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非日常になった世界でも日常を過ごしたいなと思いまして。  作者: あかさとの
4章 うつろう世界でものんびりしたい

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軍曹?嵐神?ショップ店員?


 翌日、朝食後リビングでお茶を飲みながら香織を連れて行くとみんなに伝えた。悠里と杏奈はちょっと不満そうではあったが「悠人が決めたなら」ということで特に反論はなかった。正直深く突っ込まれなくてよかったなと思う。記憶が反映されている疑いが濃厚だからだ。俺自身はどうなんだということについては、エアリスがなんとかしてくれていることを祈る他ない。


 香織とさくらが準備をするために自分の部屋に戻っている間は悠里、杏奈と話をしていた。俺は基本的に小型化してボディバッグに入れてあるし、服や装備も【換装】すれば問題ないのですでに準備完了だ。


 「それで今日はすぐ26層に行くんだよね?」


 「うん。あの拠点ってさ、食堂があるらしいんだけどまだ行ったことなかったんだよね。だからそこにも行ってみようかなーなんて」


 「悠人さん、それって22層のじゃダメなんです?」


 「んー。十二年後の食堂のごはんだよ? 何が出てくるのかちょっとした興味もあるしさ」


 「そうっすね〜。おいしかったら後であたしも連れてってくださいね〜」


 「おっけー。それじゃ香織ちゃんとさくらも準備できたみたいだしそろそろ行ってくるよ」


 準備を終えてリビングに戻って来たいつもの服装の二人と、26層への入り口であるゲートを開くことができる泉のほとりの石碑へと向かう。

 さくらは黒いボディスーツかレーサーのツナギのようなものでナイフや拳銃もその服に巻き付けたホルダーにしまってある。

 香織は一見街中を歩いていそうな服装、以前ミスリル糸で強化したものなのでそれだけでも充分ではあるが、その下には化学繊維やミスリル糸で強化されたインナーを着込んでいる。

 俺は全身ほぼミスリル糸で強化もしくは置き換えられた見た目ラフな格好だ。ダンジョンの中は今のところ気候に変化がなく薄着でも問題ないのでジーパンにカットソーというそれこそ街にいそうな格好だ。


 「こうして見ると、なんだか私だけ浮いてるわよね〜」


 さくらの言葉を聞いて自分たちの服装を見比べる。……たしかに一人だけバイクのレーサーがいるように見える。これでフルフェイスヘルメットがあれば完璧かもしれない。


 「でもここはダンジョンの中だし、なにもおかしくないんじゃない?」


 「でも二人とも『普段着』って感じじゃない? 私だけどうみても普段着ではないわよ」


 「じゃあ戻ったらさくらの普段着をダンジョンでも使えるようにしようか?」


 「ぜひお願いしたいわ!」


 そう言って目を輝かせたさくらに香織が質問する。


 「さくらは普段どんな服を着ているの?」


 「……考えて見ると普段はスーツか制服かコレしか来てなかったわ」


 「じゃあ買い物に行く? 香織もいろいろ見たいから一緒に買い物に行くね、さくら」


 「ありがと香織。頼りにしてるわね」


 香織はほんと俺以外には淡白なというか普通の話し方が基本なんだなーなどと思いながら会話を聞いていた。

 会話などまるで気にしない様子で俺たちの先を歩くチビが立ち止まる。石碑に着いたからだ。


 「そういえばこの石碑ってさ、なんか見たことあるような感じだよね」


 「そうね〜。詳しくないからわからないけど、よく見るような気はするわね」


 「悠里なら知ってるかもしれないですね。あとで聞いてみましょう」


 石碑に触れ26層へのゲートを開く。石碑を背にした空間が蜃気楼のようにゆらゆらと歪み、そこへ入ると一昨日となんら変わらない光景があった。拠点の南側、少し離れた場所に出た俺たちから見えるのはおそらく金属製であろう門。その横には背にハルバートを背負った門番が仁王立ちしている。


