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2 コール・オブ・C…… 1

今回は海外が舞台。

 ――1978年4月某日――



 ニュージーランドの市場で、佐須(さす)道邦(みちくに)は面白い物を見つけた。ポリネシア系の年老いた店主が出している小さな屋台に、妙な粘土板があったのだ。


 遠洋漁船の漁師である道邦(みちくに)には、外国の奇妙な土産物を家族へ買って帰る趣味があった。

 精悍な30代男のこの変な趣味により、家には太平洋の島々で買った、おかしな旗や像がいくつも飾ってある。妻には呆れられていたが、子供は新しい変な物が増えると面白がって喜んでくれた。


 屋台の粘土板を道邦(みちくに)は手に取る。

 使われた土が珍しい物のようで、粘土板は乾いて硬くなってはいても暗緑色だった。

 見た事も無い象形文字が彫られている。またタコと人と竜を混ぜ合わせたような、奇怪な怪物が意匠されていた。


(ランダとかバロンとか、ああいう妖怪の一種かな。しかし気味悪さはこれまででピカイチだ)


 店主に妖怪の名前を訊いてみたが、わかりにくい発音で上手く聞き取れない。道邦(みちくに)が外国語を得意ではないせいもあるだろう。聞けた範囲を無理矢理言葉にすれば「クチュルウ」にでもなるか。

 道邦(みちくに)は粘土板を買って、屋台を後にした。


 ……が、直後、数歩も歩かないうちにガッと手を掴まれる。


「!?」


 驚いて振り向くと、小柄な少女が道邦(みちくに)の手を掴んでいた。


「おっちゃん、タンマ。その板は私が買うから」


 突然の事に、道邦(みちくに)は思わず少女をまじまじと見つめた。

 薄褐色の肌……この娘もまた現地人なのか。だが顔立ちは中東風にも思える。ちょっと吊り気味の目がネコを連想させる可愛らしい容姿で、歳は10代の中頃か、それより少し上だろうか。薄いランニングシャツと短パンだけのラフな格好をしている。


「私が買うから返品してよ。あ、むしろ私に直接売って。あたし、お金もってるよ。ほれ、おつりは要らないから」


 一方的に言うと少女はポケットからサイフを取り出し、紙幣を何枚か引っ張り出した。

 だがその強引な言い分や金に物を言わせようという態度に、道邦(みちくに)は軽い反感を覚えてしまう。


「ごめんな、お嬢ちゃん。これは俺がもう買ったんだ。同じような物なら他にも多分あるだろ、店のおじさんに頼むんだな」


 そう言って少女を振り切り、足早にホテルへ帰る事にした。


「あ、ちょ、待って!」


 なおも少女は止めようとしたが、道邦(みちくに)は構わずわざと人ごみの中へ入っていく。

 人の壁に阻まれ、少女の姿は見えなくなり、少し離れると声も聞こえなくなった。



 ホテルへ帰ってから道邦(みちくに)は気づく。

 彼女が流暢な日本語で喋っていた事に。



 ――2日目――



 翌日、道邦(みちくに)の乗る遠洋漁船は港を出発した。少し東で漁をしてから日本へ帰る予定である。

 出港してすぐ、道邦(みちくに)は仰天させられた。


「また会ったね、おっちゃん。よろしく!」


 昨日の少女が船に乗っていたのだ。エプロンをつけて、モップを手に。


「な、なんで……」

「ああ、その子なら清掃員として雇ったそうだよ。そんな予定聞いてなかったけど……ま、乗ったもんはしょうがねぇ。ラヴェちゃんというらしいから仲良くしてやろうや」


 呻く道邦(みちくに)に、近くにいた顔なじみの漁師が教えてくれた。

 少女――ラヴェは上機嫌の笑顔を見せる。


「じゃ、お仕事してきまーす。後でお話しようね、おっちゃん」


 そう言うとラヴェはモップを担いで去っていった。



 言った通り、休憩時間になるとラヴェは道邦(みちくに)を探して話しかけてきた。

 粘土板を売ってくれ、と。

 しかし道邦(みちくに)は頑として断り続けた。


 実はこの少女を薄気味悪く感じていたのである。

 奇怪な妖怪の彫られた板にやけに執着し、仕事先の船にまで潜り込んできた不可解な少女を。

 しかし道邦(みちくに)は頑健な漁師であり、ケンカになれば腕っぷしに自信ありの海の男である。そんな自分が幼ささえ残る少女に気味悪さを――それゆえの微かな怯えを――感じている事を認めたくなかった。

 そのせいで意固地になり、奇怪な板を渡そうとしなかった。



 ――4日目――



 それから2日間、漁は順調だった。極めて豊漁、漁師達も浮かれていた。


「こりゃあ海の神様の機嫌が良かったのかな」

「ニューネッシーてのが去年見つかったのもここら辺だっけ? いっちょ怪獣でも獲って帰るか」


(これなら予定より早く帰れそうだ)


 道邦(みちくに)もそう思って喜んでいた。


 だがその日の漁が終わると、数隻の船が近づいてきた。

 その船団は遠洋漁船を囲むかのように周囲を動く。

 不穏な雰囲気を漁師達は感じた。


 遠洋漁船は何者で何の用事かを相手の船団に通信で問いかけたが、返事は全く無かった。


 船団の船員達は褐色肌の男達……近くの島の現地人だろうか。

 しかし薄汚れた服は漁業に勤(いそ)しむ格好ではない。顔も厳(いか)めしく、漁師というより貧民街の荒くれ者といった風体だった。

 奇妙な事に、全員が髪を剃った禿頭で、頭や顔に呪術めいた入れ墨をしている。


 そして船団は距離を詰め……船員達が銃器を取り出し、構えた。


「か、海賊!? こんな所で? あいつらが出るのは東南アジアの、沿岸の方だろう?」


 誰かが悲鳴のように叫ぶ。

 それを破るかのように、遠洋漁船を銃撃が襲った……!

ニューネッシーの細胞組成が分析されてウバザメだと結論づけられているらしいが、ウバザメと同じ細胞組成の未知の古代生物の生き残りである可能性だってまだ残っているのではないか(悪あがき)。

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