護衛をした会議の時の俺はペルソナだった)
ーー そうですね。あの時に話していたホームステイ先の家族のようですね ーー
(だな。とりあえず……面倒だからごまかそう)
「あれ? 似てると思ったけど人違いだ。ごめんね」
「ン〜? でもなんだか、聞き覚えのある声ですね」
変声機能は働いていたし聞き覚えなどないはずだが。それとも結局は元になっている俺の声があるわけで、それを聞き分けられちゃう人だったりするのだろうか。
「気のせいだよ。ところでみなさんは初めてここに来たんですか?」
「実はそうなんだ。ここに来た途端、虎かライオンか……とにかく猛獣に襲われてね。それをなんとか倒したと思ったら君達が現れたんだ」
「そうだったんですね。驚かせてしまってすみません。それじゃ俺たちはこれで」
リナもいるしもしも正体がバレたら厄介、という事でさよなら〜……とはいかないらしい。
「ま、待ってくれないか!? 娘が足を挫いてしまって、どこか休めるところはないだろうか? 礼はするから頼む」
男性の娘さんは地面に座り込んでおり、その表情を苦痛に歪めている。俺はどうするべきかと逡巡した。今は悠里のリフレッシュのために遊びに来てるんだよなぁ。でも心配と言えば心配だよなぁ。
「うーん」
「私のことはいいから休ませてあげようよ」
悠里は悩む俺の背中を押す。悠里がそれでいいなら、そうしようか。何かで埋め合わせしないとな。
「……じゃあ移動するんで、みなさんこれを持ってください」
「この珠はなんだい?」
「移動するためのものです。じゃあ目を閉じててくださいね」
ーー 強制転移を発動します。……完了しました ーー
「じゃあ俺たちも戻ろうか。『転移』」
ログハウスに戻るとリビングにはその四人がおり、さくらと香織と杏奈はいなかった。部屋にもいないようなのでどこかへ出かけているのだろう。
「一瞬で景色が変わったが……ここは?」
「21層の……俺たちの拠点みたいなところです」
「21? ま、まあそれはいいな。挨拶が遅れて申し訳ない。私は中川という者だ。こっちが妻でそっちが娘の沙知、そして金髪の彼女がリナだ。うちにホームステイで来ているんだ」
「俺は御影悠人と言います。こっちが佐藤悠里、この愛らしい狼がチビです。他にも三人いるんですが、今は不在みたいですね。帰ってきたら紹介します。じゃあ離れに案内するんで、そこで寛いでくれて結構ですよ」
一通り挨拶を済ませ休める部屋に案内することにした。
四人を離れに案内する前に足を挫いているという沙知に対し悠里が思い出したように【リジェネレート】を施すと、痛みがすっかり消えたようでその表情は明るい。【不可逆の改竄】のように対象が制限されない悠里の魔法はこういう場合にも頼りになる。
離れは三部屋あるため四人くらいならどうということはない。それに露天風呂もあるしダンジョンの中という点を考えれば最高の環境のはずだ。
中川家を離れに案内した後リビングにいると、さくらたちが「ただいま〜」と戻ってきた。
「どこか出かけてたの?」
「そうなのよ〜。悠人君がいないからって“この子”が駄々をこねて大変だったのよ〜?」
「この子? その子……?」
「かわいいわよね〜。耳がピンっと立ってて髪も綺麗で肌も綺麗で」
「それで、その子誰なの?」
「そういえば名前聞いてなかったわね? お名前なんていうのかしら?」
さくらが自分の後ろに完全に隠れていた華奢な人物……布を一枚羽織っただけのような格好、性別のわからない中性的な容姿、耳がピンと立ち髪はサラサラとした薄緑、肌は白磁のように白く滑らかで、髪の色よりも少しだけ青が混じったような色の両眼でこちらを見ている人物に尋ねる。その人物はさくらの方を向き「無いよ」と一言だけ言うとまたこちらをまじまじと見ている。
「う〜ん。パッと見はいかにも……エルフって感じだな」
ーー ご主人様、エロフではないのですか? ーー
えっ? という香織の声が聞こえた。エルフなんて単語が出ればそうだよな。
尚、エアリスの質問への答えは否だ。だってこの子はそれほど立派なものをお持ちでない。むしろすごく慎ましい。それはつまりエルフだ。
「悠人さん、聞こえたんですが……」
「え? なにが?」
「エアリスの声が……」
香織の言葉にエアリスがハッとしたように喉の調子を整えるかのようにしている。その必要性もわからないし香織が言ったエアリスの声が聞こえるというのもよくわからないでいると……
ーー ……あーあー、マイクテスマイクテス。本日はせーてんなりー。……どうでしょう? ーー
「本日は確かに晴天ね」
「というかダンジョンはいつも晴天ですね」
さくらと香織が聞こえている事を確認した。この現象、つい最近もあったな。
ーー 考えられるのは…… ーー
「……大いなる意志?」
「正解だよ」
そう言ったのはつるぺたエルフ少女。ではこいつが?
