最悪の魔物 02
それは、昔の話、
ヴァーリアの英雄と、死竜と呼ばれた最悪の魔物の伝説である。
ありとあらゆる物を破壊し、喰らいつくしたといわれる黒い竜は、
その恐ろしい力と、地獄から現れたかの様な姿から「死竜」と呼ばれた。
英雄が追い払ったという事以外、生態も能力も明確にはなっておらず、
言い伝えられている姿すら、どこまでが真実なのか判らず、存在は伝説すらと言われ。
最近では「黒に変色したの竜の希少種」とも言われていた。
その、伝説と化していた魔物が、目の前に存在している。
「おいおい、本当に・・・死竜なのか?」
ドス黒い液体を纏った様な身体の、死竜と思われる魔物は、
デルバード達の方ではなく、アルスフォードが乗る竜を見て、そしてそちらへ向かっていく。
「アルスフォード!!!」
センリがアルスフォードを呼ぶ。
「ああ! わかっている! あいつが正体不明のSSSランクだろう?
来るなら来い!!! 我が、屠る!!!
民家を破壊しながら向かっていく死竜。
それへ向け、アルスフォードの竜は白い高出力のブレスを放つ。
ブレスは、通り道にある物体を無残に消し飛ばし、そして、死竜を撃ち抜いた。
「・・・ッ!!!」
しかし、死竜は高出力のブレスを受けながらも、それを押し返しながら、一歩ずつ進み続けている。
「ちっ、やはりSSSランクか・・・ッ!!!」
舌打ちを飛ばすアルスフォード。
「けどさっきも見た光景だ、もう驚いたりはしないぞ。
さっきの悪魔と同じように、何かトリックがあるんだろう!?」
真正面から攻撃しても無駄だと感じたアルスフォードは、一度攻撃を止めた。
それと同時に、魔術士達が魔法を唱える。
何十、いや何百という数の魔法の鎖が地面から伸び、死竜の前足や翼を絡めとる。
「一切妥協はするな!!! まずは奴の動きを封じろ!!!」
デルバードが魔術士達への指示を叫ぶ。
死竜は暴れることなく、身体に絡む魔法の鎖を、不思議そうに眺めている。
「なんだ、やる気がないのか? だったら、そのままじっとしてるがいい」
アルスフォードの乗る竜が地面を疾走する。
「まずは貴様のその翼を頂く!!!」
アルスフォードの乗る竜は、鋭い牙の生えた顎を開き、死竜の翼に喰らいつく。
「ぐ、ちっ、硬いか・・・!」
しかし、死竜の翼は思った以上に硬いらしい。
アルスフォードの乗る竜は、牙を突き立て死竜の翼を噛み砕こうとするが、
デーモンの翼をへし折った様にはいかない。
その時突然、死竜の首が動いたかと思うと、目にも止まらぬ速さで首が伸びた。
そして逆に、死竜はアルスフォードの竜の翼に喰らいつく。
「ぐっ!? こいつ・・・!!!」
アルスフォードの乗る竜は、死竜の翼から口を離し、強靭な腕で死竜の首を掴み、鋭い爪を突き立てる。
しかし、死竜は竜の翼から口を離そうとはしない。
「ようやくやる気になったか!? だったらこっちも手加減せんぞ・・・!」
アルスフォードの乗る竜が、死竜の首に噛み付く。
そして、顎の力と腕力で、死竜の首を引きちぎろうとするが。
(皮膚が硬いのか? いや、何か違う。コイツ、何かがおかしい!?)
