2 コール・オブ・C…… 7
登場人物
位高 憐:創作物の探偵みたいな恰好の青年。
ラヴェ:十代半ばにしか見えない、得体の知れない少女。
佐須 道邦:遠洋漁船で働く中年漁師。
――8日目――
遠洋漁船は南洋の島の港に着いた。
予想外の事件に巻き込まれたせいで少なからぬダメージを受けている。そのため2,3日停泊し、各部の修繕や機器類の再点検を行う事になった。
港の片隅で、道邦はラヴェに粘土板を手渡した。
あの巨大な怪物が彫られたこの板が、どうにも気味悪く思え、子供への土産にする気が失せていたのだ。
「あはっ、ありがとう! んじゃ代金をお支払いするね」
陽気な笑みを輝かんばかりに浮かべ、ラヴェはごそごそとポケットをまさぐり、小さな石を引き換えに渡す。
綺麗にカットされた翠色に輝く石を。
(宝石みたいだな。ウチの子が女の子ならさぞ喜んだろうが……ま、貰っておくか)
本物のエメラルドで、車が一台買えるほどの金になるのだが――道邦がそれを知ってブッたまげるのはさらに後日、彼が日本に帰った後の事だ。
どこからか取り出した袋に粘土板を入れるラヴェ。
少し気になって道邦は訊いた。
「今度のおかしな事は、その粘土板のせい……なんて事はないよな?」
「あると思うよ」
実にあっさりとラヴェは答える。
薄々そう思っていたが否定して欲しかった事を肯定されて、道邦は一瞬言葉に詰まった。
だがこうなるとどうしても気になる。
「その粘土板はただの板じゃないんだな?」
「あの旧い支配者が眠りの浅くなった時に、その夢の余波を受けちゃった人がこの板みたいな物を造るんだよ。そういう物は旧い支配者との繋がりを持っちゃうわけ。それで今回は旧い支配者の寝てる所に引き寄せられちゃったんだろうね。あの海賊は信徒の類で、自分達の聖地へ近づく者を排除してたの」
(俺が変な物を買ったせいだったってのか!)
ラヴェの説明は、道邦としては納得いかない話だ。
だが彼女の言葉を疑う気は、今の道邦には無かった。
「でもあのクチュなんとかって化け物はもう死んだよな? これでもう終わりだよな」
これは質問ではなく確認だ。
だがラヴェは、実にあっさりと首を横に振った。
「殺したぐらいじゃ死なないし、死んだぐらいで滅んだりしないよ。あいつら旧い支配者どもは。そういう生き物の当り前とは違う存在なんだって」
道邦は耳を疑った。
何を言っているのかよくわからないが、ラヴェが怪物を複数形で呼んだ事はわかった。
だがそれについて詳しく聞く気にはなれなかった。
震える指で粘土板を入れた袋を指さす道邦。
「そ、それなら、その板はまだ危ないだろ? なんで欲しいんだ? 何に使うんだ?」
ラヴェは拳を口に当てて「くふふふ……」と嬉しそうに笑った。
「繋がりを持つ物がいっぱいあると、召喚の儀式に有利だからね。だからできるだけ集めてまわっているんだよ。いろんな旧い支配者の物を、いろいろといっぱいね。いつかきっとあいつらが目覚める時が来る……それまでにさ」
「あ、あんなのが何匹も出てきたら、大変な事にならないか!?」
道邦が慄き焦るが、ラヴェは平気な顔をしたままだ。
「なるよ? でもいつかきっと起こる事だし。その時には全部ふっとんで、世の中がめちゃくちゃ様変わりしちゃうだろうなぁ」
笑いながら語るラヴェは上機嫌でさえあった。
「ま、この星だけでも最初の命が生まれてから今日まで、旧い支配者どもなんか関係なく、全生命体の9割が死んじゃうような大量絶滅が自然に何回も起こっているんだから。旧い支配者どもが元気に這い出してきたらそれが1回増えるってだけだよ。あ……1回だけとは限らないかぁ。じゃあやっぱり色々と集めておかないとね」
そして絶句している道邦に「ばいばい!」と手を振り、港から出て行く。
それを見送り、道邦は憐の事も思い出していた。
(あの二人……本当に人間なのか?)
馬鹿げた考えだと理性は告げる。
だが今の道邦は、心の中で認めてしまっている。人以外のモノ、人より途方も無く大きいモノが、この世のどこかには確かに存在している事を……。
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