↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
従姉妹の美少女姉妹が俺のお嫁さんになりたいらしい。なのに三人で遊ぶのが楽しすぎる  作者: 澄野 朔


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/5

第2話 夏帆とデート、昔とは違う手の温度

 夏休み初日。祖父母の家で朝食を終えるなり、夏帆が俺の腕を取った。


「悠真、デート行くよ!」

「分かったから引っ張るな。で、どこへ?」

「歩けば何か見つかるって!」


 麦茶を飲んでいた千紗が、呆れた顔を上げる。


「お姉ちゃん、何も決めてないんでしょ」

「無計画じゃなくて、自由なの!」

「はいはい。悠真、明日は私の番だからね」


 千紗は笑顔で俺を見送ったが、夏帆が靴を履かせる勢いで急かすと、少しだけ眉を寄せた。


     ◇


 連れてこられたのは、祖父母の家から歩いて十五分ほどの商店街だった。古い時計屋も、軒先を花で埋めた店も、子供の頃と変わらない。夏帆は店先を一つずつ覗きながら歩き、やがて小さなアイスクリーム屋の前で立ち止まった。


「ここ、まだあった! 悠真はチョコでしょ?」

「今日は抹茶」

「えっ、いつの間に裏切ったの!?」

「アイスに義理立てする必要あるか?」


 夏帆は大げさに嘆いたわりに、自分は迷わずチョコを買った。店先のベンチに腰掛けると、俺のカップを覗き込んでくる。


「抹茶、そんなにおいしい?」

「食べてみるか?」


 俺が使っていたスプーンにひと口分すくって差し出すと、夏帆はためらわず食べた。


「おいしい! でも私はチョコの勝ちかな。悠真も食べてみてよ」


 夏帆が自分のスプーンを俺の口元に運びかけ、ぴたりと止まる。その目が俺のスプーンと自分のスプーンを行き来した。俺も、彼女がさっき何を使って食べたのか、今さら気づいた。


「……新しいスプーン、もらってこようか?」

「……お願い」


 替えのスプーンをもらって戻ると、夏帆は何事もなかったようにチョコを差し出した。ただ、一口食べたあとも、俺たちはしばらくアイスから目を上げられなかった。


     ◇


 商店街を抜けると、昔よく遊んだ神社が見えてきた。夏帆は石段を見上げるなり、いたずらっぽく笑う。


「ねえ、グリコ覚えてる? 久しぶりに勝負しようよ」

「高校生にもなって?」

「負けるのが怖いんだ?」

「言ったな。受けて立つ」


 じゃんけんに勝った手で段数が決まる、あの遊びだ。俺たちは石段の下で向かい合い、本気で拳を振った。


「じゃんけん、ぽん! やった、チ・ヨ・コ・レ・イ・ト!」

「六段はずるい!」

「文句は勝ってから!」


 俺は二度続けて負け、ようやく勝ったときには三段進んだだけで歓声を上げた。通りかかった親子が振り返ったが、夏帆は構わず笑っている。最後の一段を先に上ったのも夏帆だった。


