2 コール・オブ・C…… 6
登場人物
位高 憐:創作物の探偵みたいな恰好の青年。
ラヴェ:十代半ばにしか見えない、得体の知れない少女。
佐須 道邦:遠洋漁船で働く中年漁師。
怪物の前に、巨大な光が突き刺さった。
曇天の空を突き破って光の柱が。迫る怪物の目の前方、進路上に。
怪物が足を止めた。不快な声が咆哮となって周囲に響く。
そんな怪物の前で、光の柱は燃えるように輝いて……渦巻く粒子となり、散り、消えた。
だが光の柱が刺さった場所には、巨人が立っていた。
大きさは怪物にもひけをとらない。
全身が光る金属でできており、甲冑を纏った古代の闘士のようだ。その背中には鋭角的な、翼のような金属板を背負っていた。
光る金属巨人を目の当たりにし、漁師達はボートの上で立ち尽くす。
道邦は自分の子供が大好きなTVマンガのロボットを思い出していた。
「そりゃ今、ああいうのが流行ではあるけどよ……」
ただ一人、ラヴェだけは驚きつつも呆れていた。
「あれは星の戦士じゃん……旧神がよくあいつと手を組んで貸してくれたなぁ」
その時、憐は光る金属巨人の中にいた。
中ではあってもその周囲は宇宙のような、星雲のごとき燐光が煌めく空間である。
その中で数メートル四方の、旧い神殿の床のような場所に憐は立っていた。
浮遊する床の上に立つ憐は、古代の神官を思わせるトーガを纏い、黒メノウの輝く冠を身に着けている。
その床の上で憐は声をあげた。
「旧い支配者どもの横っ面を張り倒すためだ。気張れよ、星の戦士・アルニラム」
冠のメノウが光る。
アルニラムと呼ばれた金属巨人の目が輝き、その手に輝く投げ槍が現れた。
「深淵から出てきた物は、深淵に帰ってもらおうか」
憐がそう言うや、アルニラムは槍を怪物に投げつけた。
槍は光となって見事に突き刺さる。
建造物を容易く粉砕していた怪物が、初めて苦悶の咆哮をあげた。
「早く逃げろ! 巻き込まれるぞ!」
「わ、わかっている!」
悲鳴のような声を上げながら漁師達はボートを船へ走らせる。
その後ろでは巨人と怪物の戦いが始まっていた。
怪物は金属巨人に掴みかかっていた。
巨人の手には幅広の剣が現れ、怪物に斬りかかっていく。
鈎爪が装甲を削り、剣が皮膚を断ち切った。
爪が装甲を傷つけはするが、巨人の剣は遥かに深く怪物に食い込み、斬り裂き、貫く。
巨人の方がはるかに優勢……に、見えはした。
だが怪物は巨人に掴みかかり、押しやり、共に海へ倒れ込む。
盛大な波飛沫をあげ、衝撃で巨人と怪物は離れた。
怪物が立ち上がり、海上に膝から上が現れる。
その体にはほとんど傷は無かった……僅かな傷も見る間に塞がってゆく。
巨人も立ち上がった。あちこち傷ついたその体の中で憐は顔を顰める。
「流石に容易くはないな」
「あの怪物、不死身か……?」
離れるボートの上で、道邦は慄きながら呻いた。
ラヴェが肩をすくめる。
「水の精の中でも最上位だからね。ま、水だの何だのといったカテゴライズは、自分達が理解するために地球の人間がやった線引きだけど」
「地球の?」
理解できずに聞く道邦に、ラヴェははっきり頷いた。
「旧い支配者達は大概、この星の外から来たモンだからさ。地球の生き物の理解できる範疇に収まってないんだよね。それをなんとか解釈しようと、属性とか善悪とかの概念に落とし込んでるの。ま、本当に正確にわかった時には人間の思考の外に出ちゃってるし? 人間からしたらそれは頭パーになってるって事だから仕方ないかな」
怪物の前方に広がる海が荒れ狂った。海面が割れ、海底が露出し、荒れた波が天高く舞い上がる。数千万トンの海水が怪物の意思一つで自然の法則を無視し、決して起こりえない筈の天変地異が引き起こされている!
大いなる自然の母なる海が、怪物の悪意によって思うがままに操られていた。
空を覆いつくさんばかりの水流が膨大な滝となって金属巨人を打つ。超自然の力に操られ、膨大な質量による打撃が巨人の全身を終わる事なく打ちのめす。
傷を負っていた装甲に亀裂が走り、砕けた破片が荒波に流された。
波は荒れ狂い続けて巨人を解放しない。さらにそこへ怪物が腕を突っ込み、鈎爪を突き立てた。巨人を打つ波は怪物を害する事など一切なく、怪物は望むがままに巨人を引き裂いてゆく。
水流を刃が裂き、剣が怪物を真正面から突き刺した。
打ちのめされながら、巨人が反撃したのだ。
だが剣はそのまま怪物の体に呑まれ、背中から吐き出された。
貫いた傷もすぐに塞がり……怪物は不快な声をくぐもらせ、なお激しく巨人を引き裂きにかかった。
(駄目か! あの巨人がやられたら、次は俺達が……)
絶望する道邦。
しかし……
怪物が激しい衝撃に弾き飛ばされた!
巨人の両目から熱線が放たれ、怪物を撃ったのだ。
頭を振り回して水流を熱線で薙ぎ払い、一瞬の空白状態を作ると、その隙に巨人は上へ跳んだ。その背の翼が広がり、三つに分かれる――三対の支柱の間には燃える光が膜となっていた。
水流の檻から逃れた巨人は、天空で腰の左右に2つの砲を構える。
巨人の中で憐は怪物へ告げた。
「お前の出番は終わりだ」
冠のメノウが輝く。それに応じて翼を形成する光の膜も輝きを増した。
2門の砲から光線が放たれた。燃える炎のような光線が。
それは狙い過たず怪物を直撃した……!
光が球状に、爆発的に広がって怪物を呑み込む。
不思議な事に、その光はある程度広がると中心へと対流を始め、その外へは広がらなかった。
その光の球の中、怪物は粉々に分解して消滅してゆく。
怪物を蒸発させると、光は上へ……天へ向かって噴き上げた。絶大で膨大なエネルギーが雲を散らして上へ、空の彼方へ、宇宙へと消えた。
操るモノのいなくなった波が、余波でまだ荒々しくうねる。
それを見下ろし、巨人の中で憐は呟いた。
「人間の破滅で終わるパターンばかりじゃないんでな」
戦いが終わると、鳴動しながら島がゆっくり沈んでゆく。
ボートが船に着いた時……海上にはもう何も存在していなかった。
光る金属巨人は島の消滅と船の安全を見届けると、光の尾をひいて飛び去った。
空の彼方へと。
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