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新大陸建国記 〜未開のアパラチア山脈から始まる世界蹂躙〜  作者: tky
第6章:圧倒的火力と軍の再編

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第91話:三相交流の唸りと、真なる重工業の幕開け

建国6年、春。

長く厳しかった冬が去り、雪解け水がオハイオ川へと流れ込む季節。帝都は、かつてないほどの活況とエネルギーに満ち溢れていた。


カンッ、カンッ、カンッ!

ズズズズズ……!


帝都の中央を貫く大通りでは、春の訪れとともに大掛かりな土木工事が始まっていた。

「そっちの路床、もっとしっかり突き固めろ! その上に砕石を敷くんだ!」

「アスファルト合材、次々と持っていけ! 冷める前に平らに均すぞ!」

郷田の部下である先住民の若者たちが、手馴れた様子で指示を飛ばしている。 アスファルトを用いた、既存道路の完全舗装工事だ。ぬかるむ泥道は次々と漆黒の平滑な道へと姿を変え、ゴムタイヤを履いた荷車やトラックが滑るように駆け抜けていく。


そして、帝都の変化は昼間だけではない。


「乾杯だ! 帝国の豊かな春に!」

「ああ! 肉も酒も、まだまだあるぞ!」


日が落ちた夜の帝都。その一角にある酒場のような巨大な娯楽施設は、真昼のように明るかった。

天井から吊るされた無数の白熱電球が、琥珀色の光を放っている。昨年の秋に稼働した初期ハイブリッド発電所の恩恵だ。

かつて、夜の闇を恐れ、日が沈めば身を寄せ合って眠るしかなかった先住民や移民たち。彼らは今、時間を忘れて酒を酌み交わし、温かい食事と圧倒的な「文明の豊かさ」を享受し、夜通し飲み明かしている。

恐怖と飢餓に支配されていた原始の夜は、帝国の電力によって完全に駆逐されていた。


***


だが、建国の中枢メンバーたちにとって、この「市民の豊かさ」は、まだ序章の序章に過ぎなかった。


帝都の中枢指令室。

その窓辺から、夜通し光り輝く都市の喧騒を見下ろしながら、九条蓮は静かに口を開いた。


「……見事なものだな。東、お前が設計したローカルグリッドのおかげで、帝都の夜は完全にコントロール下にある。冬の間に完了した帝都工場群のDC(直流)モーター化の恩恵で、部品の生産性も劇的に向上した」


背後のソファに深くもたれかかり、気怠げに天井を見上げていた東航平が、深くため息をついた。


「ああ。各拠点の状況も、今のところは計算通りだぜ。油田プラントと、エリー湖の造船港の発電所は冬の間もノートラブルで稼働しきった。雪が解けたから、ストップしてた連水港の発電所の工事も再開させてるし、スペリオル湖の採掘港も、冬を越したカヤら土木部隊の若手たちが、ディーゼル発電所の建屋建設に取り掛かってる」


東は手元のバインダーをパラパラと捲りながら、ダウナーな口調の中にエンジニアとしての鋭い光を宿す。


「第一艦も、湖の氷が解けてフル稼働だ。帝都から連水港まで川で運んだ物資を、トラックで陸送して造船港で第一艦に積み込み、北の採掘港へ補給している。……水系が違うせいで発生するこの陸送のボトルネックは、将来、連水港と造船港の間に『運河』をブチ抜けば完全に解決するがな」

「ああ。それまでは手間だが我慢だ」と九条が短く応じる。


「だが、いいニュースもある」

東がニヤリと笑った。

「第一艦には、採掘港からの帰りの空き荷を利用して、東の『半島』へ立ち寄らせている。あそこの地表に転がっている自然銅を船に積めるだけ積んで、造船港へ降ろすピストン輸送ルートが確立した。……当面の銅の供給には困らねえ」


「なるほど。それは重畳だ」

九条が頷くのを見て、東は再びバインダーに目を落とす。


「だが、九条の言う通り、現状のDCモーターじゃスケールアップに限界が来てる。整流子とブラシが物理的に擦れ合ってるせいで、負荷をかけるとすぐ火花が散るし、摩耗してメンテナンスの手間がかかる。何より、構造上どうしても『超巨大なトルク』を安定して生み出すのが難しいんだよ」


『俺の理想とする、完全自動化された美しいメガロポリス……。それを作るためには、もっとバカみたいな大電力と、メンテナンスフリーの無尽蔵の物理動力が必要なんだ』


「せや。今のオモチャみたいなDCモーターじゃ、何トンもある重工業プラントはぶん回せん。……やからこそ、これの出番やろ」


部屋の扉が乱暴に開き、油まみれの作業着を着た真野巧が、一枚の分厚い設計図をテーブルに叩きつけた。


「昨年の秋にギリギリで運び込まれ、冬の間に初期電化の配電網にガンガン消費された銅……。だが、東の言う通り、今は第一艦が半島から次々と極上の銅を降ろしてきとる。今日からこの潤沢なマテリアルを惜しみなく使って、次の次元へ行くで」


