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新大陸建国記 〜未開のアパラチア山脈から始まる世界蹂躙〜  作者: tky
第6章:圧倒的火力と軍の再編

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第88話:湖上船の建造と、銅の大量確保に向けた出航準備

建国5年、初夏。

森を切り裂いた直線陸路を抜け、何台ものトラックの車列がカヤホガ川の河口――『造船港』へと到着した。


トラックの助手席から降り立った真野は、目の前に広がる光景に息を呑んだ。


「……やりおった。マジで掘り抜きおったで、あのゴリラ……」


そこには、冬の間にただの川岸だった場所とは信じられないほど、巨大で幾何学的な「大穴」が口を開けていた。

複数台のブルドーザーの排土板と、油圧ジャッキの原理を応用して作られたショベルカーが、文字通り山を削り、大地を抉り取って造り上げた本格的な『造船所ドック』である。

川との境界には、分厚い丸太と土嚢で組まれた仮設のコフールダムが築かれ、ドック内への水の浸入を防いでいた。


「ガハハハ! 遅えぞ真野! こっちの『器』の準備はとっくに終わってんだ!」


泥にまみれた郷田が、重機のキャビンから身を乗り出して豪快に笑った。


「おう! 待たせたな! こっちも帝都の工房で、船の『心臓』と『骨格』をみっちり仕上げてきたで! さらに、造船用の熟練労働力として、うちの工房の弟子たちも根こそぎ連れてきたわ!」


真野はトラックの荷台を叩いた。 そこには、木箱に厳重に梱包された鉄骨のジョイント部品、巨大な『直列6気筒ディーゼルエンジン』、そして油まみれの作業着を着た真野の部下たちが乗っていた。


「助かるぜ。ドックの掘削が終わったから、今までここで手伝わせてた現地民の若けぇ連中はどうしようかと思ってたところだ。船を組むような複雑な作業は、アイツらじゃまだ言葉の壁があって危ねえからな」


「せやな。熟練の要る造船は俺たち機械屋に任せろ。現地民はどうするんや?」


「この『造船港』と、アクロン付近の『連水港』の本格的なインフラ建造に回してある。それと並行して、連水港までの直線陸路の『拡幅工事』にも取り掛からせてる」


郷田は背後の森へと続く直線陸路を指差した。


「今はまだただの泥道だが、南の油田プラントから出る精製カス(アスファルト)をこっちに運んでくれば、完全な『舗装道路』にできる。天候に左右されねえ完璧な物流の大動脈に仕上げてやる計画だ」


その会話を聞いていたヨキが、眼鏡を押し上げながら口を挟んだ。


「その物流網ですが、懸念があります。これから造船港や、採掘港など、前線基地が拡大していくわけですよね。それらの拠点で使う重機や、船自体の燃料となる『軽油・重油』は、どうやって南の油田からここまで運ぶおつもりですか? まさかドラム缶に詰めて、この第一艦に混載するわけではないでしょう。それでは帰りの空荷のスペースが、ペイロード(積載量)を無駄に圧迫してしまいますよ」


ヨキの経済的かつ合理的な指摘に、郷田は忌々しそうに舌打ちをした。


「分かってるさ。俺だって土木屋だ、本音を言えば油田プラントから連水港を抜けてこの造船港まで、一気に『パイプライン』を引いてしまいたいところだ。そうすりゃ輸送コストはゼロになる」


郷田は手元の図面を丸め、トラックの荷台を叩いた。


「だが、今の俺たちには機関銃や重機に回す鉄しかねえ。何十kmもの分厚い鋼管を作る余裕はねえし、何より冬場の『凍結』だ。この辺りの寒さじゃ、保温設備のねえパイプラインの中に残った重油はドロドロに固まって、一発で再起不能になっちまう」


「だからこそ、今の最適解は『専用車両』と『専用船』や」

真野がニヤリと笑ってヨキを見た。


「まずは、南の油田から連水港まではオイルタンカーで運び、そこからこの造船港までの15キロの陸路は、巨大なタンクを背負った『タンクローリー』を作ってピストン輸送させる。そして……」


真野は、背後のドックを見下ろした。


「この造船港で、燃料輸送だけに特化した『専用のオイルタンカー(第二艦)』を建造する。各拠点のインフラを回すための血管は、俺たち機械屋が完璧に繋いだるわ」


「なるほど……。タンカーですか。それならば荷役の手間もなく、物資輸送の貨物船と完全に切り離して運用できますね」

ヨキは深く頷き、納得したように手元の手帳にメモを書き込んだ。


***


その日から、造船港は凄まじい活気と喧騒に包まれた。


真野の指揮のもと、帝都からやってきた工房の弟子たちと、郷田の土木部隊の精鋭たちが入り乱れ、ドックの底で巨大な船体を組み上げていく。


「アホか! 竜骨キールの水平が狂っとる! ジャッキでもう少し持ち上げろ!」

肋骨フレームの継ぎ手には、帝都から持ってきた『鉄鋼のL字アングル』と『ボルト』を惜しみなく使え! 五大湖の波は海と同じや! 木の組み合わせだけじゃ、ねじれで一発で空中分解するぞ!」


