5 セレスティアル 3
登場人物
位高 憐:創作物の探偵みたいな恰好の青年。
倉根 歩夢:MMORPGに熱中している男子高校生。
――4日目――
学校から帰った歩夢は急ぎ『セレスティアル』にログインする。もちろん、アイマスクはつけて。
>こん
>おいすー
>こん
>ちわ
いつものたまり場かからいつも通りの返事ログ。そこに行けばいつものギルドメンバー。
アイマスクのおかげで、今日も彼らのキャラクターが目の前にいるかのように見えている。
そして……
>ブレ君来たね。はりきってノー城行きますか!
いつものように楽しい狩り。
モンスターを蹴散らしながら、時おり回復のために小休憩を挟む。
>いやあアイマスク凄いわ。外した後も思わず明け方までインしてた。
>平日なのに? ヤバw
>会社休みてーよなw
メンバーの弾む会話を横目に、歩夢は頷き思っていた。
(わかる、わかる。本当、学校さぼってでも『セレスティアル』にいたいもん)
狩りを再開するが、すぐ視界の端に「マスクを外してください」と赤い文字の表示。さらに母親が夕食に呼ぶ声も重なった。
中断するよう皆に頼み、歩夢は一旦ログアウト。
ゲームへの名残惜しさは、先週より遥かに強くなっていた。
――6日目――
アイマスクによりますます楽しくなり続ける『セレスティアル』。
そのせいだろうか……歩夢は夢の中でまでその世界にいた。
夢の中で『ブレイド』になっている歩夢は、音も空気も感じていた。
剣を腰にさげて街を闊歩し、文字ではなく声で会話してアイテムを買う。カーソルクリックではなく自分の指で貨幣を出し、自分の手で背負い袋に道具を入れた。
街の出入口に行けば、眼前に広がる無限の荒野。
剣を抜いてその重みを感じながら、ブレイドは足を踏み出す……。
朝日の中で目を覚まし、歩夢はしばし呆然として、それから苦笑した。
(日付が変わるまで狩りをしてたせいであんな夢を見たのかな。もっと見ていたかったかも……)
――7日目――
その日もギルドのたまり場に行くと、始めて見る女神官がいた。
ギルマスの『ピサロ』が皆に紹介する。
>新しい人がギルドに入ったよ
>こん~!ラヴェですお!これからよろです!
>よろ
>こん
>よろ~
(初めて後輩ができた!)
喜んで「よろです」と入力する歩夢。
>今日はどうする?歓迎会って事でどこか金策マップでもいく?
ギルマスの『ピサロ』がそう提案したが、新人は……
>気にせずいつもの狩場でいいですお!威力バツ牛ンの回復魔法で皆さんの安全も有頂天!
(なんかちょっと変な人が来たな……)
新人『ラヴェ』のテンションに歩夢はちょっと不安になる。
高レベルキャラクターの多いギルドだが、ネットで問題視されているような廃人や悪質プレイヤーのいない、安心できるギルドでもあったのだが……厄介事を起こされたりしないだろうか?
歩夢の不安を他所に、ノーデンス城への【ポータル】が唱えられた。
いざ狩りが始まると『ラヴェ』の支援は強力だった。ギルドの古参メンバーとそう変わらないレベルである。
新人のキャラクターが自分より高レベルらしい事が歩夢には少し面白くなかったが、その自分の狭量は反省しておいた。
>うはwww光と闇の3Kヒール連打www次回のアプデで修正必至wwwうえうえwww
狩りの途中でも出てくる妙な発言はちょっとやめて欲しかったが……。
アイマスクのおかげでゲーム世界にいる気分なのに、なんだか水を差されたような気持ちになってしまうのだ。
その日の狩りも終わり、歩夢はギルメンに別れを告げてログアウトする。
ちょっともやもやしていたが……その夜も『セレスティアル』世界にいる夢を見た。
街を歩き、荒野に出る。
月明かりの向こうに蠢く影。
グールどもだ。恐怖を感じつつも、闘志でそれを押しのけ、盾と剣を構えて迎え撃つ。
騎士としての確かな技量で、行く手を塞ぐ怪物どもを斬り伏せた……。
――14日目――
学校からの帰り道、歩夢は昨夜の……いや、ここ数日の夢を思い出していた。
今や『セレスティアル』の夢は毎晩見ている。その内容は一続きになっていた。
(アイマスクのおかげでゲーム世界にいるつもりになっている事が、心に影響しているんだろうな)
荒野の果てで遺跡を見つけ、地下への階段を下りた。
炎が燃える神殿に辿り着き、そこにいた二人の番人が次の階段を示す。
そこからさらに、深い深い階段を下りて……今はその最中だ。
怪物や罠を退けながらの、未知への探索。
歩夢にとって、ここ最近の夢は『セレスティアル』に次ぐ楽しみとなっていた。
帰宅したらパソコンの電源をON。アイマスクを用意して『セレスティアル』を起動。そしてゲームにログイン。
いつものたまり場でいつものメンバーに挨拶。
その中の一人が『ラヴェ』だ。今やすっかりギルドに馴染み、古参の中に溶け込んでいた。
歩夢が心配していたような問題も起こしてはいない。
>おいすー!今日も元気か謙虚な黄金のナイト!みwなwぎwっwてwるwかwいw?
相変わらずのノリは苦手だが。
その日の狩りが終わった後、ギルマスの『ピサロ』が発言した。
>またオフ会やりたいんだけど。どうかな?
>いいね!アイマスクのお礼を直に言いたい
>オレも。毎日使ってるよ
>賛成です
ログアウト直前だったが慌ててメッセージを入力する歩夢。
>僕も絶対行きます
>おお、面白そうだ。私もいくよ~。アイマスクってナニ?
>それは会ってのお楽しみ。ラヴェさんもギルマスに貰いなよ。きっとハマるから
『ラヴェ』と古参メンバーの一人がそう会話する横で、次の集合場所の相談が始まっていた。
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