真野がニヤリと笑いながら指差した設計図。そこに描かれていたのは、複雑に絡み合う3系統のコイルと、堅牢な鉄の塊だった。


「『三相交流(AC)』……ニコラ・テスラの生み出した、電気工学の究極の魔法や」


***


数日後。真野の工房。


「あかーん!! チャパ、そこテンション緩んでるで! 3つのコイルの巻き数は、寸分違わず同じにせんと磁界のバランスが崩れるんや!」


「す、すみません真野さん! でも、銅線が太すぎて、腕がパンパンで……!」


怒号が飛び交う中、弟子のチャパが巨大な鉄芯ステーターに、親指ほどの太さがある銅線を必死に巻きつけていた。


現在、真野の妻であり「神の指先」を持つエルワは、双子の育児のため安全圏である居住区にいる。ミクロン単位の極限の精密作業を要求される現場において彼女の不在は痛手だった。


『エルワの手が借りられんのはキツい。だが、細い線でチマチマ巻いて効率を稼ぐ必要はもうない。今の俺たちには、潤沢に使える極太の絶縁エナメル線があるんや!』


真野の目の前には、半島から届いた極太の銅線が山のように積まれている。精密さを、圧倒的な物量とパワーでねじ伏せるフェーズに入っていた。


「ええかチャパ、三相交流ってのはな、タイミングを少しずつズラした3つの波(電気)を同時に流すんや。そうすると、この鉄のドーナツの中に『回転する磁界』が生まれる」


真野は自らも極太の銅線を引っ張りながら、大粒の汗を拭う。


「その回転する磁界の中に、導体でできたただの鉄のローターを入れる。……するとアラゴの円盤の原理で、鉄の筒が磁界に引っ張られて、勝手に猛烈な勢いで回り出すんや!」


「ただの鉄の筒が、勝手に……? 磁石も、電気を流すブラシも使わないんですか!?」


「せや! 電気を送る接点ブラシがないから、絶対に火花が出んし、摩耗もせん! メンテナンスフリーで、死ぬほど頑丈! これが、現代のあらゆる重工業を根底から支えていた最強の心臓……『三相誘導モーター』や!!」


真野が、職人としての確信と興奮で熱を帯びる。


直流モーターの限界を突破する、シンプルにして究極の回転動力。

潤沢な銅という「マテリアルの暴力」が、真野の頭の中にあった現代のオーバーテクノロジーを、この異世界に完全に物理的受肉させようとしていた。


***


「……セットアップ完了だ。結線にミスはないな?」


工房の奥に特設された実験場。東が、自身が組み上げた制御盤のメーターを鋭い目で確認する。


その視線の先には、既存の大型ディーゼルエンジンに直結された巨大な『三相交流発電機』と、そこから3本の極太のケーブルで繋がれた、鉄の塊のような『第1号・三相誘導モーター』が鎮座していた。


「おう。いつでもいけるで」


真野がモーターのシャフトの横に立ち、手で合図を送る。

その傍らでは、九条が腕を組み、冷徹な目で実験の行く末を見守っていた。


「いくぜ。……送電開始スイッチ・オン


東が、制御盤の巨大なナイフスイッチを押し込んだ。


ゴオオォォォォォ……ッ!!


発電機のディーゼルエンジンが唸りを上げ、猛烈な黒煙を吐き出す。

そこから生み出された三相の波(交流電力)が、太いケーブルを通ってモーターの固定子へと流れ込んだ。


キィィィィィン……!!


モーターの内部で、目に見えない巨大な「回転磁界」が生まれる。

その磁界の波に引き摺られるように、中心に鎮座していた分厚い鋼鉄の回転子ローターが、重々しい音を立てて回り始めた。


「回りました……! 真野さん、回ってます!!」


チャパが歓喜の声を上げる。

だが、その回転は一瞬で速度を増し、周囲の空気を切り裂くような強烈な風切り音へと変わっていった。


グワァァァァァン!!


モーターのシャフトが、目に見えない速度で猛然と回転し始める。

それは、これまでの直流モーターの甲高い音とは全く違う、大地から湧き上がるような重厚で暴力的な「唸り」だった。


『……すげえ。ブラシの摩擦音がないだけで、ここまで澄んだ、純粋な動力の音になるのか』


東は、その完璧に連続した回転音を聞きながら、背筋にゾクゾクとするような悪寒と興奮を感じていた。


「よし! チャパ、負荷をかけろ! シャフトにブレーキを押し当てろ!」


真野の怒号を受け、チャパが巨大な木のテコを使い、回転するシャフトに無理やり摩擦ブレーキを押し付ける。

焦げた木の匂いと煙が立ち込めるが、三相誘導モーターは全く意に介さない。


「ガハハハ! 止まらんで! なんぼ負荷をかけても、こいつの巨大なトルク(回転力)は殺せへん!!」


真野は、煙を上げるブレーキを見つめながら、勝利の笑い声を上げた。


「……見事だ、真野、東」


九条が、唸りを上げる鉄の塊を見据えながら、静かに、だが確かな熱を帯びた声で言った。


「これだけの巨大な物理的動力が、スイッチ一つで、しかもメンテナンスフリーで得られる。……これでようやく、システムを次のフェーズへと引き上げる『狂気のプラント』を動かすことができるな」


「おう。俺ももう、チマチマした機械を回すのには飽きとったんや」


真野が、額の汗を拭いながら九条の視線に頷く。


三相交流という魔法。

それは、帝都を単なる「明るい街」から、「山を砕き、鉄の海を生み出す」真の重工業プラントへと変貌させるための、最強の心臓モーターを手に入れた瞬間だった。

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