「……そういえば昨日、なんか言ってたような」
「そうだよ! ひどいじゃないか! せっかく体を創ってここに来たら悠人がいないんだもん!」
体を創って? ちょっとよくわからないが、エアリスの声がみんなにも聞こえるようになるという事は間違いないんだろう。
「お、おう、なんかすまん。それはそうと、大いなる意志って名前なのか?」
「そんなわけないじゃん」
「じゃあ名前があったほうがいいんじゃないか?」
「どうしてかな? どうしてだろう? 名前なんていらないね? いらないよ?」
こいつにとっては名前は必要ではないのか。とは言え『おい』とか『おまえ』とかだけで呼ぶのはな。それはある程度仲良くなって気心が知れてからでも良いはず。あと名前呼ぶのめんどい時な。でもそもそも名前自体がないとなー。
「まぁ……それはそうかもしれないけど、いろいろとな」
「君に都合がいいならあってもいいけどさ。……じゃあ君がつけてよ」
「後悔するなよ?」
ーー 大いなる意志、やめた方が賢明かと思いますが ーー
「いいよいいよ。僕は小さいことは気にしないのさ」
「じゃあ……“大石さん”で」
それを言うと大いなる意志以外のチビを含めた全員から残念そうな雰囲気がひしひしと伝わってきた。こうなることはわかっていたのだ。それでも俺に任せたのだから自分を恨んで欲しい。
その本人は「大いなる意志だから大石なんだね!」と、残念そうだった空気を引っ込めて言う。だがみんなはそうではないらしい。
「ほ、本当にそれでいいのかしら?」
「外国人っぽいですし、それっぽい名前にした方が良くないっすか?」
「例えば?」
「……フェリシアとか?」
杏奈がすごくちゃんとしてそうな単語を言った。意味はわからないがそれっぽくは聞こえる。
「そもそもエルフの名前なんてよくわからないけど、欧米人っぽいからなんだかよさそうだな」
「悠人、花の名前だよ? はい、これみんなのお茶ね」
金髪の人たちってそういう名前つけたりしてんのかなって思ったけど、花の名前だったか。悠里は物知りだな。そしてお茶が、総理夫人の初枝さんに教授されただけあって美味くなってる。これまでより渋みが少なくてやわらかくなってるぞ。
「あ、そうなの。お茶さんきゅ。じゃあフェリシアでいい?」と雑に聞く。
「わかったよ。僕の名前はフェリシア、フェリって呼んでね!きゃぴ⭐︎ 一応女の子だよ! きゃぴきゃぴ⭐︎」
本人は気に入ったみたいだし“フェリシア”で決定だな。フェリって呼んで欲しいらしいしそう呼ぶことにしよう。ところできゃぴきゃぴ言ってるが、それって一体……
「そういうのってどこから知ったんだ?」
「インターネットというものからだね。あそこはすごいね。人類が積み重ねてきた知識の宝庫だよ」
「エアリスといいフェリといい、ダンジョンで生まれたやつはこんなのばっかりなのか」
大いなる意志改めフェリシアがここに来た理由を問うと、俺たちに興味を持ったから、らしい。敵か味方か、何者なのかという事からして詳しくわからないフェリシアだが、今のところ俺たちに何かしようという意思は感じられず、害がないならいいかということになった。
「ところで……僕の部屋はどこかな?」
「あっ……すまん」
部屋自体はあるんだ、小型化したやつがな。まだ増設してないだけで。
「それって、僕と同じ部屋がいいってことだよね? いやー、困っちゃうな〜。こんなにかわいい体を創っちゃったから大変なことになっちゃうかな〜?」
「ならんから。夜までに作っておくから大人しくしててくれ」
ーー 大いなる意志、質問が ーー
「僕にはフェリシアっていう名前があるんだよエアリス?」
ーー ではフェリシア、質問があります ーー
「なんだい?」
ーー 体を創ったというのは本当ですか? ーー
「目の前にあるでしょう? 身体能力は今は人間と変わらないけど、生殖も可能なんだよ。ここにいるオスは悠人だけだから悠人との子供が作れるね」
ーー な、なんですって……。さすが大いなる意志ですね、すばらしいですね。つきましてはワタシも創りたいのですが ーー
「今の君には不可能だね」
ーー そうですか…… ーー
「まあまあそんなに落ち込まないで」
作業をするために部屋に戻った俺についてきたフェリシアはエアリスと人体生成について話していた。何が何やらちんぷんかんぷんなので何を言っていたかはほぼ頭に残っていない。ゲノム生成? SP細胞で代用? 何言ってんだか。