しかし、首を千切るどころか、死竜の皮膚には、傷一つ付けられなかった。
一見、液状にも見える死竜の表皮には、爪も牙は一ミリたりとも食いこんでいないのである。
それを見て、アルスフォードは何か違和感を感じた。
「ぐっ、このっ・・・!!!」
アルスフォードが自身の竜を操り、死竜を地面に押し付けようとするが。
しかし逆に。
死竜の牙が、アルスフォードの乗る竜の硬い鱗を砕き、翼の一部を食いちぎる。
「ぐっ!!! 一旦離れるぞ!!!」
アルスフォードは竜に指示を出し、一度距離を取る。
しかし、翼の一部を食いちぎられているせいか、飛び上がる事は出来ない。
「飛べない、のか・・・!?」
そして死竜は、前足と翼に絡む、無数の魔法の鎖を簡単に引きちぎると。
その巨体からは想像の付かない速度で、アルスフォードの乗る竜へと飛び掛る。
「ぐぅぅぅ!!!」
衝撃で竜の背から落ちそうになるアルスフォードだが、なんとかしがみ付く。
だが、死竜の発達した前足が、アルスフォードの乗る竜の翼を掴み掛かる。
そして、金属よりも断然に硬い、鱗に覆われている翼を、その握力で握りつぶす。
「くそ!!! 逆にこっちの翼を折りに来るとは・・・!!!」
数十人の兵士達が、死竜へ向け魔法弾を乱射し、アルスフォードの援護射撃を行うが。
しかし、死竜には傷一つ付かず、足止めにもならない。
「だったら、もう一度食らうがいいい!!!」
アルスフォードの乗る竜が、至近距離の死竜へ向け、ブレスを放つ。
ブレスの圧力で死竜の身体がぐらつくが。
しかし、それでも、死竜の身体がバラバラになることはない。
「くそ、くそ、くそ!!! ふざけるな!!! なんなのだこいつは!?」
死竜は白く発光するブレスを押し返して、再びアルスフォードへと接近する。
そして、ブレスを放出する竜の頭部を掴み、地面に押し倒す。
「ぐわっ!?」
竜の背から転がり落ちるアルスフォード。
アルスフォードの操る竜は、死竜の胴体へ爪を突き立て抵抗するが、
爪は死竜の身体には通らない。
『アルスフォード!!! 一旦そこから離れろ!!!』
デバイスからセンリの声が響く。
しかし、アルスフォードはその場から動かず、
一枚のカードを取り出し、アルスフォード二人分はあるかという巨大な銀色の剣を生成する。
『おい、アルスフォード!!!』
「うらあああああああああ!!!」
センリの通信を無視し、アルスフォードは死竜に巨大な剣を振り下ろす。
「・・・っ!? こいつは・・・!!!」
アルスフォードの振るう剣が、何度も死竜へ叩きつけられるが、
しかし死竜の皮膚には傷一つ付かない。
(なんだ、この感覚は?)
アルスフォードの振り下ろした剣から伝わる感覚は、
まるで泥の沼を叩ききろうとしている様な、気色の悪さすら感じるものであった。
死竜は、剣を振るうアルスフォードなど目もくれず、長い首をもたげ、口から鋭い牙を覗かせる。
死竜の視る先は、アルスフォードではなく、使い魔の竜の方である。
「や、やめろ!!!」
そして、死竜はアルスフォードの使い魔である竜の首に喰らいつき、
メキメキと音を立てて鱗を砕き、食いちぎる。
「馬鹿な・・・」
食いちぎられた竜の頭部が、地面に転がる。
アルスフォードの使い魔である竜の身体が、徐々に形が崩れ、光の粒子となっていく。
「我の竜が、こんなにも簡単に・・・?」
死竜は、胴体にある大きな口を開くと、
アルスフォードの使い魔であった、竜の粒子を吸い上げていく。
兵士達が死竜へ魔法弾を、時に接近して剣で切り裂くが、
死竜はびくともせずに、ただ光の粒子を食らう。
『アルスフォード!!! 早く戻れ!!! クソ、今助けに行く!!!』
デバイスから聞こえるセンリの叫び声で、アルスフォードは我に返る。
死竜は胴体にある大きな口を開いて、光の粒子となった竜を食らう事に集中している。
「ぐっ、くそ・・・!」
使い魔を失ったアルスフォードは、ぎりぎりと歯を食いしばりながら、死竜の前から逃げようと走り出した。
だが、しかし。
急に太陽が厚い雲に隠れた様に、アルスフォードの目の前が、急に暗くなる。
「なっ・・・」
アルスフォードの真上に、伸びた死竜の頭部があるからだ。
「ッ・・・!!!」
アルスフォードは、咄嗟に銀色の大剣を振るった。
しかし、その瞬間には。
既に、死竜の口内から伸びる、細く長い槍の様な舌が、アルスフォードの腹部を貫いていた。
「・・・ッ、え?」
いつそれに貫かれたのか。
その舌の動きを、アルスフォードはまったく捉えることが出来なかった。
「なん、ッ!?」
そして、死竜の細長い舌が、一瞬でアルスフォードを口内へと引きずり込む。
「アル―――」
アルスフォードの元へ走っていたセンリが。
それを止めようとしていたフローラが、コハクが。
その光景を見ていた。
アルスフォードが、死竜に呑み込まれる瞬間を。




