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非日常になった世界でも日常を過ごしたいなと思いまして。  作者: あかさとの
10章 新秩序提唱編(仮)

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ログハウス防衛組1


 「帰ってくる」

 「帰ってきました」


 ダンジョン内に建つログハウスのリビング。そこにはこれまで御影悠人と縁を結んだ者たちが集っていた。御影悠人が消失した事を知るのは香織、杏奈、さくら、カイト、悠里、玖内、そしてチビとおはぎ。ドラゴン娘であるクロはエテメン・アンキの最上階で防衛担当(ラスボス)をしているためそちらに専念してもらっている。玖内は忍者っぽさに磨きがかかって気配を消すのが得意になっていたため襲撃者をストーキングしてもらっている。小夜は……世界のために伝えていない。自室にいるフェリシアのようなアグノスやクロノスには言わずとも“なんとなく”程度伝わっているようだった。よってこの場にいる他の者たちが香織とエアリスの同時の呟きを聴いていたとしても「何が?」となっていただろう。


 ちなみに子供組のガイアとミライには伝えておらず、少しの間御影家で寝泊まりさせている。ダンジョンに入りたくなっても御影家の入り口から入ればパブリックエリアとなる20層の手前までなら人間に襲われることはないからだ。都合の良いことに御影悠人の両親の日課である夕方や夜の散歩が近頃ダンジョン探索に変わっている。そこで20層でもモンスターを軽くあしらえるほどに成長している子供組2人に訓練と称して両親の護衛をさせた。これは悠人の状況を両親にも隠した上で4人の安全と、血生臭い状況から遠ざける事を目的とした、さくら発案の策だ。子供組の家族も安全な場所で保護した方がいいかもしれないが、悠人を様々な意味で守るつもりのエアリスにとってそこまでは許容できなかった。冷たいようだが、エアリスはどこまで行ってもエアリスだった。そしてエアリスの決定を覆せる者は悠人と香織だけだが、悠人は今ここにいない。香織もエアリスの真意を察したかどうかはわからないがその方針に従うことにしたのだった。


 「帰ってくるって……悠人は、無事なのかい!?」


 事情を知る者たちの中で、カイトは声を抑えながらも珍しく焦りを見せる。小声とはいえ事情を知らない他の面々に聞こえてしまったかもしれないが誰も責めることはない。皆、気持ちは同じだった。

 カイトの中で悠人は、幼い頃に自分を救ってくれたヒーローのような存在、それに親友でもある。そんなカイトの衝動的な問いに対し、エアリスは答える。


 「わかりません。あの空間、“アーク”は今のワタシを拒絶していますので様子がわかりません。ですがおそらく……人類最強であったご主人様が、ぴちぴちお肌の超最強ご主人様になって帰ってきた波動を感じました」


 頬に手をあてうっとりした表情のエアリス。これには総員、何言ってんだこいつ、である。シリアスな空気なんだから真面目に答えろと。だが問い詰められたとして、エアリスの答えは変わらない。そしてそれは、大体正解であった。


 「そ、そうかい。なら問題の一つは解決……かな?」

 「はい。しかしそれにより新たな問題も発生したことになります」

 「そうだね。まさかクリミナルが——」


 近頃わずかな間に“モンスターテイマー”と認識されつつある迷宮統括委員会——通称・ギルド——職員の田村を奪取する目的で世界中の国や組織の一部が人員を送り込んできている。それに加え、昨日からはクリミナルと呼ばれるダンジョンの恩恵により強化された犯罪者たちも参戦してきた。その裏にいるのは、御影悠人を暗殺しようと画策した国の上層部である事は既にエアリスが情報収集済みである。もしも暗殺が失敗していた事が発覚すれば、再度暗殺を実行するかもしれない。つまり、また核兵器を使うことも選択肢として充分にあるということだ。今回の核使用は大陸の国に発生しているモンスターの排除及び正体不明のドームの破壊という大義名分を掲げていた。次もまた大義名分を探すならそれなりに時間がかかるだろう。だがなりふり構わなくなってしまったら、御影悠人が人目に付きその生存を確認されてしまう事が原因となる事を悠人自身が知ってしまったら、御影悠人がここに帰ってくるのかどうか……思いを馳せたところで空間が歪む。


