↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/40

1 魔の犬 1

正気度をかなぐり捨てて、いざ開幕。

 ――2025年12月某日――



 座間(ざま)晴香(はるか)は小さく溜息をつきながら「またか」と思った。

 その日の授業が終わり、教室から皆が帰る時間。

 先頭にいたのは肩を組んだ男子数名。その中央にいる瀬戸(せと)洋(ひろし)の背を、彼女は憐れみと申し訳なさの混じる目で見ていた。

 洋(ひろし)は……怯えながら卑屈な笑みを、無理に肩を組んでくる左右の男子へ交互に向けて、引っ張られるように教室を出て行った。



 晴香(はるか)と洋(ひろし)はご近所同士の、いわゆる幼馴染である。

 だが高校1年生となった今では、交流など全く無い。教室で毎日顔を会わせるが口もきかない。


 いつからだろう。洋(ひろし)はオカルト趣味に凝り始めた。

 怪談話が好きだった程度のうちは良かったのだが……それが高じて、黒魔術だかマイナー信仰だかの、妙な装飾品を集め出した。

 なんだかグロテスクなグニャグニャした指輪だの首飾りだのを、頻繁にSNSにアップするようになった。


 よくわからないマニアックな趣味の話をやけに語りたがる洋(ひろし)を、いつしか幼馴染の晴香(はるか)は苦手に感じて敬遠するようになった。

 彼女だけではなく、周囲の同級生達も。


 しかし洋(ひろし)を悪い意味で面白がる者達が現れた。

 最初は洋(ひろし)を小馬鹿にして『いじる』程度だったが、何かの拍子に洋(ひろし)の収集品を馬鹿にしたらしく、大声で口論になった。

 洋(ひろし)を『いじっていた』連中の、一番大柄な者が、洋(ひろし)を殴って黙らせた。洋(ひろし)は『馬鹿にしていいヤツ』だと決めつけられていたのだ。


 そしてそれ以来、放課後になると頻繁に洋(ひろし)は連れていかれる。

 幼馴染の晴香(はるか)にも、どこへ行っているのかわからない。


 首を突っ込んでなんとかしてあげよう……とは思わなかった。

 変なとばっちりを食らいたくないからだ。



 ――帰り道――



 その日、晴香(はるか)は嫌な物を見てしまった。

 帰り道のルートは複数ある。寄り道先によって、気分で、適当に変わる程度のルートが。

 川沿いの堤防を歩くルートで、彼女は洋(ひろし)を見かけた。


 そこで毎日行われていたのか、その日はたまたまそこが選ばれたのか。

 久しぶりに通った道なので晴香(はるか)は知らない。

 橋の下の柱の陰で、洋(ひろし)は地面に座らされ、何か変な呪文を唱えていた。

 悔しそうな、恥ずかしそうな、泣きそうな顔で、嫌々。


 その周りを囲んで笑っているのは、洋(ひろし)とともに教室を出た数人の男子だった。


 目を合わせないように、晴香(はるか)は橋へ向かった。そこを渡らないとずいぶん遠回りになる。

 なるべく無心で橋のたもとに近づいた。もう洋(ひろし)達から彼女は見えない、死角になっている筈だ。

 けれど声と音は、近づいたせいで聞こえてしまった。


「おかしいなあ? 何も来ないぜ、その召喚呪文」

「モンスターが出たら討伐しようと思って武器もってきたんだけどな?」


 そしてスプレーの噴射音が聞こえた。洋(ひろし)が苦しそうに激しくむせる声も。

 男子達の、他人を蔑みバカにした笑い声が響く。


 聞きたくない。

 晴香(はるか)は足早に橋を渡ろうとした。


 小石の砕ける音が響いた。

 洋(ひろし)が「ヒッ!」と短く悲鳴をあげる。

 晴香(はるか)は息を飲んで足を止めてしまった。


「おう、お前の大好きな神話セーブツってのに鉄パイプは効かねぇのか? 結構威力あんだぜ、コレ」


 凶器を面白半分に振り回して怖がらせている……悪趣味で幼稚な脅しだ。

 晴香(はるか)は再び歩き出し、早く橋を通り過ぎようとした。



「よう。話があるんで、ちょっとお邪魔するぜ」



 聞きなれない声。男子生徒の誰でもない男の声が、突然聞こえた。

 晴香(はるか)は思わず、再び足を止めてしまった。


「なんだオッサン?」

「邪魔だ。あっち行けよ」


 男子生徒達が険悪な声をだす。だが戸惑ってもいる……彼らも声の主に覚えが無いのだろう。

 晴香(はるか)はこっそりと、恐る恐る、手すりから少し身を乗り出して河原を――柱の根本を見た。



 橋にもたれて地面にへたりこんでいる洋(ひろし)。

 半円状にそれを囲んでいる数名の男子生徒。鉄パイプを持つ者、スプレー缶を持つ者、スマホで洋(ひろし)を映している者等がいる。

 そして見知らぬ青年が一人。


 歳は……多分、自分達より上。20歳前後だろうか。

 整ってはいるが、モデルや俳優的な線の細い美男子というより、前世紀ならハンサムと呼ばれるような男っぽさのある容貌だった。

 黒いジャケットを羽織り、黒い長ズボンを履き、黒いテンガロンハット。マゼンダ色のインナー以外は全て黒。古い探偵物の人物みたいだ。


 その男は男子達をまるで気にせず、洋(ひろし)へと歩いていく。道を行くのと同じ、何気ない足取りで。


「邪魔だ。うぜぇぞオッサン」


 一番大柄な男子生徒が肩をいからせて前を塞いだ。

 以前、洋(ひろし)を殴ったリーダー各の男子だ。



 乾いた音が響いた。

 皆が小さな悲鳴を上げる。

 晴香(はるか)も思わず「えっ!?」と声を漏らしたが、皆が驚き叫んだので誰にも聞かれなかっただろう。


 青年の手に拳銃があった。

 響いた音は銃声だった。

 彼は銃を躊躇(ためら)い無しに撃ったのだ。

 橋の下とはいえ、町中で、堂々と。

主人公の名前は次話で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。