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新大陸建国記 〜未開のアパラチア山脈から始まる世界蹂躙〜  作者: tky
第6章:圧倒的火力と軍の再編

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第82話:限界を迎える銃身と、巨大プロジェクトの全貌

ダラララララララララララッ!!!!


帝都郊外に設営された射撃試験場に、腹の底を揺るがすような恐ろしい連続爆音が響き渡る。


無煙火薬と金属薬莢が生み出した「マキシム機関銃」。

毎分600発の鋼鉄の暴風は、数百メートル先の分厚い丸太の標的を、文字通り木っ端微塵に粉砕していた。


「……チッ、ストップだ! 撃ち方やめ!」


土嚢の影から身を乗り出した鬼頭が、忌々しげに舌打ちをして手を挙げた。


射手がトリガーから手を離すと、静寂を取り戻した演習場に、シューゥゥゥ……という水が沸騰する音が響く。


「あかんな。また曲がりよった」


冷却水用のウォータージャケットから白煙を噴き上げる銃身バレルを見つめ、真野が油まみれのタオルで顔の汗を拭った。


その視線の先にあるバレルは、高熱によって赤熱し、自らの重みと圧力に耐えきれず、わずかにお辞儀をするように歪んでしまっていた。


「5秒程度の掃射にとどめて冷却時間を設ける……『指切り』運用ならバレルは保つ。複数の銃座を配置してクロスファイア(十字砲火)を組めば、隙は完全にカバーできる」


鬼頭が冷静に軍事的な解決策を口にした。


「ああ。今の蛮族相手なら、それで十分すぎるオーバーキルだ」


真野も無言で同意した。機関銃の量産体制自体は既に整いつつある。数と運用でカバーすることなど、彼らには造作もないことだ。


「だが、俺たちが目指す『絶対防衛網』のスペックとしては不満が残る。バレル交換の手間、無駄な数の配置……運用でカバーできるとはいえ、単機で一切途切れない弾幕を張り続けるにはどうしても『アレ』が要るな。熱に負けねえ、クロムやニッケルを配合した強靭な合金が」


建国メンバー6人は、妻たちの妊娠発覚と同時に「妊婦の現場立ち入り・労働の完全禁止」という絶対の掟を敷いた。

大きくなり始めた腹に宿る、自分たちの脆弱な子供を絶対に守り抜く。そのための防衛網に、妥協や「運用でのカバー(一瞬の隙)」という不確定要素を極力残したくなかった。


『どんな蛮族だろうが、二度と懐に入れさせへん。そのためには、システムとして完璧な暴力が絶対に要るんや……!』


「クロムとニッケル。それに、東がうるさく要求しとる、初期電化のための大量の銅……。どっちみち、兵器も重機も、今のままやと帝国の進化はここで頭打ちや」


真野は赤熱した銃身から視線を外し、遥か北の大地——五大湖方面へと顔を向けた。


***


「——というわけで、次世代の『重機部品』や機関銃の『合金バレル』を作るため、五大湖周辺に眠る大量のレアメタルが必要だ」


統治局の最上階、重厚な一枚板のテーブルを囲む建国メンバー6人の顔は、かつてないほど引き締まっていた。


九条が広げた巨大な地図の上には、帝都からオハイオ川の支流を遡り、北へ向かうルートが赤い線で書き込まれている。


「もちろん、東が要求している初期電化のための『銅』も同時にな」


「待てよ、九条。本命の採掘地は五大湖の遥か北西(スペリオル湖)だろ? 今からそこまで行って掘り出すのか?」

東が眉をひそめると、九条はフッと笑って地図の手前側——エリー湖畔周辺を指で叩いた。


「いや、今回はそこまで行かない。この周辺の巨大部族たちは長年の部族間交易により、かなりの『自然銅』を装飾品として溜め込んでいる可能性が高い。さらに、過去の氷河の移動など、自然現象でこの辺りに流れ着いたレアメタルは、銅と違い特別な見た目をしていない。手付かずで放置されている可能性が高い」


