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恋は戦争  作者: 月花
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act.5



一限目が終わった後の10分休みに起こった高郷ほのかの襲撃は、目撃者によって尾ひれ背びれとは言わず、胸びれも腹びれも尻びれもついて一年の教室中に広まった。

高郷ほのかが杉浦を押し倒しただの、水無瀬花音の略奪愛に高郷が激怒しただの、杉浦が激怒していただの、水無瀬花音は高郷も杉浦も眼中になく他の人物を狙っているだの……とにかく事実が織り交ざったような、はたまた交ざっていないような類の噂が氾濫している。

その後の休み時間に高郷ほのかが再び現れたのかどうかというと花音は知らない。

何故なら、休み時間のたびに花音はそそくさと教室から逃げ出して、花音の避難場所ベストプレイスという名の階段裏の死角に逃げ込んで、時間いっぱい項垂れていたから。

避難場所ベストプレイスに常備されている拾った金属棒で、この前の続きのタイル地の隙間のゴミ出し作業をしつつ、「ううううぅぅ」と唸る姿は美少女して非常に残念な姿だった。

ゴミ出しにも集中し切れなくてやがてタイルの上に金属棒でのの字を書き始めた背中にはひたすら哀愁が漂っている。

そして昼休みも教師の板書きをさささささっと書き写し、スピード勝負とばかりに机の上を手早く整理していくが、ここで早すぎると教師の不興を買いかねない。

別に「早く終われこの野郎」なんて思ってませんという絶妙な速度で片付けて、左手にはランチバックを握ってチャイムがなったらスタートダッシュでそそくさと逃げ出した。

10分休みのたびに杉浦がこちらに話しかけようとしていたが、昼休みも同じようでこちらを振り返った瞬間にはもう教室の扉に手を掛ける。


(そ・の!話しかけようっていう態度がクラスメイトの疑惑を確信に変えてるってのに!馬鹿なの?ホント)


クラスメイトの疑惑とはこの場合、杉浦が花音のことを好きというくだらないものだ。


(微笑んでるけど目が笑ってないってのに、あれのどこが私のこと好きだっていうのよ)


扉に手を掛けたときに、さりげなく振り返ればクラスメイトに押さえ付けられた杉浦が壮絶な笑顔でこちらを見ていた。

あれは間違いなく「逃げんじゃねえよ、このアマ」と言っている。

そうに違いない。


(何か高郷ほのかが襲撃して以来、クラスメイトが逃亡を助けてくれるのよね。本当に訳わかんないクラス)


廊下に飛び出せば噂が蔓延しているせいか好奇心、侮蔑、嘲笑、同情といった様々な視線とこそこそ囀る声が聞こえてくる。

けれど直接、花音に声を掛ける者は誰一人としていない。

噂を鵜呑みにした連中の反応などどうでもいいことだが、視線はやはりうっとうしい。

仕方ないからお弁当はどこか目立たない場所を見つけてこっそり食べようと決心し、花音は階下への向けて足を動かした。


(中庭にしようかな)


まだ小雨は降っているため外で食べようという猛者はいないだろうから、校舎の雨避けがありそうな場所を見繕って食べようと考えていると、階段を下り切った端のほうで巨体を小さく丸めた背中が見える。