 「あの門番って、モヒカンにしてあの胸当てを直に着けてたら完全に世紀末な格好だよなー」


 「ぷっ……同じこといつも思ってたから、そう言われると改めて想像しちゃうわね」


 「悠人さん、それって漫画とかですか?」


 「そうだよ。昔流行ったやつでさ、科学文明なんてほとんどなくなった世紀末の世界で人間が生きていく話なんだ」


 門まではすぐの距離だが、さくらはそこに着く前になんとか笑いを堪えることができるようになったようで今はいつもの表情だ。しかし門番からは歩いて近付いて来る俺たち、というかさくらが腹を抱えて笑っているのが見えていただろう。しかし門番を見て思い出したさくらはまた腹を抱えていた。


 「西野さんお疲れ様です。こちらに歩いて来る時、ずいぶん楽しそうでしたね?」


 「え? ええ、そうなのよ……お、思い出したらなんだかまた……」


 「それは……よかったですね? ……それと君、久しぶりだな!」


 「久しぶりですね」


 握手のために差し出された右手に手を伸ばすと、触れる直前に静電気がパチンと鳴った。俺は音だけでなんともなかったが、門番は痛そうにしながらも門を開けてくれた。


 「あ、すみません。この服静電気出るのかな」


 「だ、大丈夫だ。しかし静電気とは思えないくらいだったな。握手はまた今度だな! それはそうと、かいもーん!」


 ゴゴゴ……と開きそうな扉はウィーンという音がした後に軽そうに開いた。開いた門の向こうに見えるのは一昨日に見たままの26層だ。25層までよりも少し賑やかな雰囲気のメインストリート、主にコンビニ、服屋、店舗になった元屋台、それにいろいろなホテルが並んでいる。とは言っても建築作業に重機が使えないため二階建てが珍しいくらいだ。間口は狭くその代わりに奥へと広く作られており、昔の日本によくあった造りとなっている。


 「やっぱ全然変わりないねー」


 「そうね。24層みたいなことにはならないのかしらね?」


 「あー、金属の全身鎧の巨人か。そういえばあれ、鉄巨人っていうらしいよ」


 「そうなのね。鎧だけじゃなく、中身も鉄だったのかしら?」


 「エアリスがそう言い張ってただけでそれはわかんないなー。丸ごと消しちゃったし」


 袖を引く香織に目を向けると、前方を指差し言った。


 「……あっちで何かトラブルみたいですよ?」


 「え? ……あぁ、人が集まってるみたいだね」


 さくらは常駐している自衛官がいるから平気と言いつつも気になっている様子だ。俺も気になっているので野次馬に行くことにする。


 エアリスのサポートなしでは俺の索敵は香織以下だという事が判明したが、まぁ気にしない。そもそもエアリスによる索敵は俺の能力である【真言】を代行し応用することでその時点での最高効率で発揮することができる。他の応用した使い方も例に漏れず、エアリスのサポートがなくとも十全に使える能力と言えば通常の【真言】、その中でも単純に“命令する”タイプのものくらいだろう。しかしそれもおそらく、エッセンスの消費効率は悪い。その原因としては俺の練度や込める意思の強さが足りないのだろう。


 エッセンスというのはダンジョンの至るところに存在している不思議物質で、モンスターを倒すとより効率的に手に入る。おそらくダンジョン内の全ての存在を形作る素になっているものという解釈で間違いはないと思う。そうなると俺の反対側、香織を挟んで歩いている狼のモンスターであるチビの素でもあるわけで……まぁそれはそうと、香織が発見した人集りに着いたので考えるのはこの辺にしておこう。