「なるほどな」

鬼頭が腕を組んでニヤリと笑った。

「鉱脈まで行かなくても、手前の連中が死蔵してるストックを買い上げれば、当面の要求量は賄えるって算段か。相変わらずエグい事考えるぜ」


「圧倒的な富で彼らの価値観をハックし、在庫を根こそぎ吐き出させる。……武力は使わんよ。あくまで平和的な『交易』だ」

九条が冷徹なロジックを語ると、冴島が静かに口を開いた。


「僕の医療設備も、そろそろ夜間の安定した光が欲しい。……妻たちの出産に備えてね」


冴島が腕を組み、冷徹な声の奥に父親としての焦りを滲ませた。


「あの薄暗いランプの灯りで、もしもの時の緊急手術なんかやりたくない。東、電気の準備はできているんだろうね?」


「俺を誰だと思ってんだよ。直流と交流のハイブリッド発電所の設計図は、もう頭ん中に入ってるぜ。その部族からかき集めた『1トン程度の銅』さえ持ってきてくれりゃ、すぐにでも夜をぶっ壊してやる」


東が気怠げに、しかし自信に満ちた笑みを浮かべる。


「ガハハ! なら、俺が北で道を開いている間、帝都の『発電所の建屋とタービンの基礎工事』は、カヤと俺の若い衆にやらせておくぜ。現場指揮と測量はカヤに任せときゃ間違いない」


郷田が豪快に笑いながら提案すると、東は満足げに頷いた。


「頼むぜ。クソ重てえダイナモを据え付けるんだ。基礎のコンクリは特別ぶ厚くしといてくれよ」


電気と箱の話しが整い、残る問題は「経路」だった。九条が地図の一点を指差す。


「目標は、オハイオ川支流からアクロン付近に至るポイント。そこからカヤホガ川へ抜ければ、エリー湖——五大湖水系へ繋がる。だが、ここには致命的なボトルネックがある」


「ああ。水路が途切れる『約15キロの陸路』だな」


郷田がニヤリと笑い、身を乗り出した。


「通常の荷車や馬じゃあ、1トンの銅すら運べねえ。だから……『道』を創る」


郷田の太い指が、地図の空白地帯をなぞる。


「アクロン付近の川湊を『連水港』。カヤホガ川の拠点を『造船港』とする。 この約15キロの森をなぎ倒し、完全な直線で幅員が最低限の道をこじ開ける」


「待てよ、郷田」

東が眉をひそめて地図の空白地帯を指差した。

「鬱蒼とした森の中で、15キロ先の川へ向けてどうやって『正確な直線』を引くつもりだ? GPSも衛星写真もねえんだぞ。コンパス頼りで進んでも、少しでも角度が狂えば目的地から大幅にズレるじゃないか」


「方向については問題ない。ヨキを全権大使として郷田に同行させる」

九条が冷徹な声で答えた。


「現地の部族は、川と川を繋ぐためにカヌーを担いで歩く『伝統的な獣道』を持っている。ヨキの外交でそのガイドを取り付けさせる。だが、その曲がりくねった道をそのまま使うわけではない」

九条はコンパス(円規)を地図に突き立てた。

「ヨキにはトランシット(簡易測量儀)を持たせる。彼に獣道の要所要所でポイントを計測させ、曲がった線を数学的に平均化し、カヤホガ川へ向かう完全な直線のベクタ(方位角)を割り出させるんだ」


「なるほどな。現地民の知識を、数学でハックして上書きするってわけか」

鬼頭がニヤリと笑う。


「直線化のロジックは完璧だが、もう一つ問題があるぞ。直線ルート上の正確な地形の高低差すら分かってないじゃないか」

東がさらにエンジニアとしての懸念をぶつける。


「高低差については、俺が現場でやる」 郷田が太い腕を組み、自信に満ちた声で引き取った。 「ヨキが割り出した直線の角度のまま重機を突っ込ませて森を伐採し、視界を開きながらトランシットで水準測量を行っていく。実際の高低差をリアルタイムで把握し、道を完全な直線にする為だけの最低限の『Vカット』を現場合わせで刻んでいく。ちなみに、このVカットは数メートルを想定している。プロの現場監督オレがいるんだ、現場合わせの臨機応変な土木工事なんざ朝飯前だ」