肩越しに見える髪の毛は、短くすっきりと刈られ首は太い。

どこかで見た事あるなぁと立ち止まって観察していると、振り返った相手の顔を見て納得した。

悠の彼氏、攻略対象の1人でもある地村征司だ。

彼はしゃがみこんだまま首だけ捻って、草食動物のような穏やかな目でこちらをじっと見つめると、首を傾げた。

はっきり言って、無骨な地村には似合わない仕草だ。


「……お疲れ様?」

「はぁ……何で疑問系ですか。というか、地村先輩は、何してるんですか?」


彼は息を長く吐いて立ち上がると、地面に置いていたネイビーのランチバッグを取り上げた。


「悠と待ち合わせだ。『2階にはあの女がくるかもしれないから。どうせアンタは上手くあしらえないんだから、昼休みは1階で待ってなさい』と言われた」

「はぁ」


だが、3年生にも攻略対象がいる以上、1階にいても高郷ほのかはやってくるんじゃないだろうか。

彼女は遠慮なしに3年の教室に押し掛けているという不満が、実際3年生の女生徒から上がっているのだから。

そんな疑問が顔に出ていたらしい。

地村は憮然とした表情をすると、ぼそぼそとした声で呟いた。


「見かけたら最終手段として、悠の教室に駆け込めと言われている」

「大変ですねえ」


まるで主人の帰りを待つ忠犬のようだ。

そもそも上級生の教室など理由があったとしても行きづらい場所だから、悠は教室ではなく階段のそばで待っているように言ったのだろう。

地村先輩は何事にも動じないようなどっしりとした雰囲気を持つ人だが、苦手なこともあるし、嫌いなものも存在する。


「……女は苦手だ」

「はあ」


これがよく知らない人だったらもしかして“そっちの人か”と疑うところだけれど、そうじゃないことを花音はよく知っている。


「どう扱ったらいいのかわからない」


高郷ほのかの激しいアピールに心底困っているらしい彼は、ストイックな顔を暗くしてうわ言のように呟いた。


(……知ってます)


ゲーム内でも主人公が近づくたびに無愛想に接していた彼だが、けして嫌がっていたわけではなく、どう接していいのかわからずに困っていただけだ。

彼は過去のトラウマで自発的に何かをすることがとても苦手で、自分が自己主張すること、決断することは罪悪ではないかと考えている。

花音は首を傾げて兄よりも身長の高い男を見上げた。


「じゃあ、悠先輩は?」


恋人の名前に地村は切れ長の目をぎこちなく彷徨わせてもごもごと口ごもった。


「悠は……扱うというよりも自分からぐいぐい引っぱってくから悩んだことがない。悩む暇がなかった」

(……でしょうね)


杉浦悠はものすごくパワフルだ。

ゲーム中では、文武両道、たいていのことはパーフェクトにこなせる才媛、杉浦ルートで登場する彼女はいつでもお淑やかに微笑んでいる。

ちなみに胸がメロンだったりするものの、女性向け恋愛シュミレーションゲームのサブキャラの胸がメロンなんて、何の需要があるのかさっぱりわからない。

明らかにゲームを間違っている気がする。

ともかくこの世界がゲームと酷似していると気づいている人間は少なからず性格が異なっていて、その1人でもある杉浦悠は、恋人である地村を遠慮の欠片もなくバンバン叱り飛ばしている。


(一度、その光景を見た事あるけど凄かった)


去年、冬に受験の息抜きと称して何度か3人でお茶をしたことがあったのだが、メニュー一つ決めるのにも「同じものを」と追従しようとする彼をバンバン叱る。

何かを注文するとき、「同じものを」という人間は少なからず存在するし、非難することもないのでは?と思うものの、彼の場合はどこへ行ってもそれで済まそうとするから悠は気になる……というよりも気に障るらしい。

叱るだけではなくちゃんと何が飲みたいか、どういう物が食べたい気分なのか、時間が掛かっても聞き出すので面倒見がいいと言えばいい。

同じものをと追従することが気に障るという感覚にしても、同じものをと頼む感覚にしても、好き嫌いがはっきりしていて食べたいものを食べる花音には、さっぱり理解出来ない感覚だ。

悠と地村の人柄は好きな方だ。

けれど理解や共感が出来るかと言われれば否だった。


(悠先輩がデートの場所に選んだのが、何故か従姉妹の家だったらしいしねえ)


ゲーム知識を知っているのだから、地村のデータは頭に入っているだろう。

キャラのルートに入ると恋愛イベントの中で5回ほどデートするのだが、主人公が3つの選択肢から行き先を選択する。

キャラそれぞれに好きな場所が設定されているので好きな場所を選べば好感度もアップだ。

だが、従姉妹の家というのは当然、地村の好きな場所には当てはまらない。

そもそもデートに従姉妹の家というのが微妙だ。


「未だに叱られるし、強引だし、振り回されるし、周囲を良くも悪くも巻き込む力強さがあるから、大騒動になったりするけど、……救われている部分もある」


けれど本人たちが満足しているならいいのではないかと花音は思う。

……大騒動は問題だけど。


「水無瀬は何故1階に?」

「中庭でお弁当を、と思いまして……」

「雨が降ってるのにか?」


頷いた花音に地村はじっと彼女を見たが、やがてため息をつくと小柄な花音の頭をポンポンと叩いた。


「風邪をひかないように」


理解は出来ないが、彼は非常にいい人だ。

おやつにと一口チョコを地村に貰って彼と別れると、手に入ったおやつに浮かれルンルン気分で廊下を進む。

とにかく階下に逃げ込みたかったため教室から近かった―――昇降口からは奥にある方の階段を利用したため、昇降口に向かうには3年生の教室の前を突っ切らなければいけないのが多少面倒だが、噂が蔓延している1年生の教室前の廊下を突っ切るよりマシだ。

