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1 魔の犬 7

登場人物

位高いたか れん:創作物の探偵みたいな恰好の青年。

瀬戸せと ひろし:オカルトマニアの男子高校生。

座間ざま 晴香はるか:洋のご近所さんな女子高生。

「深淵から出てきた物は、深淵に帰ってもらおうか」


 窓の外に夕焼けが広がる教室に、銃声と獣声が響いた!

 左右の引き金を交互に絶え間なく引き続ける(れん)。銃声が途切れる事なく響き、獣の剛毛を絶え間なく銃弾が撃ち抜く。

 何発か撃つと(れん)躊躇(ためら)いなく銃を捨てた。無暗に引き金を引いているように見えて、弾切れをきっちり把握しているのだ。銃を捨てて空いた手を素早く懐に突っ込む。そうしながらもう片方の銃は撃ち続けていた。


 だが炸裂する弾が減った途端、魔犬は獰猛な吠え声とともに(れん)へ跳びかかった。

 同時に(れん)も横に跳ぶ。

 獣の爪が一撃で机と椅子を砕いた。その時には(れん)は床を転がっており、間合いを離して跳ね起きる。

 空いた手には既に次の銃が握られていた。それを撃つ。撃ちながらもう片方の銃はまた捨てた。捨てるや次の銃を懐から抜く。


 ルガー、ワルサー、トカレフ、ニューナンブ、さらにフリントロック……弾切れしては捨てて懐から出す銃に、同じ物は一つとして無い。企画や大きさの違う銃に常に共通するのは片手で撃てるという一点のみ。

 それらを両手で撃ちながら、魔犬が跳びかかる度に機敏な動作で避けてみせた。砕ける机や椅子の破片が時に肌を掠めるが、それに眉一つ動かさない。

 そうして激しく動きながら、撃つ弾はことごとく魔犬に命中した。近距離とはいえ、銃撃を命中させるのはそう簡単な事では無いのだが。左右交互に撃ち続けながら常に移動しているのだから、むしろとんでもない高難易度のはずなのだが。


 苛立ちと怒りで魔犬が吠える。教室がビリビリと震えるほどに。(ひろし)が頭を抱えてうずくまり、晴香(はるか)悲鳴をあげて腰を抜かすほどに。

 だが魔犬は満身創痍、全身を撃ち抜かれて大量の血を流している。

 対して(れん)は無傷だ。机や椅子の破片が何度か肌を掠めたはずだが、傷も負っていないし出血も無かった。


 状況は(れん)の優勢だった。

 しかし……魔犬は翼を大きく広げた。そして教室の中を飛んだ。

 翼まで広げた巨体は床から天井まで覆わんばかりだ。それが飛ぶ。避けようにもそうできる空間がほとんど無い。

 だが皆無ではないのだ。(れん)は床を転がってなんとか魔犬の下をくぐろうとする。


 しかし魔犬の爪がすくい上げるように薙ぎ、ついに(れん)の体をとらえた。

 服と肌が裂かれる。血しぶきをあげながら(れん)の体は軽々と吹き飛んだ。

 窓ガラスを破って、外へ。


 晴香(はるか)が悲鳴をあげた。

 (れん)の体は落下し、視界から消える。

 魔犬が教室の床に着地し、振り向いた。


 抵抗できる者もする者も、もはや無い。


 机も椅子もすっかり減った教室の中、床の上で(ひろし)はのたうった。恐怖でろくに動かない体で、それでも逃げようと。

 ドス、ドスと、魔犬が重い足音を立てて(ひろし)を追った。

 芋虫のように逃げようとする(ひろし)

 魔犬は容易く追いついた。


 その光景を前に、晴香(はるか)はぎこちなく後ろに下がる。足がなかなか言う事をきかない。

 それでも、自分が全く何もできない惨劇から、少しでも離れずにはいられなかったのだ。

 体が窓に当たる。これ以上は下がれない。

 窓の外を見た。

 上は夕焼けの空。下は学校の裏庭。その裏庭に(れん)が倒れていた。猛獣の爪でえぐられた上で高所から落下したのだ……生存は絶望的だろう。


 その時、(ひろし)は魔犬の爪に捕まっていた。

 小柄とはいえ高校生の男子が、前足1本の爪だけで床に押さえこまれて動けない。

 眼前の間近で光る目。生臭い息。爪ごしに伝わる絶対的な力の差。

 (ひろし)は泣いていた。泣きながらひきつった顔で笑っていた。もう感情さえまともに働かない。圧倒的な死に圧し潰され、声も出なかった。喉から出るのは変な呼吸音だけだ。

 爪がゆっくりと肌に食い込む。皮膚が押し切られ、血が流れ始めた。


 その時――裏庭の(れん)が目を開けた。

 傷を押さえて立ち上がりながら、彼は叫ぶ。


「カオスシーカー!」


 突如、晴香(はるか)はバイクが走る音を聞いた。

 魔犬も何事かと顔を上げる。

 教室の戸が破れ、吹き飛ばされ、主人に呼ばれた(れん)のバイクが跳び込んできた!


 バイクには誰も乗っていない。無人だ。

 無人のバイクが全速力で、魔犬の体にブチ当たる。

 勢いとパワーで獣の巨体を吹き飛ばし、魔犬とバイクは割れた窓から外へと飛び出した。

 教室の床には虚ろに笑う(ひろし)だけが残されていた。



 宙に飛び出した所でバイクが変化(へんげ)した。手が生え、足が生え、コウモリのような翼が生え、カウルが虫とトカゲの混ざったような頭に変わる。

 それは怪奇な神話において【バイアクヘー】と呼ばれる、この世ならざる生物だった。

 異形の正体を現し、カオスシーカーは翼を広げて逃れようとする魔犬と空中で揉み合う。絡まるようにしながら両者は落下した。

 だが既に受けていたダメージの差で、カオスシーカーが僅かに押しきり、魔犬を地面に叩きつけながら爪を深々と突き刺した。


 魔犬の咆哮が響く。


 その頭に二丁の拳銃が付きつけられた。


「お前の出番は終わりだ」


 (れん)が引き金をひく。

 デザートイーグルとコルトパイソンが火を吹き、魔犬の頭を撃ち抜いた。


 次に魔犬が響かせたのは断末魔だった。


「人間の破滅で終わるパターンばかりじゃないんでな」


 そう呟くと銃を捨て、(れん)は「ふう」と溜息をつく。

 そして大きく裂かれた胸の傷に手を当て、顔を(しか)めた。


「いてて……やっぱ()()にやられた傷()()は効くわ」


 そうこぼす(れん)は、落下した事による負傷など全く負っていなかった。

 そして魔犬の屍を見る。急速に蒸発して消えてゆく躯を。


「ま、それもお互い様ってヤツではあるが」

御覧いただきありがとうございます。

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