「……方角と高低差の問題は現場で解決するとしても、数メートル想定のVカットやて? アホか、どんだけ土砂を動かすつもりや」


真野が呆れたようにため息をついた。


「手作業じゃ百年かかるぞ。だからお前が創るんだよ、真野。……『重機』をな!」


郷田の言葉に、真野は眉をひそめた。


「無茶言うな。油圧ジャッキの技術は確立したし、トラックのエンジンも使える。せやけど、岩や大木をどかすパワーに耐えられる『レアメタル』が無いから、今こうして会議しとるんやろが。既存の炭素鋼でアームやブレードを作っても、強度が足らんぞ」


「ガハハ! 簡単なことだろ。レアメタルが無くて強度が足りねえなら、既存の炭素鋼を『アホみたいに分厚く』すりゃいいんだよ!」


堂々巡りの議論を、郷田は悪びれる様子もなく笑い飛ばした。

しかし、真野の技術者としての頭脳は即座にそのデメリットを弾き出し、険しい顔で反論する。


「アホか。炭素鋼を肉厚にして強度を稼ぐとなれば、当然クローラーも太くせなアカン。出力を落としたエンジンでそんな馬鹿デカい鉄の塊を動かすには、ギア比を変えてトルクを稼ぐ必要がある。せやから、動きは絶望的に遅うなるぞ」


真野は机の上に広げられた紙に、不恰好な重機のラフを描き殴り、ペン先でガンガンと叩いた。


「さらに最悪なんは、最終的にその全負荷がかかる車軸ドライブシャフトや。ここも極厚の炭素鋼にせなアカンから、必然的に重心が高うなって、バランスも最悪になる。デメリットだらけや。……こんなもん、洗練とは程遠い、ただの不恰好な鉄のゴミやぞ!」


「それでもいい!!」


郷田がテーブルを叩き、身を乗り出した。


「動きが遅かろうが、重心が高かろうが構わねえ! 今すぐ、森を切り裂いて道を開く『力』が要るんだ! レアメタルを手に入れるための道を創るのに、レアメタルを待ってちゃ一生進まねえだろ!」


「郷田の言う通りだ」


九条が静かに、しかし絶対的な圧力で同調した。


「これは15キロを直進するだけの、一発限りの使い捨てで構わない。冬が来る前に道をこじ開け、銅を持ち帰る。……できるか、真野」


『……ほんま、無茶苦茶な連中や』


真野の口元に、凶悪な笑みが浮かんだ。


「よっしゃ。計算は立つ。俺が鉄の塊みたいな、無骨で最悪なデチューン建機を仕立てたろ」


「フッ……それでこそだ。だが、俺たちの計画はただの道造りじゃないぞ」


九条が不敵に笑い、郷田と視線を交わした。


「今はまだ無理だが……いずれこの15キロの道を完全に掘り下げ、オハイオ川水系と五大湖を直結する『大運河』を建造する」


「なっ……!?」


他のメンバーが息を呑む中、郷田が熱狂に浮かされたように別の図面を広げた。


「そうだ! そして、運河掘削で出た莫大な『残土』を利用して、川沿いの低湿地帯を丸ごと地上げする! 『埋め立て』による、巨大な新都市開発だ!」


地形を根底から書き換える、神をも恐れぬメガプロジェクトの青写真。


『……狂ってやがる』


東が呆れたように天井を仰ぎ見た。

しかし、その顔もどこか楽しげだった。


「まあ、運河と新都市は未来の話だ。今はまず、冬が来る前にカヤホガ川に仮拠点を築き、目標の銅を獲得する」


九条が冷静に議論を引き戻す。


「そして一部の人間を残留させ、春までに氷上車両で近隣部族を回り、鉱石をかき集めさせる」


すると、今まで黙って図面を見ていた真野が口を開いた。


「いや、それじゃ効率が悪すぎるで、九条」


真野は手元の紙に、ササッと別のラフスケッチを描き出した。


「集めた鉱石を、わざわざこのクソ重たい陸路を使って帝都まで運ぶつもりか? 無駄や。……造船港っちゅう名前をつけるなら、春になったらそこで『船』を造るんや」


真野の目が、職人としての冷たい光を放つ。


「五大湖の波浪に耐える平底のディーゼル船を造る。それに耐火レンガや高炉の部材を積み込んで、採掘地へ直接乗り込む。……現地で製錬まで終わらせて、純度の高いインゴットだけを持ち帰るんや。これが究極のロジックやろ」