作業というのはほぼ完成間近まできている部屋を作る作業だ。マッチ棒サイズにされている丸太や木材を組み立てていくだけだが。いつもならばエアリスがささっと済ませてしまう工程だが、今はフェリシアとの話に夢中なようだしそれにここまでくればあと少しなので問題ない。隙間風防止のための内装などは元のサイズに戻してからなのでそれも問題ない。
組み立てが完了し部屋を母屋に付け足す形で増築した。ダンジョンのラスボスかもしれない、押しかけてきたつるぺたエルフっ娘であるフェリシアは、その部屋に満足しているようだった。その喜ぶ姿を見ていたら家具も揃えてあげようかなぁなどと思ったわけだが、部屋ではしゃぐフェリシアを置いてリビングに戻るとみんなも同じ気持ちになっていたようだった。
「じゃあベッドは香織と悠里と杏奈で買ってきますね」
「あ、マットとかだけでいいよ。どういう形がいいかは聞いて俺がっていうかエアリスが作るから」
「私は何をあげようかしら。女の子なんだし、服と収納は必要よね。それにエアリスさんと同じものが好きかもしれないから本棚もあるといいかもしれないわね。あとはかわいいテーブルとクッションなどなどかしら?」
「たしかに。漫画とか好きだもんなエアリスは」
それから数日、みんなで話し合いフェリシアの部屋を改装したり家具を設置したり、フェリシアの普段着がゴスロリになったりといろいろあったが、フェリシアは特に問題なくログハウスに馴染んでいった。とは言っても当のフェリシアは、器であるエルフっぽい体を休ませるために数日間眠ったままになっていたが。
ちなみに中川家は次の日の早朝にチビが19層の手前まで護衛して帰り、今回の事を俺(悠人)への依頼という形で迷宮統括委員会を通して報酬が支払われた。金額は四人の救助・治療・宿泊等を一纏めにして二十万円ほどだった。その金額は決まっていたわけではなく、中川家の気持ちが大部分を占めている。治療をした悠里に了承を得てその報酬をフェリシアに宛てたのだが、ゴスロリ服とか部屋をピンクにするとか、そういうのって案外お金がかかるんだなぁということがわかった。ちなみに部屋がピンクになってフリフリの服をフェリシアが着ているのは、女性陣がやったことだ。俺は多少手伝っただけに過ぎないので責任はないのだ。
「ところでフェリ、幻層クリアじゃん?」
「そうだね。そうだよ?」
「次は? 22層へのゲートがある石碑にも入り口が見当たらないんだけど?」
「それはまだ開通していないようだね。しばらく経てば開通するんじゃないかな?」
「あれ? ダンジョンってフェリが作ってるんじゃないのか?」
「幻層の形は創ったけど、その他は管轄外っていうやつさ」
「管轄とかあるのか。じゃあ幻層クリアした時に言ってた、他の二人が?」
「そのうちの一人だね。あいつはダンジョンらしいダンジョンじゃないとダンジョンじゃないって言ってたし、僕よりもインターネットにハマってたから僕みたいに地上をモチーフにした優しい世界なんて作らないかもしれないね」
「ふむ」
今現在更に下層へ行くことができないことから、俺たちログハウスの面々はこの非日常であるはずのダンジョンの中で日常を過ごしながらその時を待つ。
ダンジョン肉を集めてジビエ料理店SATOに買い取ってもらい、素材を集めて加工したり少しだけ地上にも出してみたり。同じ食卓を囲んだり露天風呂を楽しんでいる最中に乱入されたり、みんなでゲームをしたり。チビと散歩に行ったり、中川家との遭遇によって途中で切り上げてしまった悠里の気分転換のためのデートの埋め合わせをしたり、他のみんなともなぜかデートをすることになったり。まぁたぶん普通の日常だ。
それから1ヶ月ほどの間に世界はいろいろな動きを見せている。新たな法案の可決、条約の制定、新たな資源とその流通・加工、そして新たな探検者。しかしその間の最も大きな出来事と言えば、再びのダンジョン統合だ。前回の統合時よりも地上の揺れは大きく、ダンジョンが現れた最初の災害ほどではないがまたもや多くの人々が犠牲になった国や地域もある。その災害により世界の移ろいは加速したのかもしれない。そしてそれはこれからも続くのだろう。
その夜、眠るフェリシアはそれまでの“大いなる意志”としてしか存在していなかった自分は昔の自分とも今の自分とも違っていることに気付く。しかしそれは別の存在であり同じ存在である。
器を得たことが引き金となり記憶の統合、彼女に施された封印解除も同時に進行している。
この器に封入されていた記憶すべてとなると時間はかかるが、いずれ思い出すだろう。
読んでくださりありがとうございます。
拙い文章ではありますがここまで読んでくださった方々ありがとうございました。