そう思っていたけれどそれは間違いだったらしい。

廊下で喋っている3年生の間を小さい体をさらに小さくして擦り抜けるのだが、やはり花音の顔を見知った者が多いのか注目を浴びる。

それくらいだったらストレスは溜まるものの仕方ないことだ。

だが、それよりも問題なのは前方から歩いてきたのが非常に会いたくない類の人間だということだった。

ついつい「げ」と嫌そうな声を出しそうになって、花音は慌てて口を押さえた。

無造作に後ろに流された赤い髪を、少し日に焼けした大きな手の平で掻き上げながら歩いている俺様男 日向煌は、アイスブルーの冷たい瞳を手に持ったスマートフォンに向けてこちらにはまだ気づいていない。

口を押さえたまま抜き足差し足、同じ方向へ進む3年の男子生徒の後ろにそれとなく歩み寄って、彼の体の陰に隠れるようにぴったりくっついて歩く。


(よし!)


これでばっちりだと満足し拳を握った花音だが、周囲の生徒たちは水無瀬柚月として顔が割れている美少女の奇妙な行動に注目した。

隠れ蓑にされている大人しそうな男子生徒も花音の存在に気づいているのか、気まずそうな視線を後ろへちらちらと向けながらぎこちなく歩いていく。

明らかに微妙な空気が流れているが、花音が必死に逃れようとしている男は、我に関せず廊下を歩いてきた。

よしよし、このままばれずに行くぞ~と隠れ蓑にしている男子生徒にこそこそくっついて、日向と擦れ違う。

周囲も隠れ蓑の男子も花音の動向を窺っていたが、日向の動向を窺いながら隠れ進むのに忙しい花音とスマートフォンを依然として指先でいじっている日向は気づいた様子はない。


(よしよし)

「ん?妙なコバンザメがいるじゃねえかと思ったら、どこかで見た顔だな」


このまま立ち去ろうとした花音だったが、聞きたくなかった声が横から聞こえてきて固まった。

ギギギ……と油切れの機械のような動きで右上方を見上げると、野性味のある美貌がこちらを見ながら悩むように顰められていた。

何故か一緒に固まっている隠れ蓑の大人しそうな男子生徒は、全身に脂汗を浮かべている。


「誰だっけな……。どこかでこんな顔のちんまい女を見た気がすんだよな」

(ちんまいって余計なお世話よっ!アンタがでかすぎるんでしょうが!)


前回の出会いをすっかり忘れているらしい。

ワイルドな雰囲気を持つ俺様はどこか残念だ。


(そういえばゲームでも初期では主人公の顔を覚えてなかったり、主人公に嫉妬して嫌がらせした令嬢の顔も覚えてなかったっけ)


