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非日常になった世界でも日常を過ごしたいなと思いまして。  作者: あかさとの
10章 新秩序提唱編(仮)

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再現世界よりの帰還


 再現世界での旅行、もとい修行を終えアークに戻って来た。直前、全身を駆け巡る苦痛の記憶が蘇ったが……


 「痛……くない?」

 『なかなか良い仕事をしたと自負しております』

 「おぉ、リーンか。懐かしいな。体、治してくれたんだよな?」

 『はい。しかし正確には元の体の幹細胞を培養し、新たな無垢の器に移植、侵食させることにより、ヒトでありながらヒトならざる潜在能力を保有するワンオフボディとしました』

 「ふむ……?」

 『人類の各種検査方法では、以前と別人とは判定されませんのでご安心ください。ついでではございますが衣服も修復しておきました』


 瞬きの間にリーンが用意したであろう姿見で全身をチェックする。とはいっても服を着ているから顔しかわからないが、以前と違うようには見えない。まぁ顔が変わってなくてホッとした。ログハウスに帰ったら『誰!?』ってならずに済むし。


 感覚としても爪先から頭のてっぺんまで、指の先まで違和感がない。それどころかものすごく調子が良い。試しに【身体強化】してみると以前より出力が上がっているしスムーズに馴染む。今にして思えば以前は身体強化がお粗末だったみたいだからな。なんなら能力として身体強化を持っているその辺の人よりも倍率は劣っていた。エアリスが体とエッセンスを馴染ませる魔改造的なことをしていたから、そのブーストによって基礎値が高かったおかげで低倍率でも上昇値が高かった、といった具合だろうか。


 本気を出せばレンガくらい握り潰せる体にされてたんだもんな。まるで化け物だ。でもそれが悪いことかっていうとそんなことはない。ダンジョンに入ってモンスターを倒したりすると体が強化されるのは、言わば筋トレみたいなものらしいし。要は動いて細胞が壊れたりするとエッセンスが補強する。それにも限度はあるが、エアリスは俺の体のその限界を突破させた。それだって突破できる体だったというのもあるし……悪いことではない。人外街道まっしぐらなだけで。ちなみに新しくなった俺は感覚的に、たぶん本気出さなくてもレンガくらいならチョロい気がする……。


 「ところでこの体、どのくらいかかったんだ?」

 「3日ほどです」

 「3日かぁ。3年くらいの体感だったからいろいろ不安だったんだよな」


 主にログハウス、その中でも香織の事とか。流石に3年経ってたら子供が産まれて簡単な言葉くらい喋るかもしれないし、なんなら他の誰かと一緒になってたっておかしくなく、端的に言うとものすごく嫌だ。そうなったらログハウスに俺の居場所がなくなりもするだろうし……再現世界でそんな心配をしてたら「現実ではそんなに時間は経ってないと思うわよ」と時の女神様であるクロノスが教えてくれたが、それでも不安ではあった。だってリーン、エアリスの親みたいなもんなんだろ? 何かしらやらかしそうだし。

 そういえばリーンにはちゃんと言ってやらないとな。

 

 「あ〜っと、今更だけど……ただいま」

 『はい……! おかえりなさい、我が主人(あるじ)!』

 「おおぅ、効果バツグンだなぁ」


 “ただいま”という言葉はリーンが喜ぶ言葉だ。なぜそれを知っているかというと再現世界の中で旅をしている間、修行の段階が進むにつれだんだんとパンドラシステムの記憶が開放されていった中にそういった情報があったから。そしてそのパンドラシステムはリーンがこれまで出逢った“俺”の記憶を封じたものだった事も知った。封じたと言うだけあり、その箱を開けられるのは“御影悠人”のみ。作り出したリーンですら中を確認することはできない。その“俺”の総数は99、ここにいる俺が100人目。記憶の統合に近いその出来事を繰り返すうち、その中の数人の“俺”がリーンに伝えて欲しいようだった言葉が『ただいま』だった。だからおそらく、その俺たちに対しての“おかえり”なのだろう。