 ログハウス内には『何があっても基本的に(とど)まってはいけない場所』がある。悠人とエアリスは転移先に人や物があるか、安全かどうか察知する事ができるが、そうでない小夜がゲートを開く場合のセーフティポイントとして確保されている場所だ。


 「私が、来たのよっ!」

 

 渾身のドヤ顔で胸を張る少女を集まっている面々の地味に驚く声が出迎えた。香織も座っていたソファーから立ち上がる。実際には小夜に聞かれたくない、聞かせたくない話をしており、ログハウスのいつものメンバーの話を遮る意味もあった。『やけに人口密度が高いな』と思っただけの小夜はその意図に気付かず人差し指を唇の下方に当て目を丸くして首を傾げる、漫画でよくあるポーズをしていた。本人としても出来は100点、どこに出しても恥ずかしくないキョトン顔である。何せ少女漫画で勉強したのだ。主人公の根暗少女と、初めのうちはあまり仲がいいとは言えない立ち位置だったが、ある出来事がきっかけでよく行動を共にするようになるあざとカワイイ担当のキャラクターを。


 「小夜ちゃんおかえり」

 「う〜ん? 香織、今日は何だか元気そうなのよ? 良いことでもあったの?」

 「ふふっ、そうかも」

 「香織が楽しそうなら私は嬉しいのよ! だってその方が、きっと悠人しゃんも嬉しいもの! でも座ってていいのよ? 急に立ったりすると赤ちゃんがびっくりするらしいのよ」


 周囲からこの光景を見ればそこにだけ色とりどりの花がぽわぽわと咲いていただろう。そんなほっこり空間が出来上がる。以前の小夜を知る者からすると目を見張る変化……だがしかし、それを消し去ったのは作り出した本人、小夜だ。


 「で? 悠人しゃんは“出張”から帰ってきたのかしら? そろそろ悠人しゃん成分が足りないのよね」


 変わった言葉遣いとその言葉に込められた殺気と勘違いしかねない圧。それはここに防衛のために集った有志たちの肝を冷やすには充分すぎるもので、それまで有った和気藹々とした空気は凍りつき痛いほどの無音が数分続いたように錯覚させた。


 悠人の事情を知るログハウスメンバーの半数は苦笑い。誰が誤魔化すんだと言うように視線を泳がせるのがもう半数といったところ。


 「小夜ちゃん、おにーさんならもうすぐ帰ってくるっぽいっすよ」

 「そうなの!? じゃあ美味しいもの準備しなくちゃなの!」

 「小夜、もうすぐとは言え、今すぐではありませんよ」

 「なぁんだそうなの。がっかりなの。もしかして……最近ここを襲ってるゴミ共のせいなの?」


 今度は明確な殺気が滲み出る。小夜は普段、地上の御影家で悠人の妹として悠人の両親と暮らし高校にも通い、その傍らエテメン・アンキ地下にある魔王城で“勇者を待つ”という役割をしている。

 学校では今のような子供っぽい話し方ではなく、良いとこのお嬢様を装っている。その人間的生活の中で無差別的な殺気の放出など御法度。よって感情の起伏による事故が起きないようエアリスにきつく、それはもうきつ〜く言い聞かせられている。それを健気に守ろうとする人造の魔王、それが小夜だ。この事実を知るのは創造者である御影悠人をはじめとするログハウスの中心メンバーだけだが、その中でもさらに極小数だけが知ることがある。

 それは小夜の魂とも言うべき精神的核が、アグノスのシグマであるということだ。御影悠人に打倒されたシグマは逃げ出し、ダンジョン内某所の神殿区域、そこに安置されていたエアリスの器に吸い寄せられた。器にあった負を浄化する機能が作用したか、シグマの核は慰められ癒された。

 エテメン・アンキという独立した時間を持つ施設の中、ひたすら欲求の赴くまま実験を繰り返していたアグノス・ベータとは違い、シグマは永劫とも呼べる時間の中で狂ってしまっていた。その結果が御影悠人との敵対であり、シグマは敗れ自らの消滅、死を恐れた。しかし偶然か必然か、シグマは救われここにいる。