日向財閥の御曹司は、人の顔を覚えるのが苦手らしい。

人を覚えなくともいい環境で育ったということだろう。

よし逃げよう、花音は顎に手を当てて悩んでいる日向が、二人の様子を窺うように立っている生徒に「おい貴様、こいつ誰だ?」と聞いているのを見て即断した。

ここはダッシュしかないと爪先に力を入れて走り出す。

運動神経はいい方ではないけれど、花音は背中越しに「おいっ!待てよ」という声を感じながら、止まらずに昇降口へと駆け抜けた。











「や。や、た」


逃げ切った。

よろよろと足を縺れさせながら3年の教室前を突破した喜びで浮かれていた彼女は、息を整えながら跳ねるように昇降口へと向かう。

後から思えばこの時、逃げ切った達成感により完全に油断していた。


「ふぎゃ!」

「っ!?」


人がまばらな昇降口のほど近くの廊下で、曲がり角から出てきた人物と見事に衝突してしまったのだ。

取り落としたランチバッグが、カツンと音を立てて硬質な床の上を滑る。

衝撃でよろめいて堪え切れず尻餅をつく花音だが、相手は少しよろめいただけで倒れることはなかった。

「おい!?」と慌てたような男性の言葉が聞こえた。


「いたたた、ご、ごめんなさい」


曲がり角でぶつかるなんて、何てベタな少女漫画的展開。

ある意味、乙女ゲーム的展開でもいいかもしれないが、恋は戦争ではなかったなぁと考えながらリノリウムの床に打ち付けたお尻を擦ると、目の前に大きな手が差し出される。

指先が少しかさついた男の人の手に、きょとんとして花音は視線を向けた。


「大丈夫ですか?」


手の平から腕を辿って肩を通過して顔を確認して、花音は思わず声を上げそうになった。

額にかかる黒髪は目にかからないよう左に流され、青フレームレンズの奥の黒い瞳は心配そうな光を宿してこちらに向けられていた。

不細工というわけではないけれど、そこらへんにいそうな平凡な顔立ち、身長も飛びぬけて高いわけではないだろう。

けれど屈みこんでこちらに手を差し伸べる男性の姿に、他人に興味がない花音の心は確かに躍った。


「ふっ……副、会長……」


上ずった声で呟くと、手を差し伸べた生徒会副会長、鈴木優斗はおやっと目を丸くして穏やかに微笑んだ。

地味だけれど笑った顔が清潔感のある人物だ。


「僕のことを御存知なんですね。ちょっと失礼します、よっと」

「え?あ、あわわっ!」


呆然としていつまでも手を取ろうとしない花音の小さな手を、鈴木の大きな手が掴んで彼女を引っ張って立たせてくれる。

突然のことにあわあわしているだけの花音に、鈴木は床に落ちたランチバッグを拾って手渡してくれた。


「ああっ、弁当!」

「どうぞ。中身が寄ってなければいいんですが……」

「あ、ありがとうございます」


確かに兄が作った美味しい弁当が崩れていたら大変だ。

今すぐに中身を確かめたい衝動に襲われたがぐっと堪え、花音は目の前の人物に丁寧に礼を言った。


「いいえ、こちらこそ伶が迷惑をお掛けしました」

「……はっ?」


何のことだろうと首を傾げると、ふと近くの壁にもたれて立つ冴えた美貌の持ち主が目に入って、ギョッとした。

会ったことはないが見覚えのある人物、会いたいとは全くこれっぽっちも思ったことがない人物の登場に花音は顔を引き攣らせた。


(……げっ!生徒会長!)


てっきり花音がぶつかったのは副会長の鈴木だと思っていたが、実は生徒会長の氷室伶だったらしい。

黒髪の黒目の日本人的容貌を持つ鈴木に対して、白っぽい金の髪に碧の瞳や彫りの深い顔立ちを持つ氷室は陳腐な表現だが、まるで外国の王子様のような容貌の持ち主だった。

イギリス人の母を持つハーフの彼は、鈴木の言葉に気分を害したように、人形めいた綺麗に整いすぎている顔を歪めた。


「迷惑も何も、この女が前をろくに見ないのが悪い」


嫌そうに花音を一瞥する氷室の目の冷たさに彼女は体を固くするが、彼はふんと鼻を鳴らす。

「怜」と鈴木が咎めるが、氷室の口は止まらない。


「しかもぶつかってきた勢いから考えると、走っていたということだ。校則を知ってか知らずかはわからんが、この女の自業自得だろう」

「怜はこの子みたいな細いお嬢さんがぶつかってもびくともしないでしょうが。お嬢さんも前方不注意は危ないですよ?校則以前に怪我をしたら大変です」

「はい、すみません」


確かに生徒会長の言い方にはもの凄く腹が立つものがあるものの、二人の指摘どおりだったので花音は萎れる。

何より兄のお弁当が犠牲になったかもしれないなんて、何たる悲劇。

これ重要。

謝罪した花音に無駄な時間を過ごしたと言わんばかりにため息を吐き出した生徒会長は、さっさと花音が走ってきた方角―――3年の教室がある方向へと足を向けた。


「くだらん。優斗、俺は先に行く」

(くだらんとは何事だあああ!)


睨み付けるがその頃には生徒会長は背を向けていて、こちらに一瞥すらも寄越しもしない。

面白くなくて目の前の副会長を見ると、彼は困ったように苦笑して「すみません」と謝った。


「副会長のせいではないです。こちらこそすみません」


元々廊下を爆走した自分が悪い、……いや、絡んできた日向、この場合、一番最初の原因の杉浦か、いやいやいやもっと言えば高郷が悪いのだろうか。

よくわからなくなってきた。

けれど、ぶつかった件については花音が悪いけれど、そうなるまでの色々な過程を激しく主張したいような気分に駆られる。

が、今は兄の作った弁当が最重要だ。

「今度は走らないようにね」と言って副会長は爽やかな笑みを浮かべて、氷室が消えて行った方向へと歩いていった。











小雨が降る中庭、雨避けがあって草木が生い茂って目隠しになっている場所を見つけて、そこで美味しいお弁当を食べながら花音は考えていた。

食事は時間を掛けて食べたいものだが、昼休みに予期せぬ出会いが色々あり過ぎていかんせん時間がない。


(お兄ちゃんに、杉浦は同じクラスだからいっつも会ってるけど……地村先輩に、日向先輩に、生徒会長まで)


