1 魔の犬 3
登場人物
位高 憐:創作物の探偵みたいな恰好の青年。
瀬戸 洋:オカルトマニアの男子高校生。
座間 晴香:洋のご近所さんな女子高生。
――2日目――
晴香が教室に入った時、洋は既に席へついていた。
なんだか……上機嫌でニヤニヤしている。
不思議だ。そして不気味だ。
昨日、数名の男子から嫌がらせを受けていたのに。憐とかいう不審人物に遭遇したのに。なぜ上機嫌でいられるのだろう?
洋に嫌がらせしていた男子達もすぐに登校してきた。
彼らはかたまり、洋を横目にひそひそと何か話している。いつもならすぐに馴れ馴れしく絡んでネチネチとオカルト趣味を小馬鹿にするのだが。
昨日おかしな事があったので警戒しているのだろうか?
これを機にクラスからつまらない事が無くならないかと、晴香は微かに期待した。
――昼食時――
晴香が友達たちとお弁当を食べていると、その中の一人が声をひそめて言った。
「瀬戸君さ、体育の時間に休んであいつらの鞄を漁ってたらしいよ」
見れば洋にまとわりついている男子達が、自分の鞄をごそごそ探りながら怪訝な顔をしている。
「何か盗られてるか?」
「いや……何も無くなってねーけどな」
「けど瀬戸のヤツ、逃げてるぜ」
晴香は教室を見渡した。
確かに洋の姿が無い。無断で早退するなど、今までの彼からは考えられない事だが……。
どこか遠くから微かに犬の遠吠えが聞こえた……ような気がした。
隣にいる友達も窓の外を気味悪そうに窺っている。聞こえたのは晴香だけではないようだった。
――放課後――
「おう。明日アイツを見たらソッコーで問い詰めてやろうぜ」
鞄に教科書をしまっている最中、晴香はそんな声を聞いた。
見れば洋にまとわりついている男子の一人……一番大柄な、昨日鉄パイプを持ってきていた奴だ。
仲間の男子達も険悪な顔で頷いている。
(自分達から面倒な事しかけておいて、何ムキになってんのよ……うっざ)
嫌な気分で晴香は教室を足早に出た。
校舎を出て正門へ向かう晴香。
しかし、途中で驚いて足を止めてしまった。
校舎の陰を掃除している用務員がいる。
作業服に作業帽という恰好だが、顔に見覚えがあった。昨日初めて見たとはいえ、不可解で強烈な出来事のせいで覚えてしまっている。
位高憐と名乗っていた青年ではないか……!
呆然としていると、彼は晴香へ肩越しに目を向けた。
「昨日のお嬢さんか。気を付けて帰りなよ」
他愛ない挨拶をするだけの何気ない口調。しかしその声で晴香の心臓はドキリと鳴った。
(橋の上から見ていた事、気付いていたんだ……!)
洋に警官、他の男子達の方がよほど近くを通ったのに。
憐は一度も土手の上に登ってこなかったのに。
彼だけは気付いていたのである。
「な……なぜ、ここにいるんですか?」
呻くような声で晴香は訊いた。あまりに不可解で思わずそうしてしまった。
憐は体ごと晴香の方を向いた。
「用務員の枠があいたからな。俺だってメシは食わないと」
「いや、そんな、都合よく募集がある筈が……」
無いのだ。
しかし晴香に憐は軽い微笑みを見せた。
「都合がいいってのは有りえないって意味じゃないぜ。それに、他の誰かに都合悪いから起こったのかもしれないだろ? なんせ世の中、厄介事は起きるもんだ」
そして微笑んだまま、何気ない世間話のような口調のまま、彼は晴香に訊いてきた。
「イジメられてた坊主はどうしたんだ? 知らないか?」
「知りません」
晴香は答えた。本当の事である。むしろ、どこでどうしているのか自分が聞きたい。
そして考えた。明日、洋がまたターゲットにされる事を伝えようか……と。
しかし迷っている間に、憐の顔から微笑みが消えた。
「ま、仕方ない。明日にするか。それまでに何事もなければいいが」
そして背を向け、掃除を再開してしまう。
なんとなく声をかけ辛く、晴香も彼に背を向けて足早にその場を後にした。
何事もなければいいが。
それが気にならないわけではなかったが。
しかし……何が起きるというのだろう?
――3日目――
晴香が教室に入った時、洋は既に席へついていた。
今日も上機嫌でニヤニヤしている。
周囲には誰もいなかった。
洋に粘着している男子達も既に教室へ入っていたが、彼らだけでかたまり、青ざめた顔で何やら話している。
いつもより人数が少ない。
一番大柄な男子がいないのだ。それと特に仲の良い者も。
やがてチャイムが鳴り、先生が教室に入ってきた。
皆、急いで席につく。
先生が沈痛な顔で告げた。
「このクラスの生徒が2人、亡くなった」
沈黙。
そしてどよめき。
ただ一人、洋だけがほくそ笑んでいる事に晴香は気付いた。
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