5 セレスティアル 4
登場人物
位高 憐:創作物の探偵みたいな恰好の青年。
ラヴェ:十代半ばにしか見えない、得体の知れない少女。
倉根 歩夢:MMORPGに熱中している男子高校生。
――17日目――
前回とは別の居酒屋で行われたオフ会。
前回のメンバーは全員出席。その上で『ラヴェ』のプレイヤーが新たに加わったのだが……歩夢も含め、皆が驚く事になった。
「へえぇ、『ラヴェ』さんもこんな若いのか!『ブレイド』君と同じぐらいだね」
「へへへ……リアルでもよろです~」
そう言って愛想笑いするのは10代中頃の女の子。
ちょっと吊り気味の目がネコを連想させる可愛らしい容姿で、外国人の血が混じっているらしく薄褐色の肌をしており、顔立ちは中東風にも思える。
薄いランニングシャツと短パンだけのラフな格好で、それがより子供っぽい印象を強めていた。
歩夢の隣に座っている女性が、妙に楽しそうに肘でつついてきた。
「もしかして意識しちゃう?」
「いえ、そんな事は……」
歩夢とて男子高校生、年頃なので恋愛に興味が無いわけではない。
だがゲーム内のギルドでとなると、実は避けたかったし、他のメンバーにも避けて欲しかった。
(恋愛沙汰で壊れたギルドの話、ネットでよく見るもんな……)
それが理由である。
今の彼には『セレスティアル』でのゲームライフが最優先だったのだ。
一方、『ラヴェ』は他のメンバーを見渡して訊いた。
「それで、アイマスクって何?」
「これこれ」
参加者の一人がアイマスクを取り出す。
彼は冗談めかしながら付け加えた。
「これ使うようになってから、俺、夢の中でも『セレスティアル』やってるよ」
「え!? 僕もです!」
思わず声をあげる歩夢。
すると他のメンバーも戸惑いながら顔を見合わせた。
「私もなんだ……」
「あ、オレも」
「え? じゃあ皆そうなの?」
なんと一人の例外もなく、全員が一続きの夢を見るようになったらしい。
内容を確認しあうとそれも大同小異、自分が一番よく使うキャラクターと同じような武装とスキルで街から荒野へ旅し、地下神殿への階段を下りてゆくという物だった。
「へえ、不思議な話だな」
「深層心理への影響? そんな感じなのかも……」
やはり皆、アイマスクの影響だと考えている。
しかし実害が何も出ていない事もあり、忌避感を抱く者はいなかった。
むしろ期待を籠めてこんな事を言う者までいる。
「この技術が進んだら……マンガやアニメみたいに、いつかネットのゲームに意識をダイブさせてプレイする日が来るのかもな」
皆がワッと盛り上がった。
「来るならぜひ来てほしいね!」
「そんな事が実現したら、俺、もうゲームから出ないよ」
話が弾み、皆が夢の未来の夢のゲームを語る。
歩夢も心から皆に同意し、自分の希望を語った。
楽しい時間はあっという間に過ぎる。
まだまだ話し足りなかったが、解散の時間になった。清算を済ませて皆が店を出て、駅やタクシー乗り場へと別れる。
歩夢も駅へ向かうが、その帰路はギルマスの『ピサロ』と新人の『ラヴェ』が一緒だった。
『ラヴェ』はアイマスクを手にニコニコと上機嫌だ。
「ありがとー、これ大事に使うね。ところで……」
彼女が興味津々の瞳で『ピサロ』を見上げる。
「これ、どこでどうやって手に入れたの? 教えてくれたら嬉しいなー」
「それは……まぁ、色々とね、うん」
「教えてくれたら、お礼しちゃってもいいんだけどなー?」
「けれど、その、企業秘密って事で言えないんだ」
『ピサロ』は明らかに困っている様子だった。
流石に口を挟んで『ラヴェ』を止めようか、と歩夢が考えた……その時。
前方に人影が3、4人現れた。
既に夜もおそく、どうにも不明瞭で黒い影にしか見えない。
足音がした。後ろにも数人出て来たのだ。
(え? 囲まれてる?)
それに気づいた時、歩夢は嫌な予感と恐怖を覚えた。
自分達3人と、それを囲む人影。夜の通りには他に誰もいない。
(まさか、強盗か何か……)
内心怯えていると『ピサロ』が前方の人達に言った。
「そこ、通してくれますか」
その声は震えていたが、3人の中では最年長という立場が、ぎりぎりの度胸を振り絞らせたのだろう。
声をかけられた人影が近づいて来た。
皮膚はなめした革のようで、服は着ていない。
長く乱れた髪に、猿とも犬ともつかない獣そのものの顔。指先の爪は剣呑で鋭く、足は蹄だ。
人間では無かった。
夢で見た食屍鬼どもの群れだった。
そんな物が現実にいるわけがない。
だから思考が麻痺し、歩夢は動けなくなっていた。それは『ピサロ』も同じで、すぐ目の前にグールが迫るにも関わらず、呆然と立ちすくむだけだ。
グールが腕を振り上げ、その爪を『ピサロ』の頭に叩きつける……!
その直前、銃声が響いた。
腕を振り上げていたグールが横に倒れる。
歩夢は銃声の元へと振り向き……「あっ!」と声をあげた。
夜の道にいつのまにか一人の男。
大型のバイクを停め、両手で二丁の拳銃を構えている。
その顔に見覚えがあった。
整ってはいるが、モデルや俳優的な線の細い美男子というより、前世紀ならハンサムと呼ばれるような男っぽさのある容貌。
黒いジャケットを羽織り、黒い長ズボンを履き、黒いテンガロンハット。マゼンダ色のインナー以外は全て黒。古い探偵物の人物がごとし。
以前『セレスティアル』で見た青年がそこに立っていた。
ゲームの中で会ったキャラクター位高憐と同じ容姿、同じ格好で。
(僕は夢を、見ているのか……?)
いつの間にか眠ってしまったのだろうか?
どこまで現実でどこからが夢だったのだろうか?
歩夢は目の前の光景を、ただ見ている事しかできなかった。
御覧いただきありがとうございます。
何かしら反応がいただければ嬉しい限りです。