 そこには体格が良く顔を赤くし額に青筋を浮かべ興奮した様子の男と、こちらに背を向けてはいるがもう一人の男が口論していた。


 「てめぇ! 俺の女をナンパしようなんざ良い度胸じゃねぇか!」


 「いえ、そういうわけではないのですが……辺りをキョロキョロとしていたので声をかけさせていただいた次第です」


 「それがナンパだって言ってんだろうが!」


 丁寧な言葉の男は伊集院だった。ただし俺の【真言】により言葉遣いだけが更生した綺麗な伊集院とも言うべき存在。

 開拓民のトラブルというといつもこいつがいるような気がするな。しかししばらく二人の言い争いを聞いていると、伊集院に例えナンパの意思があったとしても悪意があっての行動ではないような気がしていた。俺が【真言】で更生しろと命令してからの伊集院はナンパはするが言葉遣いも丁寧だしな。そのせいで真意を掴むのが難しくなっているような気もするが……。


 「ですから何度も申し上げている通り、困っているようでしたので声を掛けただけで……」


 「うっせぇな! いいから表出ろ!」


 ここ、表だよ。その場にいた誰もが思っただろう。しかしそこは突っ込まない。それがやさしさというものだ。

 一瞬の間を置いて自分でも自覚した様子の男が顔を更に赤くし「てめぇ!」と言いながら殴りかかった。

 それに対し伊集院は避けることに専念しつつ「ですからっ……ちょ……話を」と言っている。その攻防をしばらく見ていると、その間であたふたとしていたおそらく開拓民の女が「私のために喧嘩するのはやめてー!」と言い、それまで野次を飛ばしたり色めいていた周囲を囲む観衆が静まり返る。


 「暴力はやめて!」


 「ご、ごめんな、でもこいつが認めねないからさ」


 謝る男に容赦ないビンタをくらわせる女。男はそのまま吹っ飛んだ。その女に伊集院も声を掛けようとするが「アンタだって結局ナンパ目的だったじゃない! 言い訳するために嘘ついてんじゃないわよ!」と言いながらビンタをクリーンヒットさせ伊集院も吹っ飛んだ。二人の男は気を失ったまま、自衛官にどこかへ運ばれて行き、観衆は散って行った。


 「暴力はやめてと言いつつ暴力を振るう女……こわい」


 「あのビンタは暴力じゃないから平気よ?」


 「香織もそう思います」


 「二人はそういうことしないでね?」


 「悠人さんが悪い事をしなければしないですよ?」


 「うふふ〜」


 なんだかんだで一件落着ということにして串焼きを買う。さくらと香織にも一本どうぞと言うと、もうすぐお昼だからと言う理由で受け取りを拒否、俺が手に持っていた串焼きから一つずつ頬張ると美味そうな顔をしていた。ということで三本は俺とチビで分けた。


 「こういう串焼きとか売ってる物は現実っぽいなー」


 「じゃあここで安い物を買ったらお得かもしれませんね?」


 「安い物なんてなさそうに思うけどなぁ。新幹線とか山とかで飲み物とか買うと高いじゃん? それと多分一緒だよ」


 「そうですかぁ。それは残念ですね。それじゃあ地上でまた買い物デートしましょうね、悠人さん!」


 「え? あ、あぁ……そうだね」


 「あらあら? この間二人で悠人君の地元に行った時のことかしら? お姉さんも行きたいわね〜?」


 「じゃあさくらも一緒に行こうか」


 「別の日に二人きりでっていう発想にはならないのね……まあ悠人君だものね」

 「悠人さんだから仕方ないよさくら」


 なんだか失礼な発言をしていたように思ったが、背の高い姉を慰める妹といった構図の美女コンビもなかなか良いものだなぁということで聞かなかったことにしよう。


 そのまましばらく歩いているといろいろなホテルが建つ一角に行き着いた。思わず立ち止まると背中に声が掛かる。


 「あら? 行くの? 三人で? お姉さんは……それでもいいわよ?」


 「チャンスですし香織もいいですよ?」


 「行かないしチビもいるし引き返しますよお二人さん」


 返事を待たずに踵を返そうとすると、一番手前のネオンがいかにもなホテルから出てきた男女がこちらへ歩いてきた。女は男の腕を抱くようにしており、うっとりとした表情で男の肩に頭をくっつけて歩いている。歩く度に男のゴツい肩が女の側頭部にゴリゴリ当たっている気がする。


