最悪の魔物 01
「フローラ、無事だったか」
「センリさんにコハクさん! 良かった、そちらも無事でしたか!」
兵士達の中から、フローラの姿を見つけたセンリとコハクが、彼女の元へ駆け寄る。
「なぁ、デバイスのメッセージは見たか?」
「はい。SSSランクの、正体不明の魔物ですよね。
遠くからですが、実物を見ました」
「実物を見たのか?」
「遠くからですが、見ました。シルエットは竜に似ていましたが・・・」
「竜タイプの魔物か。マズイな」
竜という種類は、魔物の中でも最も危険で強力な種類である。
更に、それが"正体不明"であるSSSランクの魔物であれば、その危険度は計り知れない。
何故なら、攻撃の方法も対処も未知であるからだ。
先ほどのデーモンを、これだけの被害で倒すことが出来たのも「翼を破壊する」という対処法を知っていた為である。
「その正体不明の魔物は、今何処にいる?」
センリがフローラに問う。
「詳しい現在位置は分かりませんが、
他の班が、街から魔物を遠ざけるように引き付けているはずです。
・・・ですが、彼らからの連絡は一切ありません」
連絡が無いという事は、魔物と交戦している最中か、
それとも、もう既に死んでいるのかのどちらかだ。
しかし、個人相手の連絡ならまだしも、
班で動いているのであれば、誰かしら状況を伝える者が居るはずである。
一切の連絡が無いとなれば、その班は既に壊滅している可能性が高い。
「・・・ここはアルスフォードが居ればなんとかなりそうだ。
俺はその正体不明の魔物のところへ行く」
アルスフォードの操る竜は、向かってくる魔物の群れを無慈悲に叩き潰している。
倒し漏らした魔物も、周りの兵士達が処理している。
この場は、アルスフォードが居れば十分だろう。
「で、でも待ってください!
いくらセンリさんでも、正体不明のSSSランク相手は危険です!」
「その通りだ、センリ。お前は行くな」
「っ・・・貴方は、コハクの班の」
センリの肩を掴んで止めたのは、大柄な体格の兵士・デルバードであった。
「センリ、君は"切り札"だ。
正体不明の魔物の正体がわかるまで、無茶な事をさせるわけにはいかない。
奴を倒すには、恐らくお前の力が必要になるだろう」
「・・・そうですか」
デルバードも強い兵士だが、戦闘能力であればセンリの方が断然に上だろう。
しかし、カギツキの班に所属しているデルバードの方が階級は上である。
この場での発言権は、デルバードの方が上なのだ。
「・・・ちょっと待って」
その時、コハクが何かを察し、皆に呼びかけた。
「どうした、コハク?」
「なんだろう、何か、妙な感じが・・・」
それは、コハクが今まで感じた事の無い感覚だった。
寒気と、身体を伝う弱い痺れの様な、嫌な感覚である。
冷たい冷気が、身体に吸い寄せられて、集まってくる様であった。
コハクは、その嫌な寒気がする方角を、視線で追った。
「おい、アレをみろ」
コハクが指差す方角に、皆の視線が集まる。
「・・・あれはなんだ、魔物か?」
民家よりも少し上の辺りを、巨大な黒い影が、まるで水の中を泳ぐようにして飛行する姿が見える。
「・・・っ!?」
その黒い影を見て、フローラだけが怯えた表情を浮かべる。
「あれです」
フローラが呟く。
黒い影は徐々にこちらへ近付き、その姿が明らかとなっていく。
全身は真っ黒で、長い首を持ち、背中には2対の翼が生えているが、デーモンと同じく皮膜はない。
翼の先は腕の様な爪が4本程生えている。
手足は畳み、魚か太い蛇の様に身体を蠢かせ、空中を泳ぐ様に飛行している。
「あれです。私が見た、危険度SSSランクの魔物は・・・!」
その姿は、確かに竜に似ている。
「奴と交戦しているはずの班からは、何か連絡があるか?」
「・・・ありません」
デルバードの問いに、フローラが答える。
何の連絡もない、つまり、その班は全員やられたという事だろう。
「では、我々が戦うしかないな。
センリ、さっき言った通り、この場においてお前は切り札だ。
他の兵士達で、あの魔物の情報を集める。
お前は周囲にいる他の魔物共を片づけ、兵士達があのSSSランクの魔物に集中出来る様にするんだ」
「・・・あぁ、了解した。でも、お前達は大丈夫なのか?」
「当たり前だ。ありとあらゆる手段で攻撃し、奴の出方を伺う。
お前達、気を引き締めて行くぞ」
デルバードの合図に、兵士達が続く。
一方の、正体不明の魔物は。
折りたたんでいた手足を開き、建物の屋上に降り立った。
一見、後足に見えたそれは発達した前足で、
長い胴体に、甲殻類の様な後ろ脚が無数に生えている。
そして長い首と、胴体の部分には、鋭い歯が並んでいた。
つまり、その魔物は、長い首の先にある頭部と、そして胴体の2ヶ所に口を持っているらしい。
目に映るだけで寒気がするような深い黒色の姿。
その姿は、竜と呼ぶにはあまりに異質であった。
「・・・あの姿、どこかで見た覚えが」
コハクが呟く。
「コハクさん? どうかしました?」
フローラは心配そうな様子で、コハクに問いかける。
「あの特徴、何かの本で見たことあるんだ。
確か、あの本は―――
ヴァーリアの、英雄についての記録!?」
コハクは何かに気付いた様子で、その表情はみるみるうちに青ざめていく。
「まさか、あれは、死竜・・・!?」
それは、ヴァーリアの英雄の伝説に出てくる魔物。
一度、この国を滅ぼしかけた、最悪の魔物であった。




