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新大陸建国記 〜未開のアパラチア山脈から始まる世界蹂躙〜  作者: tky
第6章:圧倒的火力と軍の再編

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第83話:全権大使ヨキと、直線陸路への強行突破、そして猛獣撃退

秋を告げる風が吹き抜ける帝都の港。

出航していく先行船団を見送る真野は、油まみれの作業着のまま腕を組み、大きくため息をついた。


「デチューン重機の加工……クローラーと車軸の極厚化で、予想以上に削り出しに時間がかかっとる。優先順位をつけて仕上げるしかないな。まずは道をこじ開ける『ブルドーザー』を最優先で造る。資材運搬や兵員輸送用のトラックはその後や。完成次第、船で送ることになるで」


「ガハハ! 気にするな!」


船上から郷田が大声で笑い返す。


「まずは重機で掘削を始めるが、進むにつれてベースキャンプ(連水港)への『通勤距離』と、重機への『燃料補給』が地獄になるからな! 足と運搬を担うトラックは、完成しだいすぐに連水港へ送り届けてくれ! 」


「……ああ。待っとれよ。最速で仕上げたる」


真野はニヤリと笑い、再び昼夜問わず稼働を続ける工場へと戻っていった。


港の片隅では、先行船団に乗り込む男たちの熱気と、鬼頭の厳しい怒号が飛び交っていた。


「引き金に指をかけるなと何度言ったら分かる!! 暴発で仲間の背中を吹っ飛ばす気か!」


郷田率いる「土木部隊」の男たちが、背中にスコップやつるはしを背負いながら、短い銃身の『散弾銃ショットガン』のポンプアクションを繰り返し訓練していた。

今回は、土木作業と周囲の警戒(哨戒)を交代制シフトで回す必要がある。銃の素人である彼らに、鬼頭は出航の直前まで徹底した安全管理と取り扱いを叩き込んでいた。


「いいか! 緊急事態があっても、慌てて狙うな! 銃身を水平に保ち、ただ目の前の『空間』に向かって散弾をバラ撒け! お前たちは面制圧の壁だ!」


「おうっ!!」

鬼頭の怒号に、泥臭い土木部隊の男たちが力強く応じる。


さらに船団の甲板には、九条から直々に『全権大使』の任命を受けた数学と経済R&Dのトップ・ヨキの姿と、少し離れた位置で長距離用ライフルを静かに手入れする部隊の姿があった。鬼頭から直々に借り受けた、少数精鋭の「狙撃部隊」である。

役割は明確だ。土木部隊が近接での面制圧と作業を担い、狙撃部隊が後方から長距離の点攻撃で対処するのだ。


「郷田様。船団に積み込んだ『透明なガラス球』や『上質な布』等の交易品のリスト、および北部の巨大部族同盟との交渉シミュレーションは完了しております。また、測量用のトランシットの較正も完璧です」


ヨキは懐から精緻なローマ字と数字がびっしりと書き込まれた植物紙の束を取り出した。


「武力による威圧は最終手段です。彼らの価値観において、このガラス球一つは、毛皮数十枚に匹敵する『超高級な宝』として機能します。圧倒的な『富の格差』を見せつけ、彼らの経済圏を内側から破壊し、我々のルールに従わせる。……それが、九条様の描いたロジックですから」


「おう、頼りにしてるぜ、ヨキ! お前の方位角の割り出しがなけりゃ、真野の重機も森の中で迷子だからな!」


***


数日後。

オハイオ川の支流からアクロン付近に至る水路の終着点。原生林が手付かずのまま川辺に迫る未開の地。

そこは今、郷田率いる土木部隊の凄まじい熱気に包まれていた。


「モタモタすんな! 岸辺の泥をすき取って丸太を並べろ! そこがクレーンの基礎になる! 杭を深く打ち込め!」


郷田の怒号が響く中、数十人の男たちが泥にまみれながら木組みの巨大な固定式クレーンを組み上げていく。船から降ろした「単気筒ディーゼルエンジン」と「油圧シリンダー」を動力部として据え付け、未来の巨大物流拠点『連水港』の第一歩となる荷揚げ拠点を完成させるのである。


一方、その荒々しい土木作業の喧騒から少し離れた森の入り口で、ヨキは静かに、しかし冷や汗を流しながらトランシット(簡易測量儀)の望遠鏡を覗き込んでいた。


『……ポイントD、角度および距離の計測完了。よし、次だ』


今回の未踏ルートに住む部族たちの個別言語は解さないため、ヨキは事前に広域共通語(ピジン語)を解する現地の案内人を探し出し、雇い入れていた。


「キ、マカ! アワ・クシ!(お前たち、行け! あの場所へ!)」


川と川を繋ぐため、古くから先住民たちがカヌーを担いで歩いてきた伝統的な獣道「連水陸路ポーテージ・パス」。ヨキは、雇い入れた現地部族のガイドたちを先導させ、曲がりくねったその細い獣道の要所要所に測量用のポールを立てさせていた。