 「すごく歩きづらそう」


 「そんなことより、あれ軍曹よね」


 「そうだね。軍曹の奥さんってあの人なの?」


 「ん〜、違うと思うわ。身長は軍曹と同じくらいだったはずよ。元モデルだったかしら」


 「じゃあ浮気? あっ、ここの軍曹は独身なんだっけ」


 「悠人さん、あの女の人、見覚えありませんか?」


 「え? 全然ないけど」


 「香織にはランジェリーショップの店員さんにしか見えないんですけど」


 そうだっただろうか? そもそも俺はその店に連れて行かれた時、顔をあげられずにいたような。しかもそれ、地上の話やで。


 「はい。そういえば悠人さん、ずっと俯いたままでしたもんね? 今思い出してもかわいいです」


 「そういう悠人君も見てみたいわね」


 「それはいいから……それで香織ちゃん、ほんとに店員さん?」


 「間違い無いと思います」


 軍曹がこちらに気付くと、照れた様子を見せながらもこちらへと歩いてきた。連れの女性は軽く会釈をすると目を逸らした。


 「お恥ずかしいところを見られてしまいましたね」


 「あらあら、あまり気にしているようには見えないけれど」


 さくらの言う通り、見せ付けているような気がするくらい堂々としていたように思う。

 続いて俺も質問してみる事にした。


 「軍曹、そちらの方は……彼女さんですか?」


 「ああ、そうだ。実は隔離された百人のうちの一人なんだ。外では会えないからここで……その、いろいろとな」


 ほぉほぉなるほどなるほどー、ふむふむー。


 「もうそろそろ昼だが、悠人たちはどうするんだ?」


 「今日はここの食堂に行ってみようかなって」


 「そうか。ここの食事はうまいからな。特にカレーがオススメだぞ。自分たちもあとで行くから一緒に食べよう」


 「わかりました。じゃあまたあとで」


 二人は歩き辛そうな状態を維持したまま向こうへ歩いて行った。

 俺は覚えていないが香織ははっきりと覚えていた、いるはずのない人物。もしかすると香織が記憶を読まれているのだろうか。


 予想としてはあの二人のどちらかが本命だと思うのだが……。だって俺、百人のステータスを見た時全員の顔を見てるのにあの女の人を見た覚えはないし。それに会釈をされて目が合った時、それと軍曹がイロイロしてきたと言った時、一瞬ニオイがした気がする。してきたとは言ってなかったか。だが同じようなものだろう。気にしない。


 「それで悠人君は何を考えているのかしら?」


 「ん〜、まだ秘密。でもまぁ、もうすぐわかると思うよ」


 「ふ〜ん。楽しみにしておくわね」


 「う〜ん。やっぱり店員さんにしか見えないですね〜。化粧の仕方も着ている服も……服も? 同じ服だったような」


 「あ、あー! それはほら、着回しでたまたまってことがあるしさ!」


 「……そうでしょうかね? お店で着る服と同じ服でデートすることってあるのかな」


 「あるんじゃない? 知らんけど。まぁそんなことよりカレー食べてみようよ、おいしいらしいし」


 気付いてしまいそうな香織をなんとか丸め込……めたかはわからないが、気付かない方がいいかもしれないので無理矢理話題を食堂に移す。香織は大丈夫かもしれないが、さくらはそうではないかもしれないしその逆も無いとはいえないからな。


 それにしても疑問はある。なぜ俺たちの前に姿を見せたのか、だ。思考や記憶を読まれるかもしれないことを前提に考えた場合、地上でも読まれるのか、ダンジョンに入ると読まれるのか、22層や23層以降である幻層に入らなければ読まれないのか。そのどれもが出来ず、しかしこちらの考えを知ろうとしたが故に直接の接触を計ったのか。そのあたりは未だ不明なのだ。考えるだけ無駄な気がしてくるがわかることもある。門番との握手は静電気により阻まれた。それはなんとなくエアリスの仕業ではないかと思っている。それだけエアリスは警戒しているのだ。たぶん。なので俺も警戒するのである。


