1 魔の犬 2
登場人物
???(主人公):創作物の探偵みたいな恰好の青年。
瀬戸 洋:オカルトマニアの男子高校生。
座間 晴香:洋のご近所さんな女子高生。
晴香は見た。
創作物の探偵みたいな恰好をした見知らぬ青年は、町中で堂々と拳銃を撃った。
大柄な男子生徒は腰を抜かしていた。持っていた鉄パイプは落とし、河原に転がっていた。
彼の足元の小石が砕けている。そこに銃弾が撃ち込まれたのだ。
スマホを持っていた男子生徒が慌ててそのカメラを青年に向けた。
「と、撮ってるからな! 言い訳できねぇぞ!」
次の瞬間、銃声とともにそのスマホが砕けた。
片手で小さな拳銃を無造作に構え、銃口を向けて、青年が面倒くさそうに呟く。
「帰りな」
男子生徒達は誰も動かなかった。
恐怖と混乱で身動きできなかったのである。性根が腐っているだけでただの高校生なのだから仕方ないだろう。
青年が銃を懐にしまい、また歩き始めた。
何気ない調子で、まるで何事も無かったかのように。
洋の側に屈み、目線の高さを合わせる。
「聞きたい事があるんだが、ここでいいか? 場所を変えるか?」
洋は……慄き、すぐに返事ができないでいた。
男子生徒達は目くばせしあい、足早にその場を立ち去ってゆく。土手を超え、橋の上で見ている晴香には気づかず、道路を横切って去っていった。
「ここでいいみたいだな。ヤンキーどもはいなくなったし……あ、ヤンキーって不良少年の事だが、今はこう言わないのか? まぁどうでもいい事だが」
どこかとぼけた口調で話しかける青年。
洋は困惑し、おどおどした気弱な視線を青年に向ける。
「だ、誰ですか?」
「俺? 位高憐という男だ。今度ともどうぞよろしく」
ごくあっさりと青年は名乗った。
「な、何の用ですか?」
警戒心も露わに訊く洋。
すると……青年は初めて表情を変えた。
微かに笑ったのだ。
「話が早くて助かるね。そう、ただ通りすがっただけじゃなくて、用事が、聞きたい事がある。お前さんが持っている、洋書と魔除けの事だ」
洋の顔色が露骨に変わった。
慌てて青年――位高憐から目を逸らす。
そして黙った。
橋の上から息を潜めて窺っている晴香は。
どこか遠くから微かに犬の遠吠えが聞こえた……ような気がした。
「知らないフリはしないでいい。なんなら本のタイトルを言おうか? 『ネクロノ……』っと、英訳版だからタイトルも読めないか」
憐は、強くもなく弱くもなく、激しくもなくわざとらしくもない、当たり前の世間話をするような口調で洋に訊き続けた。
洋はそれに答えない。河原に座り、視線を地面に落としたままだ。
「おい! そこの君!」
突然、鋭い声が憐にかけられた。
晴香は思わず声の主を見る。
土手をこえてやってきたのは若い警官。
その後ろに離れ、去った筈の男子生徒達が遠巻きに眺めている。彼らが警察を呼んだのだ。
若い警官は警戒しながら憐へ近づく。
憐は立ち上がり、気楽な様子で警官のしたいようにさせていた。
警官が少し距離をあけて問いかける。
「身体検査をさせてほしい。いいね?」
「どうぞ」
平気な顔で肩をすくめる憐。
彼に近づき、警官は慎重に体を探り始めた。
当然、懐にも、ポケットにも、服の上から触ってから手を入れる。
と、その途中。
洋がじりじりと後ろに退き、距離を離し……くるりと背を向け、逃げた。
「あ、おい」
憐が声をかける。
びくりと一度震えたものの、洋はそのまま走って土手に登り、橋へと真っすぐ走った。
晴香は驚き慌てたが、そんな彼女の横を目もくれず走り去る洋。
溜息をついてそれを見送る憐を、警官は解放せず、身体検査を続けた。
しかし出てきたのは――古ぼけたサイフ、安物のスマホ。それだけだ。
「政治家への裏金でもお探しですかね?」
憐がどこかとぼけた口調で聞くと、警官はキッと睨みつけた。
だが凶器の類は出てこない。
拳銃など、どこからも。
「……すいませんでした。協力、ありがとうございました」
警官はそう言うと、軽く一礼してから土手をこえて去っていく。
途中、男子生徒達を鋭い目で一瞥したが、特に声をかけず町中へ戻っていった。
男子生徒達は顔を見合わせると、気味悪そうに憐を眺める。
しかし憐と視線が合うと、慌てて警官の後を追うように町中へと去った。
憐はテンガロンハットのつばをいじると小さく溜息をつく。
そして橋を支える柱の後ろに回り込んだ。
陰から一台のバイクを引っ張り出す。カウルの大きな400CCのバイクだが、それを見ていた晴香にはどこのメーカーの何というバイクなのかはわからない。
ただ紫と緑のカラーと大きなカウルのせいか、どことなく特撮のヒーローが乗っていそうだと思えた。
そのバイクに乗って、憐は河原を走って去っていった。
彼が現れた時、どこからか歩いてきた筈だ。
あのバイクはいつ柱の陰に停めたのだろう?
そんな疑問が晴香の頭に浮かんだのは、憐の姿が見えなくなった後だった。
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