本日、攻略対象キャラ全員に遭遇した(ただし隠しキャラ除く)

箸で摘まんだ兄お手製絶品ミートボールを頬張る。


(うん、今日も最高です。お兄様)


兄の教室に拝んでおこうと拝む仕草をして、再び食事を再開しながら考える。

そしてふと気づいたことがあった。


(ん?そういえば冷血生徒会長と俺様って仲がすこぶる悪かったよね?)


しかも全股ハーレムルートは柚月・花音の良好な関係と地村と悠が恋人同士なために不可となっているが、主人公である高郷ほのかは全股ハーレムルートを目指して動いていた。

つまり、隠しキャラも含めて6名中、2人落とせないことになる。


(ということは、すっかり忘れてたけど、ゲーム通りならあのイベントが起きる可能性があるのか……)


このゲームは勉強や運動などのパラメーターを上げて、選択肢を選んで好感度を上げて、パラメーターの基準値や条件をクリアした各キャラクターのルートに入るので、全股ハーレムエンド以外、複数攻略プレイは出来ない。

つまりルートに入れば、そのキャラクター以外介入のしようがない二人の世界だったりもする(実際にこの世界で二人の世界が可能かどうかは知らないが)

ルートに入る序盤では初期段階の恋愛イベントの他に、キャラ同士の掛け合いでもあるサブイベントが存在する。

特定のキャラクターの好感度を上げたり、特定の選択肢を選んだりすると見れるものだが、その大部分は恋愛イベントには影響を及ぼさないイベントだ。

しかし、この『恋は戦争』というゲームには、特定のキャラの恋愛ルートに影響するサブイベントが存在する。

生徒会長 氷室伶。

怜悧な美貌、冷血・口から出る言葉は常に正論だが、職人芸よろしくずばずば欠点を一点集中で突きまくる様はクラッシャーと怖れられている。


(でも私から言わせればコミュニケーション能力に問題があるとしか思えないのよね)


会話のキャッチボールがなってないのだ。

投げたボールをその場で叩き落されるか、向こうから瀕死必至の剛速球がくるかの2択しかない。

そんな冷血人間氷室と傍若無人な日向は、とにかくソリが合わないと有名だ。

何かあるごとに日向が突っかかり、珍しく氷室も大人気なく言い返す。

相手がどう考えているのか、どう感じるのか考えて行動や発言をしないところはまったく同類なので(暴論か痛すぎる正論かの差しかない)同族嫌悪といったところだろう。

そんな二人の好感度を同時に上げていって、ある一定の好感度に達すると、ゲーム中では主人公を挟んでの対立イベントが起きた。

断っておくが、間違っても主人公を巡ってのドキドキワクワク対立イベントではなく、嫌いな相手に近づいていたことに対する不信感を向けられる乙女真っ青な制裁イベントだ。

ここの選択肢で味方した方はその後、好感度を上げていけば味方したキャラのルートに入れるのだが、味方しなかったほうのルートはサブイベント後、消滅する。

対応を間違えばどちらのルートにも消滅する恐ろしきサブイベントで、初回プレイでひとまず色々なキャラの好感度を満遍なく上げていったプレイヤーがはめられたイベントでもある。

まぁ、回避法としては二人の好感度を同時に上げなければいいだけなのだが、CGが存在するためCGフルコンプを目指していたお嬢様方は泣く泣くイベントを起こしていたはずだ。


(まぁ、複数の男性とコンタクト取ってたらそりゃあねえ)


普通ならばあの女は尻軽だと評判は下がる。

しかも相手がこの学校だけではなく、近隣の他校でも有名な美形どもだ。

全股ハーレムエンドはある意味、ご褒美エンドに近いので(それにしては条件がきついが)基本的に『恋は戦争』というゲームは、同時に複数攻略は出来ない。


(あの主人公だって全股ハーレム狙って動いてたならやり込みプレイヤーだろうし、回避するでしょ)


願わくばさっさと誰かに夢中になって欲しい。

何故ならこちらを睨む貴方の顔が怖いから。

そのために手助けは面倒だからしないけれど。


(お兄ちゃんと地村先輩以外にさっさと夢中になってください)


花音は心底そう願った。







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