『……地形に沿って曲がりくねったこの獣道の軌跡を、トラバース(多角)測量ですべて記録する。そして、各ポイントの座標を三角関数で計算し……』


ヨキのバインダーには、びっしりとサイン・コサインの数式と数値が書き込まれていく。

ヨキが無防備に立ち止まる数分間、護衛の兵士たちは、ヨキと現地のガイドたちを中央の安全圏に挟み込むように、細い獣道の『前衛』と『後衛』に分かれて配置についた。彼らの手には、鬱蒼とした森の中で無類の制圧力を誇る散弾銃が握られている。


現地のガイドたちは、ヨキが覗き込む真鍮の筒や、殺気を放つ護衛兵たちの異様な姿に畏怖の念を抱きながら、小声で囁き合った。


「テイコク・レニ、マタ・タイ・パコ……(帝国の男は、見たことのない宝を使うな……)」

「アワ・ルカ・クシ、ノア……(あの見つめる筒は、恐ろしい……)」


***


数週間に及ぶ泥臭い測量作業と港の基礎工事が終わる頃、ヨキはバインダーを閉じ、大きく息を吐き出した。


「出ました! 郷田様!」


泥だらけの靴で岸辺へ走ってきたヨキは、誇らしげに報告した。


「獣道の全屈曲点と距離の計測、および平均化処理が完了しました。……現在地からカヤホガ川の最適地点へ至る、完全な直線のベクタ(方位角)は『北西315度42分』です! この角度から1度たりともブレずに直進すれば、15キロ先の目標地点へ寸分の狂いもなく到達します!」


「ガハハ! 上等だ! お前の数学が、見事に俺たちの羅針盤になったな!」


郷田が豪快に笑ったその瞬間——。


ボーォォォォォォォッ!!!


川の下流から、腹の底を揺るがすような重厚なディーゼルエンジンの駆動音が響き渡った。帝都からの第二陣だ。

輸送船団の甲板には、幾つにも分解された漆黒の鉄の塊と、おびただしい数の『軽油のドラム缶』が積載されていた。


郷田たちは組み上げたばかりの固定式クレーンを操作し、数トンに及ぶデチューン重機の極厚パーツと大量の燃料を陸地へと運び込む。

分厚い炭素鋼のブロックが次々と組み上げられ、次第に巨大なブルドーザーの姿が現れていった。


「エンジン始動!」


ズロロロロロロロロォォォッ!!!


極厚の炭素鋼で作られた鈍重な車体に、太すぎるクローラー。レアメタル不足を補うために質量とトルクに全振りした不格好な重機が覚醒した。郷田は運転席に陣取り、手元のコンパスにヨキが弾き出した『北西315度42分』をセットする。


「これより、幅員最低限、完全直線の道をこじ開ける! 真野が仕込んできた『刺』の威力、見せてやるぜ!」


ブルドーザーの排土板ブレードの上部には、極厚の炭素鋼で削り出された巨大な「スティンガー」が溶接されていた。


ズガァァァァァンッ!!


郷田は立ち塞がる直径数メートルの大木に対し、巨大な刺を激突させた。

高い位置にある刺が大木に阻まれて固定され、下部のクローラーが強引に前に進もうとするため、テコの原理でブルドーザーの車体前部が天を仰ぐように持ち上がり、後ろにひっくり返りそうになる。だが郷田は絶妙なアクセルワークでその暴れ馬のような反動をねじ伏せた。


前進と後退を繰り返し、楔のように何度も「刺」を叩き込んで幹を割り、郷田はブレードを大木の根元の地中深くに食い込ませる。そのまま極太のトルクで前進しながら油圧で上に跳ね上げ、テコの原理で地中に張った根のルートボールを土ごとベリベリと引き剥がした。


「ヨキ! 視界が開けたら、すぐにトランシットで水準測量をしろ!俺が現場合わせでVカットなどを決めていく」 「了解しました!」


抜根された大木が道の両脇へと押し除けられ、絶望的な大自然の壁が、見る見るうちに「平坦な直線の道」へと書き換えられていく。


***


伐採開始から数日が経過し、開拓距離が「1キロ」に達した頃。


「……クソッ、重てえ……! 轍にタイヤが取られるぞ! 押せ!」


切り開かれたばかりの荒れた直線の道の上で、交代で土木作業にあたる男たちが、手作りの頑丈な荷車を必死に引っ張っていた。

荷台に乗っているのは、二百キロ近い軽油のドラム缶だ。バカ食いする重機のために、ベースキャンプから毎日人力で燃料を運ばなければならない。


「——右の森の奥、木々が揺れたぞ! 多数の影! 狼の群れだ!!」


息も絶え絶えになっていたその時、哨戒シフトに入って周囲を警戒していた歩兵が叫んだ。 異常な騒音に怒りが臨界点に達した巨大狼の群れが、木々の障害物を盾にしながら部隊の側面フランクへと襲いかかってきた。


「訓練通りだ! 慌てるな、引き金を引け!」


ガシャンッ、ダァァァンッ!!