 来た道を戻りしばらく歩くと食堂が見えて来る。昼時ともなると食堂の外にまで人が溢れていてなかなか前に進むことができない。どうしようかと考えていると、突然チビから威嚇しているような気配を感じた。しかしそれは一瞬だけ。それを受けた人たちは後ずさるように道をあけ俺たちはその通路を通って食堂内へと入ることができた。


 「チビはこんなにちっちゃいのにすごいな〜」


 「わふん!」


 「チビとお話する悠人さん……」


 「あら? 香織だってよく話してるじゃない?」


 「さ、さくらだって」


 「仕方ないわよ〜。だってかわいいんだもの」


 チビはみんなの話し相手になっていて尚更エライって言う話だな。うん。知らんけど。


 食堂内で辺りを見回すと大きめのテーブルに軍曹と先ほどの女性が隣り合って座っているのが見え、こちらに向かって手招きしていた。手を上げて返事をし、食券と引き換えにカレーを受け取ってそちらの席へと座る。


 「どうも。人がいっぱいですね。もっと広くしないんですか?」


 「そうだな。それも追々考えていかなければならないだろうな」


 「十二年も経ってるのに遅いわね〜」


 「なかなか許可が下りないんですよ」


 見た目がさくらのカレーにしか見えないカレーは、さくらが作ったのと同じ味がした。こんなことならさくらにいろいろ聞いておけばよかったかな。ルーは市販なのかブレンドなのかとか。


 「あら? このカレーおいしいわね」


 「そうでしょう? これでも市販のカレールーを使っているらしいんですがね」


 「ふ〜ん……そうなの。なるほど……ね」


 「ん? 西野一尉、どうかしましたか?」


 「いえ? なんでもないわよ」


 「そうですか」


 一方香織も気付いたようで俺にこっそり言ってくる。


 「以前マグナカフェで食べたのと同じ味がしますね」


 「へ〜。まったく一緒?」


 「香織にはまったく同じに感じますね」


 「そうなんだねー」


 ちらりと目の前の二人に目を向けるが、特に変わった様子は見受けられなかった。


 さくら何か考えているような表情だ。たぶんだが、気付いたんじゃないだろうか。

 しかし軍曹にも一緒にいる女性にも何ら変わった様子はない。さくらの頭の中は覗けないのか、わかっていても気付かないフリが得意なのか。

 

 カレーを食べ終わる頃、ふと異臭がした。顔を上げると女性がこちらを見ており目が合う。その時、引きこもっていて聞こえないはずのエアリスの声が聞こえた気がした。その声はとても小さくはっきりとは聞こえなかった。「カレーついてます?」と口の周りをナプキンで拭きながら質問してみると、少し驚いたような顔をした女性が「い、いえ、なんでも……」と言って目を逸らした。

 唐突に居住まいを正した軍曹が言う。


 「大事な話があるんだが」


 「なんですか?」


 「実は……今夜、パーティをするんだ」


 「パーティ? 何かの記念日とかですか?」


 「というか記念日になる、と言えばいいだろうか」


 記念日になる? 軍曹とこの女性に関しての事に思え……それってつまり——


 「もしかして、あなたたち二人の?」とさくらが言う。


 「そうです。それに出席してもらえないかと」


 「そういうことなら是非出席させてもらうわね。悠人君と香織もいいわよね?」


 「うん、いいよ」


 「悠人さんが良いなら」


 二人のパーティとやらに出席することになった俺たちはそのまま26層で過ごすことにした。それまでどうしようかと思って歩いていると、角を曲がったところに都合よく喫茶店があったのでそこに入ることにしたのだが……こんなところに喫茶店なんてあっただろうか。


 「どんなパーティなんだろうね」


 「披露宴みたいなものじゃないかしら?」


 「相手の人はここから出られないんだよね」


 「そういうことになってるわね」


 やっぱりさくらは気付いてるな。という事は、さくらの中でも標的が確定したんだろう。もしもそれが相手に知られていて対策のために誘い出されるのだとしても、これはチャンスだ。


 「うーん。昔話と似たような状況だなぁ。どうすればいいかなー」


 「能力を使ってみるとか?」


 「効けばの話だよね。大事なところでいつも効かないのが俺の能力だからなー」


 いざと言う時の【真言】による強制力はあまりアテにできないと話していると香織がさくらのオハナシはどうかと意見を言う。


 「それは効きそう」


 「オハナシと言えば、何か忘れてないかしら?」


 はて? 何か忘れているだろうか?