 パンドラシステムの記憶によると寿命で死ぬまで共に在った“俺”もいれば1年未満の“俺”もいた。そして、不老不死の俺もいた。

 不老不死という誰もが羨んでもおかしくない存在になった“俺”は生きる事に疲れ果て、意識を捨て去り自身を高次元エネルギー体に変えるという自殺を試みた。実体を失い個を形作る意思さえも捨て去ってしまえば、エネルギーは拡散し無に還る……つまり死ねると考えたからだ。しかし精神は死んだがそれでも不老不死の概念は消えず、永遠に高次元のエネルギーを放出し続ける存在へと変貌した。そのエネルギーはガスや石油、核などとは比べものにならないほど有用で危険な、文字通り次元が違うものだった。ある程度消費し続けなければならなかったこともあり、その後はリーンのエネルギー源としてリーン以外の何者も触れられない場所に隔離されている。


 ところで記憶の回収方法だが、俺にとってのエアリスがそれだ。俺の頭の中をスキャンし記憶を保管する。能力もそれに含まれる。再現世界で出逢った賢者も能力を授けるというか開花させるようなことをしていたが、それと似たこともできる。今思えばかなりヤバいやつだが、そこには悪意など微塵もない。それに言葉を現象として実現する能力、【言霊】もエアリスが与えてくれたんだと思う。エアリスが狙っていたかわからないが、俺はその能力でエアリスと意思疎通できるようにした。もしかすると、その時にエアリスははっきりとした“個”を得た可能性が微レ存? それっぽいことを言っていたような気もするし……ほんとにあるかもな。


 まぁ……今回の回収プログラムであるエアリスはこれまでと違い“バグ”によって不完全な状態で俺のところに来てしまったという点はかなり不安だが。


 「戻ったわよ、リーン」

 『ご苦労様ですクロノス。パンドラシステム開放とエッセンス変換効率向上プログラムのサポート、大変助かりました』

 「なかなか優秀な生徒だったから楽なものだったわ。あっちで賢者たちが世話を焼いてくれたのも大きかったけど」

 『あちらは大気中のエッセンス濃度がそれほどではないようですから、エッセンス発生元である賢者の手助けは必須でした。予想通りあちらでも好かれたようで何よりです』


 やはりクロノスは“王の影”と呼ばれる男に会いに行っただけではなく、むしろメインは俺の先生役だったか。教え方は実際上手だったしな、まるで何度も人生やり直してる気がするくらいの年季を……おっと悪寒が。

 ところでリーンが『あちらでも』と言っていたが……まさかな。それにこっちの色とか質感が似ているあいつに好かれているかはわからない。そもそもあっちの賢者はこっちの黒い粘体“グループ・エゴ”のように嫌な感じはしなかった。なんていうか純粋と言えばいいだろうか。もしかするとこちらの世界にダンジョンが発生した際、そしてダンジョン内での生物の死亡によって器をなくした魂とも呼べるものがダンジョンに吸収され、さらに賢者の記憶が具現化した存在である粘体に乗り移ったのかもしれない。その意識や感情といったものの中には当然悪意のようなネガティブなものもあり、それが集約されるか増幅された結果があの“嫌な感じ”だと思う。実際に話せば悪いやつじゃないとは思うが……。


 ともあれクロノスが言うように、再現世界で“賢者”と呼ばれるスライムみたいなやつら。あいつら、俺に戯れつきながらエッセンスを流し込んできたんだよな。現実の世界なら肉体の抵抗があるけど、あっちでは肉体がないから……言うなれば皮膚を剥いだ体に直接沸騰したお湯をぶっかけるみたいな鬼も泣くほどの拷問じゃないだろうか。人類最悪の兵器、その炎に灼かれた身であっても、感覚が麻痺せずにその痛みを受け続けるような拷問。語彙力なんて吹っ飛んだ俺が言えるのはもうこれだけだ。

 くっそ痛い、それに尽きる。

 それをどうにかしようとすると痛くないものに変換するしかない。そんな地獄のような拷問……もとい修行を終え、俺は現実へと帰ってきたのだった。



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