真野の怒号が響き渡る。

現在建造しているのは、帝国の記念すべき第一艦となる『ディーゼル動力付き・大型平底船』だ。


川や浅瀬も遡上できるように船底を平たくしつつも、五大湖特有の荒々しい波浪に耐えうるよう、船体の骨格となるフレームの要所要所を鋼鉄のボルトとアングルでガチガチに補強した『鉄骨木造ハイブリッド構造』である。


数週間の突貫工事の末、外板の隙間に松ヤニとタールを煮込んだ防水材ピッチが叩き込まれ、巨大な船の全貌が姿を現した。


「よし……! 次は心臓部や!」


真野の合図で、ワイヤーに吊るされた巨大な直列6気筒ディーゼルエンジンが、ゆっくりと船体の機関室へと下ろされていく。

トラックや重機で培った直6の技術をベースに、シリンダー径を限界までボアアップした代物だ。直列6気筒特有の「完全バランス」により、これほど巨大化しても振動を最小限に抑えつつ、スクリューシャフトへ強大な推進力を叩き込めるよう調整された船舶仕様である。


「完璧や。これで、湖を自在に駆け回れる」


油にまみれながら機関室から顔を出した真野に、ヨキが歩み寄ってきた。


「見事ですね、真野さん。これほど巨大な積載量があれば、北西のスペリオル湖周辺に眠る莫大な『自然銅』を一気に帝都へ運び込むことができる。……物流の概念が、根本から覆ります」


「ああ。今年、俺たちが目指すのは大量の『銅』や。……こっちの準備は整ったで。あとは春の会議で決めた通り、お前らの外交とロジスティクスにかかっとる」


ヨキは手帳を開き、静かに頷いた。


「ええ。往路で私がプロペラソリ(滑空舟)を出して先行し、冬に交渉しておいたエリー湖の各部族から、銅の集積と桟橋の進捗を確認しておきます」


「で、大本命の未開地(採掘港)に着いたら、お前が新たに現地の部族に交易をふっかけて銅を集めさせてる間に、空になった第一艦をこっち(造船港)にトンボ返りさせるわけやな」


「その通りです。復路でエリー湖の部族から銅を回収し、第一便としてこの造船港へ送り届けます。船のダウンタイムを極限まで削るピストン輸送です」


「頼むで。その第一便の銅が造船港に早く届けば、俺の計画が前倒しで進められる」


「ええ。帝都の初期電化に必要な銅は、冬の間に私が集めたもので足りていますが、ここから『帝国全土の電化・電動化』を進めるとなれば、桁違いの量が必要になりますからね」


「その通りや。油田プラント、連水港、この造船港……すべての拠点に『分散型発電所』を建ててローカルグリッドを作る。さらに、帝都の工房の工作機械も、全部『電動モーター駆動』に切り替えるんや」


真野の言葉に、ヨキはハッと息を呑んだ。


「すべての拠点を電化し、工場を電動モーターで動かす……! まさにインフラ革命ですね。レアメタルの本格的な採掘と製錬は、その『電動化』と『拠点インフラ』が完成する来年以降に持ち越すというわけですね。非常に理にかなったロードマップです」


ヨキは深く頷いた。未開の地でいきなり高度な製錬設備を組むのではなく、まずは既存の技術で扱える「銅」を大量確保し、自国の足元インフラを完全に固める。いかにも帝国らしい、堅実で恐ろしい加速の仕方だった。


***


その日の夕暮れ。

ドックの底で作業の進捗を確認していた真野のもとに、郷田が差し入れの冷えた塩水を持ってやってきた。


「どうだ真野、順調か?」


「ああ。エンジンの据え付けも終わった。あとは船倉に採掘用のウインチと機材を積み込んで、甲板を張れば完成や。……夏の本番前には、間違いなく第一艦の進水式ができるで」


塩水を一気に煽った真野は、ドックの底から見上げる夕焼け空を、少しだけ眩しそうに見つめた。


「どうした? 子供の顔でも思い出したか?」

郷田がニヤリと笑って小突く。


「……まぁな。うちの双子も、もうすぐ一歳や。……少しばかり気が急ぐんや」


「アホか。帝都の居住区は完璧な安全圏だ。それに、鬼頭が配備した機関銃のトーチカ防衛網もある。俺たちのガキどもは、世界で一番恵まれた環境ですくすく育ってやがるさ」


郷田の言葉に、真野は小さく頷いた。


「せやな。……だからこそ、俺たちはここで立ち止まるわけにはいかんのや。この船で莫大な銅を持ち帰って、各要衝のトーチカに『探照灯サーチライト』を設置する」


真野は巨大な船体を見上げ、拳を握りしめた。


「暗闇を完全にぶっ壊して、夜でも絶対に敵を寄せ付けん国を作る。……そのためなら、湖の一つや二つ、俺の機械でねじ伏せたるわ」


建国5年、初夏。

五大湖の覇権を握り、帝国のインフラを次なる次元へと引き上げる強大な「楔」が、今まさに完成の時を迎えようとしていた。

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