↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/40

1 魔の犬 2

登場人物

???(主人公):創作物の探偵みたいな恰好の青年。

瀬戸(せと) 洋(ひろし):オカルトマニアの男子高校生。

座間(ざま) 晴香(はるか):洋のご近所さんな女子高生。

 晴香(はるか)は見た。

 創作物の探偵みたいな恰好をした見知らぬ青年は、町中で堂々と拳銃を撃った。


 大柄な男子生徒は腰を抜かしていた。持っていた鉄パイプは落とし、河原に転がっていた。

 彼の足元の小石が砕けている。そこに銃弾が撃ち込まれたのだ。


 スマホを持っていた男子生徒が慌ててそのカメラを青年に向けた。


「と、撮ってるからな! 言い訳できねぇぞ!」


 次の瞬間、銃声とともにそのスマホが砕けた。

 片手で小さな拳銃を無造作に構え、銃口を向けて、青年が面倒くさそうに呟く。


「帰りな」


 男子生徒達は誰も動かなかった。

 恐怖と混乱で身動きできなかったのである。性根が腐っているだけでただの高校生なのだから仕方ないだろう。


 青年が銃を懐にしまい、また歩き始めた。

 何気ない調子で、まるで何事も無かったかのように。

 洋(ひろし)の側に屈み、目線の高さを合わせる。


「聞きたい事があるんだが、ここでいいか? 場所を変えるか?」


 洋(ひろし)は……慄(おのの)き、すぐに返事ができないでいた。

 男子生徒達は目くばせしあい、足早にその場を立ち去ってゆく。土手を超え、橋の上で見ている晴香(はるか)には気づかず、道路を横切って去っていった。


「ここでいいみたいだな。ヤンキーどもはいなくなったし……あ、ヤンキーって不良少年の事だが、今はこう言わないのか? まぁどうでもいい事だが」


 どこかとぼけた口調で話しかける青年。

 洋(ひろし)は困惑し、おどおどした気弱な視線を青年に向ける。


「だ、誰ですか?」

「俺? 位高(いたか)憐(れん)という男だ。今度ともどうぞよろしく」


 ごくあっさりと青年は名乗った。


「な、何の用ですか?」


 警戒心も露わに訊く洋(ひろし)。

 すると……青年は初めて表情を変えた。

 微かに笑ったのだ。


「話が早くて助かるね。そう、ただ通りすがっただけじゃなくて、用事が、聞きたい事がある。お前さんが持っている、洋書と魔除けの事だ」


 洋(ひろし)の顔色が露骨に変わった。

 慌てて青年――位高(いたか)憐(れん)から目を逸らす。

 そして黙った。



 橋の上から息を潜めて窺っている晴香(はるか)は。

 どこか遠くから微かに犬の遠吠えが聞こえた……ような気がした。



「知らないフリはしないでいい。なんなら本のタイトルを言おうか? 『ネクロノ……』っと、英訳版だからタイトルも読めないか」


 憐(れん)は、強くもなく弱くもなく、激しくもなくわざとらしくもない、当たり前の世間話をするような口調で洋(ひろし)に訊き続けた。

 洋(ひろし)はそれに答えない。河原に座り、視線を地面に落としたままだ。



「おい! そこの君!」


 突然、鋭い声が憐(れん)にかけられた。

 晴香(はるか)は思わず声の主を見る。

 土手をこえてやってきたのは若い警官。

 その後ろに離れ、去った筈の男子生徒達が遠巻きに眺めている。彼らが警察を呼んだのだ。


 若い警官は警戒しながら憐(れん)へ近づく。

 憐(れん)は立ち上がり、気楽な様子で警官のしたいようにさせていた。

 警官が少し距離をあけて問いかける。


「身体検査をさせてほしい。いいね?」

「どうぞ」


 平気な顔で肩をすくめる憐(れん)。

 彼に近づき、警官は慎重に体を探り始めた。

 当然、懐にも、ポケットにも、服の上から触ってから手を入れる。



 と、その途中。

 洋(ひろし)がじりじりと後ろに退き、距離を離し……くるりと背を向け、逃げた。


「あ、おい」


 憐(れん)が声をかける。

 びくりと一度震えたものの、洋(ひろし)はそのまま走って土手に登り、橋へと真っすぐ走った。

 晴香(はるか)は驚き慌てたが、そんな彼女の横を目もくれず走り去る洋(ひろし)。



 溜息をついてそれを見送る憐(れん)を、警官は解放せず、身体検査を続けた。

 しかし出てきたのは――古ぼけたサイフ、安物のスマホ。それだけだ。


「政治家への裏金でもお探しですかね?」


 憐(れん)がどこかとぼけた口調で聞くと、警官はキッと睨みつけた。

 だが凶器の類は出てこない。

 拳銃など、どこからも。


「……すいませんでした。協力、ありがとうございました」


 警官はそう言うと、軽く一礼してから土手をこえて去っていく。

 途中、男子生徒達を鋭い目で一瞥したが、特に声をかけず町中へ戻っていった。


 男子生徒達は顔を見合わせると、気味悪そうに憐(れん)を眺める。

 しかし憐(れん)と視線が合うと、慌てて警官の後を追うように町中へと去った。



 憐(れん)はテンガロンハットのつばをいじると小さく溜息をつく。

 そして橋を支える柱の後ろに回り込んだ。

 陰から一台のバイクを引っ張り出す。カウルの大きな400CCのバイクだが、それを見ていた晴香(はるか)にはどこのメーカーの何というバイクなのかはわからない。

 ただ紫と緑のカラーと大きなカウルのせいか、どことなく特撮のヒーローが乗っていそうだと思えた。

 そのバイクに乗って、憐(れん)は河原を走って去っていった。



 彼が現れた時、どこからか歩いてきた筈だ。

 あのバイクはいつ柱の陰に停めたのだろう?


 そんな疑問が晴香(はるか)の頭に浮かんだのは、憐(れん)の姿が見えなくなった後だった。

御覧いただきありがとうございます。

何かしら反応がいただければ嬉しい限りです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。