↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/40

4 恐ろしく親切な老人 5

登場人物

位高(いたか) 憐(れん):創作物の探偵みたいな恰好の青年。

ラヴェ:十代半ばにしか見えない、得体の知れない少女。

安藤(あんどう) 理一(りいち):田舎町の警察官。一人息子は出征中。

 銃を手にした絶対的に優位な状況で、安藤(あんどう)は驚愕のあまり声をあげそうになった。

 振り向いた小柄な人影は――


「お巡りさん? なんでこんな所に?」


 小首を傾げているラヴェだったのだ。

 彼女は銃を見てまじまじと覗き込む。安藤(あんどう)は慌てて銃をしまい、小声で囁いた。


「こらこら、危ない。君こそなぜこんな所にいるんだ?」


 ラヴェは腕組みして「うーん」と考え込む。


「まぁ詳しくは話せないんだけどさ……お巡りさん、ここから離れた方がいいよ? 明日になれば多分全部終わってるからさ」


 その言葉で安藤(あんどう)は察した。

 人間、食いつめれば何でもやる。だから孤児の飢えにつけこんで手下として使う犯罪者など、昔からいくらでもいる。


「君も……何か関わっているんだな? だが無事で済むのか?」

「あはは、私の事はどうでもいいじゃん?」


 ラヴェは明るく笑い飛ばし、誤魔化そうとした。


「良くないよ」


 そう言うと安藤(あんどう)はラヴェの頭を優しく抱いた。そして囁くように言いきかせる。


「君が逃げるんだ。駐在所に行きなさい。明日の朝になっても私が戻らなければ、街の警察に電話するんだ。番号は机の上のメモ書きにある。いいね?」


 予想外の態度と忠告に、ラヴェは「お? お? お?」と戸惑いの声をあげるばかりだ。

 安藤(あんどう)はラヴェを放し、穏やかな笑みを見せる。その手は庭の門を指さし、逃げるよう促(うなが)していた。


「危ない事は警察に任せなさい。君は逃げていい……自分の身をまず考えるんだ」


 そして足音を忍ばせ、病院へと向かって行った。

 そこに悪事が潜んでいる事を確信し、立ち向かうために。



 呆然と安藤(あんどう)を見送ってから、ラヴェは途方に暮れる。


「うーん、困ったぞ。本当にいい人だなぁ。どうしよう、このままだとあの人死んじゃうぞ」


 しばらく頭を抱えて悩み……真剣な顔で蔵の戸を探った。

 そこには鍵がかかっていたが、彼女が深呼吸してからもう一度押すと、なぜか開いた。



 ――病院の裏――



 安藤(あんどう)は灯りが全くついていない建物の壁にはりつくようにして、どこか侵入できる場所がないか探そうとした。

 裏口があったので、まずそこを試す。期待はしていなかったが、ドアノブは……あっさり回った。

 簡単に入る事ができる。


(そんなバカな?)


 あまりに不用心なので罠か何かではないかと疑ったが……


(いや、憐(れん)という男がここから入ってそのままになっているだけかもしれん)


 そう考え、銃を手にゆっくりと侵入する。

 裏口から入るとそこは廊下。戸がいくつかあった。


(何か物音でもしないか……?)


 しばらく耳を澄ますと、微かに声が聞こえた。


(鳥の声?)


 安藤(あんどう)が連想したのはそれだった。

 聞いた事の無い、独特な鳴き声が、どこかの部屋で小さくあがっているようだ。


 闇の中、安藤(あんどう)は音が聞こえた方向に見当をつけ、戸の一つに近づく。

 鍵はかかっていない。

 戸を少し開け、中を覗う。


 寝台が有る。誰かが寝ているようだが、シーツが下に落ちている。

 寝ている者が動いているようなので、そのせいだろう。

 灯りもないので誰が寝ているのかはよく見えない。だが鳴き声は寝台にいる者が発している。


 テケリ、り、テケリ、り……と、無理に表現するならそんな声を。


 意を決して安藤(あんどう)は部屋に入った。

 銃を手に寝台へ近づき、寝ている者を確認する。


 息を飲んだ。


(こ(・)れ(・)は何だ!?)


 見知った顔がある。富田(とみた)家の娘の顔が。

 だが一糸まとわぬ体の半分ほどは、所々が玉虫色に光る黒々とした粘液状の塊だった。複数の目や口が無秩序に点在し、その口が微かにあげる鳴き声がさっきから聞こえていたのだ。

 粘液状の部分はゆっくりと蠢(うごめ)いており、そのせいでシーツが落ちたのだろう。

 対して、顔を含めた人間の部分はほとんど動かない。時折瞬(まばた)きしたり、僅かに動きを見せたりはするが、思考する力が無いかのようだ。


 あまりに予想外の物を前に、安藤(あんどう)はただ呆然とするばかり。

 だから背後で足音が聞こえるまで、後ろに誰かが迫っている事にまるで気が付かなかった。

 慌てて後ろへ振り向くが、改めて驚きに動きを止める。


「お前は茶音(ちゃね)さんの所の……!」


 息子だった。

 心を入れ替えて真面目になった筈の、以前は酒とケンカばかりで犯罪まで犯したならず者だった、茶音《ちゃね》家の息子だ。

 感情が無いかのように何の表情も浮かべず、戸までの間に立ち塞がっている。

 寝台の上の奇怪な塊が視界に入っている筈だが、それには何の反応も見せない。まるで気にしていない。


 その男が左手をふるった。

 銃を持つ安藤(あんどう)の腕に太い紐が絡みつく。男の左腕が溶けて変化した肉の紐が。

 その紐も黒々としており、所々が玉虫色に光っている。

 絡みついた紐が蠢(うごめ)いたので、粘液状の塊が変化した物だと安藤(あんどう)は察した。


 強い力で縛られ、締め付けられる。

 それでもなんとか引き金をひいた。

 発砲音とともに、弾は運良く怪物に当たってくれた。


 怪物は微動だにしなかった。

 拳銃の弾ごときでは。


 安藤(あんどう)は恐怖の中で呻く。


「茶音(ちゃね)さんの息子に、化けていたんだな! 本物は一体……?」


 返事は無い。

 怪物の右腕が溶けて網のように広がり、安藤(あんどう)の頭を包み込んだ。

御覧いただきありがとうございます。

何かしら反応がいただければ嬉しい限りです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。