「私の勝ち!」

「くそ、もう一回!」

「やる気じゃん!」


 二度目は俺が勝った。夏帆が三度目を要求したところで、二人とも汗だくになっているのに気づき、木陰のベンチへ逃げ込んだ。


「千紗がいたら、勝負の記録までつけてそうだな」

「あはは、絶対やる! 今度は三人で来ようよ」


 夏帆はそう言って笑ったあと、当然のように「次も私が勝つけどね」と付け加えた。


     ◇


 冷えたお茶を飲みながら息を整える。葉の隙間から落ちる日差しが、石段にまだらな模様を作っていた。隣の夏帆は額の汗を拭い、しばらく空を見上げていたが、ふっと笑った。


「今日って、デートだったんだよね。アイス食べてグリコして……小学生の頃と一緒じゃん」

「楽しかっただろ?」

「うん。すっごく。でも、せっかく二人きりなのにさ」


 夏帆はペットボトルを膝に置き、つま先で地面の小石を転がした。さっきまで誰より大声で笑っていたのに、今は俺の顔を見ようとしない。


「俺は、今日みたいなデートが好きだぞ。夏帆といると、つい本気になるし」


 振り向いた夏帆と目が合う。俺は続けるつもりだった言葉を飲み込んだ。変わらない笑顔を見て安心していたのに、こうして黙っている彼女は、知らない女の子みたいに見えた。


「……そっか」


 夏帆はペットボトルを鞄にしまうと、勢いよく立ち上がった。


「じゃあ、最後くらいデートっぽくしよ!」

「例えば?」

「手、つなぐとか」


 差し出した手とは裏腹に、夏帆の声は少し小さかった。俺が立ってその手を握ると、彼女は目を丸くする。


「えっ、ほんとに?」

「夏帆が言ったんだろ」

「言ったけど……!」


 じゃんけんでは何度も向かい合わせた手だ。握ると、指の細さも温かさも妙にはっきり伝わってきた。俺だって平気なわけじゃない。けれど、今さら離すほうが気まずかった。


 石段を下り始めると、夏帆は歩幅を合わせてくれた。さっきの勝負なら一段でも先を争ったくせに、今は急がない。手をつないだまま鳥居をくぐり、商店街へ戻る頃になって、ようやく夏帆が口を開いた。


「……今日は私の勝ちかな」

「何の?」

「悠真と手、つないだから」

「俺もつないだんだから、引き分けだろ」

「もう! そこは勝たせてよ!」


 夏帆が笑って俺の手を揺らした。俺も軽く握り返すと、彼女は横を向いたまま黙ってしまった。


     ◇


 商店街の掲示板に、『夏祭りフォトコンテスト テーマ・夏の最高の思い出』というポスターが貼られていた。夏帆は俺の手を離して駆け寄り、応募要項を見上げる。


「これ出ようよ! 浴衣で花火を背景に、悠真と恋人写真を撮るの!」

「大賞を取る気満々だな」

「千紗にも負けないし。それに……悠真との写真、欲しいし」


 最後だけ小さく付け加えて、夏帆は先に歩き出した。追いつくと、何事もなかったように俺の隣に戻ってくる。俺はもう一度手を差し出そうか迷ったが、彼女がポスターの話を始めたので、結局そのまま並んで歩いた。


     ◇


 祖父母の家に戻ると、千紗が居間で麦茶を飲んでいた。


「おかえり。どうだった?」

「最高! 悠真と手もつないじゃった!」


 夏帆の報告を聞いて、千紗の指がグラスの縁で止まった。俺が頷くと、氷がからんと鳴る。


「……ぐぬぬ」

「千紗、今ぐぬぬって言った?」

「言ってない」


 夏帆は得意げだったが、千紗もその顔を見ると、口元を緩めた。


「……まあ、楽しかったならよかったね。明日は私の番だけど」

「千紗も何か考えてるのか?」

「もちろん」


 千紗はスマホを取り上げ、画面を俺から隠しながら予定を確かめた。俺がフォトコンテストの話をすると、その指が一度止まる。


「お姉ちゃん、悠真との写真で大賞を狙うんだ?」

「そう! 負けないから!」

「私も応募する。写真なら準備がものを言うからね」


 千紗は澄ました顔で言い、夏帆は「勝負だ!」と拳を握る。さっきまで悔しそうだった千紗も、姉と同じくらい楽しそうだった。


「悠真。明日は九時に出ようね」

「了解。どこに行くんだ?」

「秘密。お姉ちゃんにも、悠真にも」


 夏帆が横から覗こうとすると、千紗は素早くスマホを伏せた。


「ちょっとくらい教えてよ!」

「だーめ。明日になったら分かるから」


 千紗はスマホを胸元に抱え、俺に向かって小さく笑った。


「楽しみにしててね、悠真」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。