 「プルリーヤシュ? のことよ」


 「そういえば会ってないな。どこにいるんだろう」


 「呼んだか?」


 「いや、呼んでないけどちょうどよかった」


 気にかけた途端に目の前に現れるというのは偶然であっても怖いが、最近どうしていたのか聞きたかったのでちょうど良いと質問攻めにした。それによると、定期的に起こる襲撃はまったく問題にならないと言っていた。まぁ一応は自称神なのだから当然だろう。さくらに苦手意識を持っていたはずの嵐神はそうは見えない様子で質問に答えて去って行った。


 「なーんか、嵐神っぽくなかったなー」


 「そうね。ところで悠人君、香水変えたのかしら?」


 「え? いや、そもそも使ってないけど?」


 「そうなんですかぁ? なんだか甘い匂いがするような」


 甘い匂い……これってまずいのでは? たしか術中に囚われると悪臭を甘い匂いと感じてしまうんだったよな。

 その時スマホが震えた。画面を見ると『準備が整いました』と表示されていた。それを見て『?』を浮かべていると画面には新たな文字が表示される。


ーー ただいま戻りました。中から見ていましたが、ずいぶんと好き放題している相手のようですね ーー


 「そんな気はしてる。それより二人の様子がおかしいんだけど」


ーー 問題ありません。マスターのCHAを少々いじっただけですので ーー


 「なぜに?」


ーー どうやら魅了効果のある攻撃をされているようでしたので、その魅了よりも高位となるようにしました ーー


 「CHAって高いと魅了効かないの?」


ーー 精神攻撃への対策となるようです。さくら様と香織様には尊い犠牲になっていただきました……ああ、残念です、ですが後の事はワタシにお任せを ーー


 「犠牲って……。ってさくらも香織もくんかくんかするのやめなさい!」


ーー ですが悪いことだけではありませんよ? 擬似的にマスターの支配下に置いた状態ですので、魅了されることも記憶を読まれることもありません ーー


 「あーそうなの。それはいいんだけど……さくら、服脱がせようとするのやめて! 香織も止める振りして手伝わない!」


ーー 現在のCHAは80程度なのですがこれほどとは ーー


 こうなりゃ仕方ない。俺の能力が火を吹く時が来たようだな……


 「……二人とも『そろそろ大人しくしようね?』わかった?」


 「し、仕方ないわね〜」

 「もうちょっとだったのにぃ」


 エアリスから説明を受けている最中もさくらと香織から服を剥かれそうになっていたわけだが、ここは喫茶店なのだ。他に客がいなかったのは不幸中の幸いだった。

 このくらいで八十、では百にしてしまうと以前のように狩人のような目を向けられることになるのか……? こうならないようにするためにはどうすればいいんだろう。


ーー ログハウスの皆様が“人界乃超越者”になるのが手っ取り早いかと ーー


 (危険だろうからあまりおすすめしたくはないなぁ)


 とりあえず俺を脱がすのはやめた二人に記憶を読まれることも魅了されることもおそらくなくなったはずというエアリスを信じて知っていることや気付いたことを話し合った。それによって二人も軍曹と一緒にいた女性が怪しいし臭いということに気付いていたようだった。俺がニオイを感じたのはほんの数回だったが、二人はもっと多く感じることがあったらしく、エアリスによると魅了を試行された回数が多かったようだった。


 ということで俺たちは怪物の正体を暴露するためパーティ会場へと変わった食堂へと向かった。


読んでくださりありがとうございます。

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