5 セレスティアル 6
登場人物
位高 憐:創作物の探偵みたいな恰好の青年。
ラヴェ:十代半ばにしか見えない、得体の知れない少女。
倉根 歩夢:MMORPGに熱中している男子高校生。
荒野の向こうで爆音が響いた。
激しい音が何度も繰り返され、地上から炎や稲妻が上がる。
憐の表情が険しくなった。
「ついに始まりやがったか」
「一体何が?」
歩夢――『ブレイド』が訊くと、憐はバイクに跨った。
「あんたのギルドメンバーが襲われているんだ」
「俺も行く!」
反射的に叫ぶ『ブレイド』。
憐は親指で後部座席を肩越しに指さす。
「了解。乗りな、飛ばすぜ」
――街道――
戦士、魔術師、神官……様々な職業の冒険者達が背中あわせに集まり、それを怪物達が囲んでいた。
グールやゴブリンじみた半獣人、馬頭の怪鳥……それらが襲いかかり、冒険者達が武器と魔法で迎え撃つ。
「くそっ、どこかが途切れてくれれば……」
武闘家が敵を睨んでいらいらと漏らした。
近接向きでないメンバーを守りながら戦うとなると、包囲された形は不利だ。密集した後衛を散開した前衛がカバーする陣形を、敵は好きな方向から好きなタイミングで攻めてくる。
個々の能力で上回っているから持ち堪えてはいるが、圧され気味なのは否定できなかった。
「危険だが、どこか一方向を切り開こう」
そう提案したのはギルマスの『ピサロ』。ギルメン達は皆で頷く。
しかし怪物達の囲みを見ても、どこを攻めた物か判断は難しかった。
そこへ道の向こうから、排気音とともにバイクが走ってくる。乗っているのは……
「あれは『ブレイド』君!?」
皆が驚く中、バイクは怪物の群れへ突っ込んだ。
怪物達とて気づいて迎え撃とうとはしたが、バイクは前輪を上げてウイリーの体勢をとり、怪物どもを容赦なく撥ね飛ばす。
そんな無茶をしながらバイクは転倒どころかよろけもせず、怪物どもが一方的に吹っ飛ばされた。
転がる怪物どもを横薙ぎの斬撃が容赦なく叩き切る! ウイリーの姿勢をとった時に『ブレイド』は跳び下り、いち早く攻撃態勢に入っていたのだ。
大きな剣を鋭く振り回す『ブレイド』は血飛沫をまき散らす竜巻のごとし。
包囲の一画に明確な穴が開いた。
「あそこだよ、ほら!」
『ラヴェ』の叫び声が響き、皆がハッと我を取り戻す。
冒険者達の前衛が半数切り込み、それに後衛が続いた。前衛の残り半数は後ろから襲いくる怪物どもを食い止める。
食い止められた怪物を銃弾が撃ち抜いた。
憐が2丁の拳銃を両手で撃つ。怪物どもへ、次々と。
その憐に食いつこうとした怪物の頭を『ブレイド』の剣が斬り落とした。
怪物の囲みを突破した冒険者達の、後衛職の者達が反転した。怪物どもへ魔法や弓術を撃ち込むために。
爆炎や必殺の矢が容赦なく怪物どもへ降り注ぎ、次々と息の根を止めた。
再び包囲しようと回りこもうとする怪物もいたが、それには前衛の者達が打ちかかって倒す。
包囲を破られてしまえば怪物どもは一転して劣勢となり、急速に数を減らしていった。
そして……結局巻き返す事はできず、やがて怪物どもは全滅した。
倒された怪物どもの屍が無数に転がる。その凄惨な光景の中、ギルメン達は破顔して『ブレイド』へ駆け寄ってきた。
「やっぱり君もこの世界に来たか! 助かったよ」
「流石だな『ブレイド』君、頼りになるぜ」
そう言って賞賛するギルメンは、彼らが『セレスティアル』で使っていたキャラクター達だった。
しかしただ一人『ラヴェ』だけはゲーム内の女僧侶ではなく、オフ会で出会った本人自身が古代エジプト神官のような恰好をしている。髪の一部はネコの耳を思わせる形状になっていた。
それを『ブレイド』は不思議に思ったが、彼が何か訊くよりも先に、ギルメンの一人が警戒も露わに憐へ話しかける。
「助けてくれたのはありがたいけど……代わりにアイマスクを寄こせ、というんじゃないだろうな?」
「まぁな。あんた達ももう要らない筈だ。みんな集まっているようだし、ここらで詳しく話をさせてもらいたい」
そう答える憐の視線は、ギルマスの『ピサロ』に向けられている。
戸惑いながらギルメン達も『ピサロ』へ目を向けた。
彼は皆の視線を前に、弱々しく足元を見た。
「……ここは酷い有様だ。場所を変えよう。どこかの街へ」
「じゃあウルタールへ行こ!」
陽気な声をあげたのは『ラヴェ』だった。
他のメンバーが顔を見合わせる中、『ピサロ』は頷く。
「そうだな、あそこでいいか。とにかくここから動こう」
――道中――
果てしない荒野を貫く街道。そこを歩く冒険者達。
バイクを押しながら憐は話し始めた。
「さて、何から話したもんだか。ここは幻夢郷で『セレスティアル』じゃないって事は、そろそろ理解してもらえてるかね?」
「というか、これ、夢じゃないよな? なんというか……別の世界に来てしまってないか」
『ブレイド』のその疑問に憐は「ふうむ」と呟いた。
「当たりと外れが半々て所か。夢を通って行く別の世界……だから夢の世界とも言える。本来なら【夢見人】と呼ばれる体質でないと来れないんだが、今回は来るための道具をバラ撒いた奴がいたから特別なケースだ」
彼は横目で『ピサロ』を見た。
『ピサロ』はうつむき気味で歩きながら、それでも話し始めた。
「地球よりも別の世界へ。行きたい人も多いと、俺は思ったんだ。俺がそうだったから。そして俺は辿り着いた。それで……同じような仲間がいたらなぁ……そう思って」
憐は肩を竦めた。
「事実を教えずに連れて来るのは騙してるのと同じだろ?」
「ここに着いてからでも、帰ろうと思えば帰る事ができるし……」
それが『ピサロ』の言い分。
皆、黙って辺りを見渡した。広大な平原と、それを囲む未知の山脈や空を。
(広大な魔法の世界か。確かに興味はある。この世界を旅して、冒険できたら……そう思う)
『ブレイド』――歩夢の正直な気持ちはそうだった。『ピサロ』への怒りや恨みは無い。
しかし……
その時、地面が振動した。皆が慌てて周囲を窺う。
道の側にある大きな岩が動き、下から持ち上げられて転がった。
岩がどいた跡には地下からの階段があり、そこから巨体が地上へ出てくる。
皆が身構える中、憐がバイクを立たせた。
「まだ追手がいたか」
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