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新大陸建国記 〜未開のアパラチア山脈から始まる世界蹂躙〜  作者: tky
第6章:圧倒的火力と軍の再編

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第87話:絶対防衛網の完成と、造船所の着工

建国5年、春。

帝都の本丸にある真野の工房は、凄まじい熱気と金属の焼ける匂いに包まれていた。


「チャパ! 温度はどうなっとる!」

「1500度を突破しました! クロムもニッケルも完全に溶け合っています!」


油と煤にまみれた真野と弟子のチャパが、耐火レンガで組まれた反射炉を睨みつけていた。

冬の間にヨキたちが氷上を駆け回って集めた莫大なレアメタル。それを惜しげもなく鉄と融合させ、極限の耐熱性と硬度を誇る『クロム・ニッケル合金』を精錬しているのだ。


「よぉし、型に流し込め!! 一気にいくぞ!」


真野の号令と共に、るつぼから白熱した液状の合金が鋳型へと注ぎ込まれる。

それは、帝国の絶対的な防衛を担う『マキシム機関銃』の新しい銃身バレルとなる、強靭な鋼の塊であった。


冷却されたクロム・ニッケル鋼のインゴットが取り出されると、真野はすぐさまマザーマシン(精密旋盤)へセットした。


「チャパ! マザーマシンの切削刃バイトは、新しく打った『合金製』に交換してあるな?」

「はい! 先にレアメタルを混ぜて鍛造した、特製の硬質バイトです!」


真野がレバーを引き、インゴットに切削の刃を当てる。

甲高い金属音と共に、激しい火花が散った。


『……硬え。これまでの炭素鋼の刃なら、削るどころか一瞬で刃こぼれして丸坊主になっとるわ。やけど、こいつなら削り切れる!』


ミクロン単位で削り出されていく合金を睨みつけ、真野は油まみれの顔に狂気じみた笑みを浮かべた。


「 ええぞ! これなら、機関銃の連射の熱でも歪まへん! 俺たちの国を守る、最強の『悪魔の杖』ができあがるで!」


職人としての意地と純粋な熱狂が、美しく、そして凶悪な輝きを放つ銃身を削り出していった。


***


数日後。帝都郊外の演習場。


「ガハハハ! いいぜ! 前の炭素鋼みたいに、すぐ熱膨張で弾詰まりを起こさねえ!」


鬼頭の狂気に満ちた笑い声と、分間600発の銃声が、春の森に轟き渡っていた。

水冷式のジャケットに覆われた新しい機関銃は、給弾ベルトから次々と弾丸を吸い込み、途切れることなく鋼鉄の暴風を吐き出し続けている。

標的にされた分厚い丸太の壁は、瞬く間に木っ端微塵に粉砕された。


トリガーを離すと、沸騰した水冷ジャケットのバルブから猛烈な白い蒸気が噴き出した。

硝煙と蒸気の匂いを嗅ぎながら、鬼頭は満足げに機関銃を撫でた。


「ずっとトリガーを引きっぱなしにすりゃあ水が干上がっていつかは焼き付くが、冷却水の容量を増やせば数万発の連続射撃も夢じゃねえ。真野の野郎、完璧な実用品に仕上げやがったな。これで『面制圧力』に死角はなくなったぜ」


「見事だ。これで中身(兵器)の完成だな。……あとは、これを収める『箱』だ」


演習場の後方から歩み寄ってきた九条が、冷徹な目で粉砕された丸太を見据えながら言った。


「おう、九条。……春になったし、いよいよ各要衝チョークポイントに、コンクリートの『軍事基地トーチカ』を建てていくってわけだな」


鬼頭の言葉に、九条はゆっくりと頷いた。


「ああ。南のオハイオ川から、北のエリー湖まで。我々に影響を受ける経済圏(交易相手)の総人口はすでに1万人を超えようとしている。だが、勘違いしてはならない。我々の支配領域は決して『面』ではない。帝都と、いくつかの資源拠点、そしてそれを結ぶ物流ルートを確保しているだけの、完全な『虫食い状態』だ。実質的に我々が直接管理し、労働力として動かせる市民はまだ3000人程度に過ぎない」


「違いねえ。実質的な領土なんざ、点と線だけだ」


鬼頭は頷きつつ、腕を組んで疑問を口にした。


「だがよ、軍事基地を作るにしても、土木工事の労働力は足りてんのか? 去年から傘下に入れた近隣の村から、若い連中をガンガン引き抜いて土木部隊に回してるが……あいつらがいなくなったら、村の生産力が落ちて崩壊しちまうんじゃねえか?」


その懸念に対し、九条は冷徹な為政者の顔で淡々と答えた。


「だからこそ、彼らを帝都に難民として吸収するのではなく、あえて現地に留まらせている。彼らの集落に『ガチャポンプ』を設置して衛生的な水を与え、災害に強い建物の基礎の作り方や、鉄製農具、新しい農法などの基礎的なインフラを整えさせた。……それさえあれば、老人や女子供だけの少ない人数でも村の生産力は維持できる。そうして浮いた『若者という余剰労働力』を、帝都の現場に引き抜いているのだ」