徒歩で随伴していた土木部隊が一斉にポンプアクションを稼働させ、散弾銃を放った。

数十発の鉛玉が放射状に広がり、木々の隙間から飛び出してきた狼たちを「面」で弾き飛ばす。鬼頭から叩き込まれた安全管理と面制圧のロジックが、初陣の男たちに完璧な防衛網を敷かせていた。

恐るべき散弾の壁に阻まれ、数匹の犠牲を出した狼の群れは怯み、蜘蛛の子を散らすように森の奥へ逃げていった。


「よし、退けたぞ……!」


歩兵たちが安堵の息を吐いた、その直後だった。


突如、前方から轟くような咆哮が響いた。 はるか前方。狼たちとは対象的に、最前線で単独で木をなぎ倒しているブルドーザーに向かって、突然変異のような巨大な黒い影——超巨大熊ブラックベアが猛然と突進してくる。騒音の元凶をピンポイントで排除しに来たのだ。


「ガハハ! 森の主までお出ましとは、こりゃ大歓迎だぜ!」


郷田は運転席で豪快に笑った。

激怒した超巨大熊が、ブルドーザーに向かって一直線に突進してくる。

しかしその行動は、後方二百メートルの位置で、荷車などの護衛のために待機していた「狙撃部隊」にとって、自ら死地に飛び込む行為でしかなかった。


ブルドーザーが完全に木々をなぎ倒して作ってくれた『完全な直線の道』。それは、後方の狙撃手たちにとって一切の障害物がない最高の「射線シューティングライン」なのだ。


「……目標、重機正面の単体。距離二百五十。風速、微風。……撃て」


パァァァンッ!!!


放たれたライフル弾の破裂音が響く。

放たれた鉛の弾丸が容赦無く、超巨大熊の眉間にめり込んだ。

大自然の王は、重機に傷一つ、泥一つすらつけることなく、あっけなくその巨体を地面に沈めた。


「……脅威の排除を確認。周囲に他の標的なし」


ボルトを引きながら冷静に報告したのは、若き狙撃兵のジンだった。


「ガハハ! 助かったぜ、ジン! お前らのライフルがなけりゃ、重機ごとひっくり返されてたかもしれねえ!」


郷田が運転席から身を乗り出して大きく手を振ると、ジンは銃を構えたまま無言で短く敬礼を返した。


「いえ。郷田様が作ってくれた『真っ直ぐな道(射線)』のおかげです。……ただの作業ですよ」


側面の群れには歩兵の散弾銃を。前方の大型目標には、安全圏からの狙撃を。そこには死闘の熱も、狩りの誉れもない。ただ「作業として障害物を排除した」という冷酷な事実だけがあった。


***


さらに開拓が進み、ベースキャンプからの距離が「3キロ」を超えた頃。 3キロの泥道を、荷車に重いドラム缶を乗せて人力で往復し続けていた土木部隊の男たちは、いよいよ肉体の限界を迎えつつあった。


「ハァ……ハァ……。もうダメだ、腕が上がらねえ……」


轍に足を取られ、泥の中に膝をつきそうになった男の背後から、突如として別の野太いエンジン音が響いてきた。


「郷田様! 真野様が時間差で完成させた『トラック』が到着しました!」


切り開かれたばかりの道の上を、トラックが土煙を上げて接近してくる。


「助かったぜ……!! これで地獄の燃料運びから解放される!!」


土木部隊の男たちが、疲労の色が濃い顔を綻ばせ、歓喜の声を上げる。 彼らの「足」となる兵員輸送と、何より重労働だった『燃料の運搬』を担うトラックが、絶妙なタイミングで前線に追いついたのだ。


「ガハハ! 真野の野郎、最高のタイミングじゃねえか!」


郷田は満足げに笑い、再びブルドーザーのレバーを握った。


「俺たちには、安全な場所で腹を痛めてる妻たちと、これから産まれてくる子供たちの未来がかかってんだ。……雪が降る前に、目標を達成させるぞ!」


ズロロロロロロロロォォォッ!!!


黒煙が上がり、無骨なデチューン重機が再び前進を開始する。

トラックというロジスティクスを得た帝国のコンボイは、カヤホガ川へ向かって、圧倒的な暴力で直線を刻み込んでいった。

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