3 谷一家の怪 4
登場人物
位高 憐:創作物の探偵みたいな恰好の青年。
ラヴェ:十代半ばにしか見えない、得体の知れない少女。
天理 貞次:博物館に勤める中年職員。
谷一 恋璃:謎と秘密を抱えた少女。
――谷一家、1階最奥の部屋――
1階で最も大きい部屋で、白造は熱弁をふるっていた。
人ならざる物達の集団へ。それらに己の望みと、そのためどう動いて欲しいのかを。
自分と母が呼び出した物どもへ熱心に指示を出す祖父を、恋璃は悲し気に見つめていた。
その視線を傍らの畳へ向ける。そこには全精力を使い果たして憔悴した母・白華が無残に倒れていた。
微かに息をしながら、母はそれでも薄笑いを浮かべている。
(満足しているの? 母さん……)
もう一度、恋璃は祖父を見た。
祖父は奇怪な影どもに話すのに夢中で、母や自分をもう一瞥もしようとしていない。
恋璃はそっと襖を開けて部屋を出た。
(もう一度行こう)
明かりもついていない廊下で一人そう決意し、家の玄関へ黙って向かった。
――京都――
恋璃が駅を出た時、既に陽が落ちていた。
暗くなっていく往来を、一人速足で歩く。博物館へ近道をするため、少し細い道を通った。
その細い道で、どうにもガラの悪い男が二人、タバコを吸って談笑してる。彼らは恋璃を見るとニヤついて声をかけてきた。
「なぁ君、一人か? 時間あるなら一緒にメシでもどうよ?」
「すいません、急いでます」
そう返して横を取り過ぎようとする恋璃。
男の片方が行く手を塞いだ。
「そう言うなって。まだまだ遊べる時間じゃねえか」
「そうそう。そこに俺らの車あるから」
もう一人の男が後ろを塞ぐ。
(どうしよう……間に合わなくなったら)
焦る恋璃。
そこへ救いの手が現れた。
「こんな所にいたのか。探したぜ」
親し気にそう言って前方から現れたのは……憐。
彼は恋璃の側へ寄ろうと前の男を押し退けた。
「おい! なんだテメェ、やんのか!」
どかされた男は怒りに任せて憐の胸倉を掴む。
だが男の顎に銃口が突き付けられた。
男達二人は一瞬自体が把握できなかったが、憐の手に銃があるとわかると度肝を抜かれる。
「ど、どうせモデルガン……」
恋璃の後ろにいた男が、焦りながらも笑おうとする。
憐は引き金をひいた。
銃声が響いた。
憐の胸倉をつかんでいた男はへなへなと腰を下ろした。
撃つ前に銃口をずらしたので、弾は男の頬を掠めただけだったが、銃弾を肌で感じた経験など男にあるわけもなく……致命的な威力を実感させられて腰を抜かしたのだ。
憐は銃を懐にしまうと、恋璃の手を掴んで細い道から出て行く。
男二人は信じられない思いでそれを見送るだけだった。
「ありがとう。でも急いでいるの」
大きな通りに出た恋璃はそう言って博物館へと向かう。憐はその横に並んで歩いた。
「あの渾天儀を取りに行くんだろ。そうさせるわけにはいかなくてな」
「違うわ。もしかすると貞次さんが巻き込まれるかもしれない」
恋璃の返答に憐は疑いの目を向ける。
だが恋璃は構わずに歩き続けた。
その背後に排気音が聞こえ……
「急ぎなら乗れよ」
言われた恋璃が振り向くと、憐が大型のバイクに乗っていた。
――博物館――
閉館後、天理貞次は用途不明品が置いてある一画を覗いた。
恋璃が訪れてから、どうも気になる。ラヴェという少女はあれからも何度か見に来ているようだ。
タチの悪い窃盗犯はチームを組んで、無害に見えるメンバーに現場の下見をさせる事もあるという……雑誌でみた事のある記事が貞次の不安を煽っている。
その日も特に異常が無い事を確認し、安心してから立ち去ろうとした。後は明日まで警備員に任せておけばいいのだ。
しかし貞次は足を止めた。
メインの照明が落ちて暗くなった中央ホールに、こちらを覗う何者かがいる。一人ではない。柱の陰に、展示品の陰に、休憩用のイスの陰に……。
(ま、まさか、本当に泥棒!?)
少し迷ったが、とにかく大声を出す事にした。そうすれば他の職員達が気づくだろうし、相手が逃げるかもしれない。
だが貞次は叫ぶ事ができなかった。
その前に陰に潜んでいた物達が姿を現したのだ。
のっぺらぼうの黒い悪魔……ゴムのような皮膚のそいつらが、貞次にはそう見えた。
その悪魔どもが陰から現れ、翼を広げて宙に舞う。
無貌の悪魔どもだが、そいつらが背後の一画を――その前にいる貞次を覗っている事はわかった。
悪夢のような光景だ。
現実離れした状況が思考を麻痺させ、貞次は全く動けない。
悪魔どもが宙から掴みかかってきた。
掴まった後はどうなるのだろうか?
それが致命的に危険な事はわかるが、貞次は全く動けない。
しかしその時。
ガラスの割れる派手な音が響き悪魔どもが動きを止める。
直後、ホールに一台の大型バイクが走り込んで来た……!
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