「なるほどな。インフラで村を『省力化』してやる代わりに、浮いた人手を帝国に納めさせるってわけか。……えげつねえ囲い込みだぜ」


「だが、それでもまだ絶望的に人が足りない」


九条は忌々しそうに眉間を寄せた。


「昨年引き抜いた若者たちが、ようやく少しずつ帝国標準語(ローマ字)を覚え始めているが、まだ圧倒的に数が足りない。言葉や複雑な指示が通じない者を、これから着工する広域防衛網トーチカの建造や、造船所の建設といった『複雑な現場』に直ちに投入することはできないのだ」


「……インフラで労働力は生み出せても、即戦力の『熟練工』にはならねえってことか」


「ああ。さらに春以降は、ヨキが北で撒いた噂を聞きつけて、言語も文化も全く違う遠方の部族が、我々の富を求めて『傘下に入りたい』と殺到してくるだろう。……とてもではないが、教育と受け入れのキャパシティが追いつかない」


だからこそ、と九条は機関銃を指差した。


「この虫食い状態の領土の『線(物流ルート)』と『点(衛星村)』を守るには、少ない兵力で要衝を死守できるこの兵器が必要だった。……防衛部隊の兵士をトーチカに十数人置いておくだけで、いかなる外敵も寄せ付けない絶対的な防衛網になる。人員の最適化だ」


「なるほどな。熟練の人手が足りねえ上に、守らなきゃならねえ拠点が点在してる。さらにこれから難民が殺到する。……なら、圧倒的な火力で要衝を制圧して、無理やり秩序を保つしかねえってことだ」


鬼頭は残虐な笑みを浮かべ、機関銃をトラックに積み込むよう、タタンカたちに指示を出した。


***


同時刻、北の五大湖。

エリー湖畔へ注ぐカヤホガ川の河口付近では、郷田の怒号が響き渡っていた。


「オラァ! もっとエンジン吹かせ! 地面ごと根こそぎ抉り取れ!!」


黒煙を吹き上げながら、何台もの『ブルドーザー』が唸りを上げている。 冬の間、仮拠点に保管されていたデチューン重機群に加え、帝都のグラウンド整備でテストを終え、追加投入された新しい重機たちだ。


「おう!時間が足りねえねら 、機械のトルクで強引に埋め合わせるしかねえ! ガハハハ!」


彼らが着手しているのは、ただの船着き場ではない。

五大湖の荒波に耐えうる巨大な『湖上船』を建造するための、本格的な『造船所ドック』の建設である。


重機の圧倒的なトルクが、森の木々を薙ぎ倒し、川岸の土を深く掘り下げていく。

その周囲では、昨年から傘下に入り、少しずつ言葉を覚え始めた近隣の若者たちや、通訳を介した現地の男たちが、汗まみれになって働いていた。


「よし! 次はコンクリートの打設だ! 基礎の型枠を急がせろ!」


郷田の指示を、通訳の青年たちが現地の言葉やピジン語に翻訳して怒鳴り散らす。 複雑な指示が通じにくい彼らとの連携は非効率な部分も多いが、圧倒的な重機のパワーによる「省力化」と、「帝国の指示に従えば、暖かな家と美味い飯が手に入る」という絶対的なルールによって、現場は狂ったようなペースで進捗していた。


「……相変わらず、無茶苦茶なペースですね、郷田さん」


図面の束を抱えたヨキが、呆れたような、しかし感心したような声で歩み寄ってきた。


「おうヨキ! お前が掻き集めてくれた資源と、この重機のおかげで、予定通りドックが掘れてるぞ!」


「それは何よりです。……しかし、郷田さんご自身が、これほど大規模な『船』の建造まで指揮されるおつもりですか?」


ヨキの問いに、郷田は鼻で笑い飛ばした。


「アホか、俺は土木屋だぞ? 船なんざ作れねえよ。俺の仕事は、デカい船を安全に組んで浮かべるための、この巨大な『ドック』を掘り抜くことだ」


郷田は背後に広がる、重機によって深く抉られた巨大な穴を親指で指差した。


「夏までにこの土木工事ドックを完成させて、帝都から真野の野郎を出張させる。……ここから先の、動力付きの大型平底船の建造は、あいつの仕事だ」


郷田の瞳には、すでに次の巨大プロジェクトの青写真が映っていた。


「真野の野郎が言ってた『現地製錬』をやるためにな。……あいつが組む船の中に、高炉を作るための耐火レンガも、製錬設備も、全部丸ごと積み込んで運ばせるんだよ」


「なるほど……。採掘地に工業プラントを移設してしまうと」


ヨキは、その圧倒的な効率化のロジックに感嘆の息を漏らした。


「ガハハ! その通りだ! だから、お前ももう少しここで踏ん張れ! 夏までにドックを仕上げて、真野を呼び寄せて一番艦を進水させてやる!」


郷田の咆哮と共に、複数のディーゼルエンジンがシンクロするように重低音を響かせた。


少人数で面を制圧する「悪魔の機関銃」と、大自然を力業でねじ伏せる「重機による土木工事」。

複雑な労働力不足というボトルネックを、圧倒的なテクノロジーによる「省力化」で突破し、建国5年の春、帝国はさらなる加速を始めていた。

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