「素晴らしい最適化だな。俺も、現地に精錬所を建造する事を運河より先にやるべきであると理解している。ただ、現地までの経路を整備するのに時間が掛かる為、取り急ぎ帝都に持ち帰れる物は持ち帰って活用する」


九条は感心したように頷いた。


「妻たちが安全圏で静かに子を産めるよう、俺たちは世界を塗り替える。……全軍、作業にかかれ。目標の銅のタイムリミットは雪が降るまでだ」


***


数日後。帝都の巨大工場では、かつてない熱気と騒音が渦巻いていた。


「チャパ! そこの車軸、まだ細い! 極厚言うたやろ! 設計図の3倍の厚さで削り直せ!」


「は、はいっ! 真野さん!」


真野は上半身裸になり、全身から滝のように汗を流しながら、巨大な鉄の塊と格闘していた。


『……ほんま、洗練のカケラもない不細工な設計や』


レアメタルがない分、ひたすらに鉄の厚みと質量で剛性を確保した「デチューン重機」。

太すぎるクローラー、異常に高い重心、そして遅すぎる動き。

洗練とは程遠い、ただ自然を暴力的に破壊するためだけの醜悪なパワーショベルとブルドーザーだ。


しかし、真野の胸の奥底で燃える炎は、かつてないほどに熱かった。


『待ってろよ、俺たちの子供。……親父が、この醜い鉄の塊で、お前らを守る「牙」の材料を掘り出してきちゃる』


***


同じ頃、帝都の川沿いに確保された広大な区画では、もう一つの巨大プロジェクトが産声を上げていた。


「そっちのH鋼、もうちょい右だ! 基礎のアンカーボルトとミリ単位で合わせろ! 郷田さんが帰ってくるまでに絶対仕上げるぞ!」


木組みのクレーンを操り、重厚な鉄骨を誘導しているのは、かつて現場で鍛え上げられた若き作業員たちだ。

彼らを束ね、地質と測量のプロであるカヤが図面と睨み合いながら的確な指示を出している。


「東さんの設計したダイナモ……計算上、とんでもない振動が発生します。基礎のコンクリートは、規定の倍の厚さで打設しましょう」


「オッケー! カヤさんの指示通りに枠を組め!」


身重の妻たちのため、そして帝国の未来のため。

建国メンバーたちが不在の間も、彼らに育てられた第一世代の優秀な技術者たちが、次なる時代「電化」への礎を力強く築き始めていた。


***


そして、帝都の港では。


「おうおうおう! 先遣隊の資材と食糧、積載オーバーすれすれまで積め! 俺たちが先行して、あの未開の森に『港』をぶっ建てるんだ!」


郷田が怒鳴り声を上げながら、大量の木材や建築資材、そして測量機材を先行船団に積み込んでいた。

彼の背後には、ヘルメットを被った土木部隊の男たちが、殺気立った顔で動き回っている。


「郷田様。測量用のトランシットおよび、交渉用の交易品の積み込み、すべて完了いたしました」


神経質そうな若い男——数学と経済R&Dのトップであるヨキが、分厚いバインダーを抱えて郷田に報告した。


「おう! 頼むぜ、ヨキ! お前の数学が、俺たちの『直線の羅針盤』だからな。真野が重機を造り終えるまでの数週間で、キッチリ角度を出しとくぞ!」


郷田は豪快に笑い、ヨキの細い肩をバンバンと叩いた。

そして、帝都の中心、空高くそびえるコンクリート要塞の方角を一度だけ振り返る。


『……ティオ、ルル、ミナ……。俺の大切な家族たち。今は会えねえが、必ず生きて帰る』


その中には、自分の帰りを待つ妻たちが、新しい命を宿して静かに暮らしている。


「……よし、全艦出航だ!! 連水港の基礎をぶっ建てに行くぞォ!!」


郷田の大音声が響き渡り、黒煙を上げる船団が、晩秋のオハイオ川を北上し始めた。

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