 エアリスや他のアグノスは仕方がないが、小夜はその時の自分をこれ以上誰にも知られたくない。知られた時、その反応が恐ろしいのだ。故に御影悠人にすら真実をを明かさない。秘密を抱えながらもあの牢獄から解放してくれた悠人に嫌われまいと必死なのだ。それに悠人の両親は小夜にとても甘い。欲しいものを口にすれば何でも買って来てしまいそうな程で、そうさせないように下手な事は言わないようにもしている。今では二人を本当に“親”と認識しているし、それを幸せに感じている。そんな幸せを壊そうとする輩に対し、怒りが漏れ出てしまっても仕方ないのだ。


 「どーどー、落ち着くっすよ小夜ちゃん」

 「そうよ〜。そんな怖い顔してたら、悠人君が帰って来た時にびっくりしちゃうわよ〜?」

 「……そうなのよね。ごめんなさいだわ。それに……香織の赤ちゃんも怖がらせてごめんねぇ。産まれてきたらお姉ちゃんがなぁんでも獲ってきてあげるからねぇ」


 杏奈とさくらに諭された小夜は、空気も動かない自然な動きで香織に近付き、その少し膨らんだお腹をとても大事そうに優しく撫でる。ここに悠人が居たならば、ずいぶん仲良くなったなぁとほっこりしていただろうが、それは他のメンバーも同じだった。まぁ、かなり狩猟民族か戦闘民族な約束ではあるが、()ってくるとか()ってくるじゃなかっただけ、社会でも通用する程度の常識が身についている証左だろうか。間違いなく御影悠人の両親と学校という人間社会の縮図の功績が大きいだろう。


 「ところでお姉さま、少し話があるの」

 「……これから皆様と防衛についての話が——」

 「お姉さま」


 全く圧を漏らさずエアリスの目を見る小夜に、エアリスはその成長を感じた。


 (自制はある程度できるようになりました。衝動的な暴走の心配は、おそらくないでしょう。万が一の際はアルファ……フェリシアもいますし、想定を超えた場合でも“呑んだくれ”達もいます)


 「こっちはひとまず私たちで考えておくから、話聞いてあげて」

 「仕方ありませんね。では悠里様、お任せします」

 「それじゃあお姉さま、場所を変えるの」


 言うが早いか小夜とエアリスをゲートが飲み込む。エアリスはまさかゲートを起動しながら動かすなどということを小夜がするとは思っていなかった。場合によっては敵対行為と受け取られかねないが、悠人に起こった事に薄々勘付いているにも関わらずこのくらいの八つ当たりで済んでいるのだ。それにエアリスにとってこの程度かわいいものである。どこか不備があれば修正してあげようと思うくらいの余裕がある。


 「ここが良いのよ。もしもがあっても大丈夫なはずなのだわ」

 「ずいぶんと高いですね」


 ログハウス上空約2km。確かにここなら多少の暴走があっても問題ないその空に、小夜はエッセンスを放出し透明な床を創り出す。


 「それで聞きたいこととは?」

 「とぼけなくていいの。悠人しゃんのことなのよ。3日前から既読がつかないの」


 小夜がその気になれば国の一つや二つ、それどころか人類の危機となる。エアリスですら貯め込んだエッセンスを消費するだけの地上において、小夜は少ないながら自らエッセンスを生み出している。つまりエッセンスを使い切っても死ぬ事はない。それは小夜が逃げ込んでいた本来エアリスの器となるはずだったモノが、とある生物の因子を組み込んで造られていた事に起因し、その特性を受け継いでいるからだ。エアリスに詳しい知識はないが、その存在には悠人が再現世界で会っている。知識を貯め込みエッセンスを生み出し、満たされた時に本体へと還る。その原初系異世界生物……通称“賢者”の性質が、傷ついたシグマの核を癒す中で影響し、小夜へと引き継がれているのだった。そんな小夜が地上で暴れでもしたら、その継戦能力はエアリスとは雲泥の差だ。もしもの場合は地上に出ないように抑え込む必要があるが、正直なところ手に負えない可能性を否定できない。しかしこのまま誤魔化すのはもはや不可能、むしろ悪手だろう。ならばと、エアリスは覚悟を決めた。


 「3日前……あの日ご主人様は、おそらく核融合の炎に灼かれたのです」

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