南街の基地
地下から湧き出した魔物の一部は、すでに南街の基地まで到達していた。
だがその殆どが、小型ですばしっこい魔物ばかりで、
基地に待機している一部の兵士達だけでも対処出来る程度の魔物ではある。
しかし、基地の兵士達の殆どが、前線の状況を分かってはいない。
故に、ここまで魔物に攻め込まれている事に、不安や疑問を感じている者が多かった。
「ねぇ、なんでここに魔物が出るの・・・!?
戦わなくてもいい任務って聞いて、この街に来たのに!!!」
ハルが不機嫌そうな様子で呟く。
その声は、どこか苛立っていて、不安げでもあった。
ヴァーリア人である彼女達は、南の街には移住してきたのではない。
ただの簡単な任務の為に、偶然来ていただけだ。
「ホント何が起きてるんだ? 異界人の奴らはちゃんと戦ってんのかよ?」
「さぁな。
最初に魔物が出たのは、反乱者共が使っていた地下の隠し基地らしい。
ここからは、結構距離があるはずだが」
「・・・あ、ちょっと見て! 兵士たちが戻ってきてるんだけど、戦いが終わったって事?」
すると、幾つかの班の兵士達が、基地へ向かい帰還してくるのが見えた。
「怪我した兵士達が撤退してきたんじゃないのか?」
「・・・いや、それにしては人数が多すぎるな。それに、あれを見ろ」
男性兵士が、指を刺す。
「・・・嘘でしょ」
その先には。
撤退する兵士達を追う、大型の魔物達の姿がった。
****
「どの様な状況だ?」
南基地の指揮官であるイドリックが、基地へ帰還した魔術師の1班に問う。
「死竜と交戦した班は、ほぼ壊滅状態です」
班長の青年が答える。
「死竜へあらゆる攻撃を試しましたが、全て失敗。
名誉異界人である竜使いの少女も、その死竜の手で殺害されました。
同じく名誉異界人のセンリも利き腕を負傷しています」
「・・・最悪だな。
兎に角、カギツキ隊長の命令だ。何としてでも、奴をここで食い止めなくてはいけない。
この基地にある全ての戦力を集め、策を考える」
その時、部屋の窓に昆虫型の魔物が張り付き、頭部に付いた鋭い突起物で窓を突き破る。
「・・・ッ!!!」
魔物は、窓に空いた穴に身体を捻じ込み、基地の中へ入り込もうとするが。
イドリックの放った魔法弾が、魔物の甲殻を貫いて炸裂し、魔物の身体を吹き飛ばす。
「クソ。魔物共め、考える時間すらくれないか・・・!」
***
「折角基地まで着いたのに、もう魔物がこんなにいるとはね」
コハクの腕から伸びる"竜の尾槍"が、飛翔する昆虫型の魔物を貫く。
「センリさん、怪我をしているのですから無理はしないでください!」
「わかってる」
飛び掛ってくる人型の魔物を、センリは剣で切り裂く。
センリ程の実力者であれば、利き腕を怪我したとしても、この程度の魔物が束になった所で敵ではないだろう。
センリは剣を構え直し、続けて3体の魔物を切り倒す。
しかしその剣筋は、万全な状態と比べると明らかにキレが無い。
腕を完全に貫通する程の深い傷であれば、治癒魔法で処置をしたとはいえ、短時間で完治することは難しい。
「コハク、死竜の様子は伺えるか?」
センリが、魔物と交戦しているコハクへ問う。
撤退する際、コハクは羽虫型の使い魔を放ち、死竜を監視していたのだ。
しかし。
「・・・全部喰われた」
「な、何?」
「死竜のヤツ、僕の使い魔を全部喰いやがった」
コハクは"竜の尾槍"で魔物を貫ぬきながら、舌打ちを吐く。
「奴の行動原理がよく分からない。
目の前の相手を無視して死体を食ったり、かと思えば人より小さい使い魔を狙ったり。
知性があっての行動なのか、それとも偶然か」
その時、コハク達の身体がぐらりと揺れる。
「な、なんだ!?」
「じ、地震!? いや、違うな・・・!?」
コハク達の身体が揺れたのではない。地面が揺れているのだ。
地震かと思ったコハクだが、その原因はすぐに判明した。
丁度、コハク達から数十メートル離れた場所。
そこから、黒く巨大な塊が轟音を響かせ、火山が噴火したかのように地面を突き破って現れたのだ。
近くに兵士達が、砕けた地面の破片と共に上空へと突き飛ばされる。
よく見ると、飛び散る破片には真っ黒い液体が混ざっており、周囲に飛び散った。
そして、その黒い液体が一人の兵士へと降り注ぐ。
「ぐっ、ぎゃああああああああ!!!」
兵士が悲鳴を上げる。
「うっ!? な、何だよ、あれ」
その光景を見たコハクは、思わず絶句した。
黒い液体を被った兵士の身体が、凄い勢いで溶け始めているからだ。
数秒も経たずに、兵士は骨どころか、装備していた剣や鎧すらも残さずに溶けて消滅した。
「この黒い液体、酸か? いや、それにしては・・・!?」
黒い液体は瓦礫と共に空から落下し、ジューと熱したフライパンで肉を焼くような音を立て、建物や地面を融解していく。
「うっ・・・ぐぅぁぁぁ!!!」
その時、フローラが悲鳴を上げる。
「おい、フローラ!!! 無事、か・・・?」
フローラは魔法壁を展開して、降り注ぐ瓦礫と黒い液体を防いでいた。
しかし、魔法壁の半分が、黒い液体によって溶け落ちている。
「あ、あぁぁぁ・・・私の足が・・・」
そして、フローラの片足が、足首の辺りから溶けて無くなっていた。
「私の、足が・・・!!! あぁぁ・・・うあぁぁぁ!!!」
「フローラ!!!」
倒れそうになるフローラを、センリが抱き止める。
「うっ、うぐ・・・。センリさん、すいません」
「謝ることじゃない。俺がついてるから安心しろ」
「・・・はい」
フローラはセンリに支えられたまま、魔法で自身の足を治癒する。
しかし、いくらフローラは治癒魔法が得意だからといって、無くなった足を再生させる事は不可能だ。
それに、ここまで激しい戦い続きで、フローラの魔力は尽き掛けていた。
これ以上の戦闘は無理だろう。
「一度、基地の中へ撤退しよう。悪い、コハク。魔物が寄ってこない様、援護してくれ」
センリはフローラを抱えて、基地へ向かい走り出す。
「了解。まかせろ・・・!!!」
コハクの両腕から"竜の尾槍"が生え、更に数匹の使い魔が生成される。
コハクが黒い尾槍を振るい、周囲に寄ってくる魔物を切り刻み、
操る使い魔が、空中の魔物に突進して自爆し、粉々に吹き飛ばす。
近くに大型の魔物がいないのは幸いかと思ったコハクだが。
しかし、地面を突き破って現れた黒い塊が動き始める。
バキバキと音を立てて前脚を広げ、長い首を伸ばし、黒い竜が地面から這い上がる。
「クソ、やっぱりお前かよ・・・!!!」
地面から這い出してきたのは、死竜であった。




