2 コール・オブ・C…… 2
登場人物
ラヴェ:十代半ばにしか見えない、得体の知れない少女。
佐須 道邦:遠洋漁船で働く中年漁師。
遠洋漁船を銃撃が襲った!
着弾音が響く中、漁師達は船べりに隠れて震えあがる。
「ど、どうすんだ!? こっちに武器なんてねぇぞ!」
「沿岸警備隊? なんかそんな感じの、とにかく助けを求めて逃げ回るしかないだろ!」
しかし既に囲まれているのだ。
船団が包囲の輪を縮めてきた。皆が絶望的な顔を見合わせる。
「獲れた魚を奪えば帰ってくれるよな……?」
誰かが縋るように言った。
銃声は既に止んでいる。代わりに金属音がした。船べりにフックがかかっている。
海賊船の一つからフックつきのロープが投げられたのだ。それで舷側をよじ登り、海賊達がついに遠洋漁船へ乗り込んできた。
海賊達は一かたまりになって、船上を見渡す。
そして、背中や腰に収めていた銃器を再び構えた。
銃口は抵抗の意思無き漁師達へ向けられる。
会話は無かった。交渉など始まらなかった。
殺すと決めて乗り込んできたのだ。
道邦の脳裏に妻と子の顔が浮かんだ。
どうすればいいのか、何をすれば助かるのかは全くわからなかった。
銃声が響いた。
容赦なく。
海賊が2人倒れた。
撃たれたのは漁師達ではない。海賊達だったのだ。
呆然とする漁師達、混乱して叫び声をあげる海賊達。
銃声は絶える事無く続き、海賊達が次々と倒れる。
ようやく海賊の一人が自分達を不意打ちした敵を見つけた。その男が船べりから身を乗り出して怒りの視線と怒声を飛ばした先は、なんと海賊船の1隻。
次の瞬間、その海賊を含めた残りが撃たれて倒れる。
遠洋漁船に乗り込んだ海賊達は全滅した――実に呆気なく。
しかし銃声は止まない。海賊達の怒声も止まない。
船べりから恐る恐る外を覗いた漁師達は、他の船に残る海賊達とそれを襲撃した者との戦いを目の当たりにした。
襲撃者は異様な男だった。
歳は20歳前後だろうか。
整ってはいるが、モデルや俳優的な線の細い美男子というより、ハンサムと呼ばれるような男っぽさのある容貌だった。
黒いジャケットを羽織り、黒い長ズボンを履き、黒いテンガロンハット。マゼンダ色のインナー以外は全て黒。創作物に出る探偵みたいだ。
そんな男が海賊船の1隻の甲板上で、両手に別々の拳銃を構えて撃ち続けている。彼の周囲にはその船にいた海賊達が倒れ、一人も動かなかった。
「あー……位高憐。あいつかぁ」
普段と何一つ変わらぬ口調でラヴェが呟くのを、道邦は聞いた。
男――位高憐は他の船の海賊達を撃つ。その銃弾は次々と海賊に命中し、うち倒した。
撃ちながら憐は頻繁に銃を捨てた。捨てては別の銃を懐から出す。ベレッタ、グロック、ウェブリーにナガン……出てくるのは常に違う銃だった。
どの銃でも、撃つ度に憐は海賊を撃ち抜いていた。
無論、憐の方とて数えきれないほど撃たれた。だが彼には一発も当たらないようなのだ。
一応海賊の銃口に対し、身を屈めて頻繁に位置を変え、的を絞られにくくはしているのだが……それにしても、どこかに当って痛がるという様子が全く無い。海賊を撃つため、憐は常にある程度は体を船べりから出しているというのに。
やがて銃声が止んだ。
海賊が全滅したからだ。
憐は手にしていた銃を足元に投げ捨てると、遠洋漁船に大声で呼びかけた。
「そっちに乗せてくれないか。どこかの港まで」
警察や軍の関係者には見えず、海賊とはいえ30人以上の人間を撃ち殺している。なぜこんな洋上に、どうやって来たのか。
これ以上ない不審人物の憐……だが、遠洋漁船は乗り込む事を許可した。船長以下一同で散々迷った末にだが。
自分達の命の恩人である事だけは疑う余地など無いのだから。
「お前さんがいるのかよ……」
遠洋漁船に乗った憐の第一声は、ラヴェの姿を見つけての溜息まじりな物だった。
ラヴェに道邦は訊く。
「知り合いか?」
「そだよ。仲良くはないけどね」
ラヴェがそう言う傍らで、憐が船長達に質問されては答えていた。彼自身の名前だけはまともに、他の質問には……
「どうやってこんな沖へ?」
「上手い事なんとかした」
「……こんな所で何を?」
「大物狙いの漁でもしようかと」
「…………あの海賊どもが何なのか、知っているか?」
「いや? 今日初めて顔を見たヤツしかいなかったぜ」
全てこんな調子で、やがて船長達は質問するのを諦めた。
だがふざけた態度を怒りはしなかった。憐が銃を持っている事はわかっているのだ。刺激すると万が一の事も有り得る。
それでも、恐々とこの質問だけはした。
「港へ引き返し、ここであった事を全て現地の警察に話すつもりだ。その……君の事も。君がやった事も」
「ああOK。いいんじゃないか」
憐は実に軽く、あっさりと、船長に同意した。
そんな彼を窺ううちに、道邦は彼の服に小さな穴を見つけような気がした。
弾痕? もしかしたら海賊達の弾が当たっていたのだろうか。
しかしいくら我慢強かろうと、銃弾を食らって平気な顔をしていられるとは思えないのだが……。
海賊達もあまりに不可解な存在ではあったが、遠洋漁船の誰も海賊船を詳しく調べようとはしなかった。
それは最寄りの国の警察の仕事だし……もし生き残りが船内に隠れ潜んでいたらと思うと、誰も足を踏み入れる気になれなかったのだ。
遠洋漁船の甲板上で倒れた海賊達の屍だけは海賊船に投げ込み、海賊船自体はその場で波に揺られるままに任せた。
遠洋漁船はニュージーランドへ、最寄りの港へ引き返す。
このわけのわからない惨劇の海から、一刻も早く逃れようと。
だが船の進路は港へは向かなかったのである。
次の日まで、船の誰もそれに気づかなかった。
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