3 谷一家の怪 5
登場人物
位高 憐:創作物の探偵みたいな恰好の青年。
ラヴェ:十代半ばにしか見えない、得体の知れない少女。
天理 貞次:博物館に勤める中年職員。
谷一 恋璃:謎と秘密を抱えた少女。
ホールに一台の大型バイクが走り込んで来た!
悪魔の1匹を跳ね飛ばして急ブレーキをかけるそれを、運転しているのは憐。その背にしがみついて後ろに乗っているのは恋璃だ。
バイクが停まるや、恋璃は後ろから跳び降りた。
憐はシートに跨ったまま懐から二丁の拳銃を抜くと、その引き金を間髪いれずに引く。
そんな憐に矛先を変え、悪魔どもは翼を広げて襲いかかった。
恋璃が貞次の側に駆け寄り、彼の手をとった。
「逃げましょう! 早く」
それでやっと我を取り戻し、貞次は引きつった顔で呻いた。
「あ、あの黒いヤツらは何なんだ……!?」
「話は後で!」
恋璃が必死で手をひくので、貞次はぎこちなく頷いてよたよたと走り出した。
逃げる二人に気づき、黒い悪魔の一体が宙から襲いかかろうとした。
だが2発3発と立て続けに銃弾を食らって床に落ちる。
無論それは憐の射撃によるもの……彼は既にバイクから降りている。上から襲いかかる悪魔どもを機敏に避けながら何度も床の上を跳び、そうしながら常に両手で銃を撃ち続けていた。
弾がきれるや無駄に引き金をひかず、すぐに投げ捨てて次の銃を懐から抜く。ベレッタ、グロック、リボルバー、デリンジャー……片手で撃てる銃を出しては撃つ。一つとして同じ物はないが、得手不得手など彼に無いようだった。
やがて最後の悪魔が床に落ちた。
そいつを含め、撃ち倒された悪魔どもは一つ残らず蒸発して消えてゆく。
暗いホールに静寂が訪れた。
憐は手にした銃を捨て、バイクを押して恋璃達が逃げた方へ向かう。
後には何も残されていなかった……悪魔どもの屍も、投げ捨てられた筈の銃も。一つたりとも。
恋璃達は博物館の正面玄関に逃げた。一面ガラス張りのドアは粉々に割れている――バイクで突っ込んだのだろう。
破られたガラスの出入口から外に走り出る。そこは博物館の庭で、敷地の出入口まで少し距離があり、夜なので誰もいない。
鳴り続けていた銃声が止み、貞次は後ろを振り向いた。悪魔達は追ってこない。
彼は息をきらせながら恋璃を問い詰めるように訊いた。
「あの黒い怪物は何なんだ……君は知っているんだな!? あの渾天儀に何か関係があるのか?」
恋璃は気まずそうに黙り、答えない。
怒りながらも縋るように貞次は訊き続けた。
「何をしようとしているんだ? 教えてくれ、あんな物をどこから連れてきたんだ?」
「幻夢郷だよ。と言っても知らないだろうけどな」
そう答えたのは憐だった。バイクを押しながら二人の側へ来る。
貞次は怯えるように後ずさった。そんな彼を気にする事なく、憐は恋璃に話しかける。
「ナイトゴーントは全部倒しておいた。で、そのオッチャンはどうするんだ?」
恋璃は戸惑っていた。どう答えたものか悩んで。
そんな彼女が何か言う前に、貞次はヤケになったかのように叫ぶ。
「い、いい加減にしてくれ! そっちの都合でわけのわからん事に巻き込むのは! こんな事、何かが狂っている!」
「そう、ですね……すいませんでした」
恋璃はそう言って貞次に頭を下げると、敷地の出口に向かって去って行った。
溜息をつき、憐もバイクを押してその後に続く。
二人の背を見送ってから貞次は頭を抱えた。
(警察に連絡か? 信じてもらえるわけがない。悪夢でも見ていたようだ。でも正面のドアが粉々になっている以上、知らぬ存ぜぬでは……)
悩みながら改めて正面玄関へ振り返る。
ガラスの大きなドアは傷一つなく、いつも通りそこにあった。
そして貞次は……自分以外の職員がまだ何人かいる筈なのに、銃声がどれだけ響いても何の騒ぎも起きていない事に、今さら気づいた。
大急ぎで事務所に走る、と――
「貞次さん? なんか慌てて、どうかしました?」
みんないつも通り帰り支度をしていて、息を切らせる貞次へ隣の席の同僚が怪訝そうな顔で聞いてきた。
――駅前――
最寄りの駅は大きな川に面している。
側にバイクを停め、憐と恋璃は並んで夜の川を眺めていた。
「おかげで間に合いました。ありがとう」
小さな声で礼を言う恋璃に憐が笑いかける。
「どういたしまして。あの渾天儀を奪いに来たのかと思ったが、君はナイトゴーントどもをかけしかけた奴の敵だったのか」
「いいえ。私は強奪を命じられなかっただけ……あの人を利用しておいて犠牲にするのが嫌だっただけ」
川を眺めながら恋璃が言うと、憐の目つきが鋭くなる。
「正直に、どうも。どこの何者でどこに潜んでいるのか、は……教えてくれないんだろうな?」
小さく頷く恋璃。
そして憐へと視線を移し、じっと見つめる。
「憐さん、でしたね。あなたは……私と同じなのかも? 父親は違うでしょうけれど」
何を言われているのか一瞬で察し、憐の顔が強張った。
そして恋璃をまじまじと見つめる。
「恋璃さんだったな? 君の母親は、旧き支配者の精で孕んだのか……?」
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