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新大陸建国記 〜未開のアパラチア山脈から始まる世界蹂躙〜  作者: tky
第6章:圧倒的火力と軍の再編

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第80話:鋼鉄の暴風と、最初の産声

建国4年、夏。


帝都郊外、川沿いに新設された高い土塁とコンクリートの壁で囲まれた大規模射撃実験場。

そこには、重苦しい緊張感が張り詰めていた。


「セット完了や。……水冷ジャケットの水漏れ、なし。給弾ベルト、異常なし」


真野巧は、油にまみれた手で、目の前に鎮座する異形の鉄塊を愛おしそうに撫でた。


分厚い鋼鉄の三脚の上に据え付けられた、円筒形の太い銃身。

後方には真鍮製の複雑な機関部レシーバーがむき出しになり、その横からは黄金色に輝く金属薬莢がズラリと並んだ布製の給弾ベルトが、蛇のように伸びていた。


「これより、帝国初の完全自動火器フルオート……『マキシム機関銃』の最終稼働テストを行う」


九条蓮の冷徹な声が響く。

彼の隣では、鬼頭陣がニヤリと笑いながら腕を組み、郷田剛や東航平も固唾を呑んでその鉄塊を見つめている。


標的として用意されたのは、約150メートル先に横一列に並べられた、人間の胴体ほどの太さがある丸太の柵だ。


「……行くで」


真野が、機関部の後方にあるスペード型のグリップを両手で握り込んだ。

親指で、重いトリガーを押し込む。


その瞬間。


ダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!!!!


鼓膜を突き破るような、連続した爆音が実験場に轟いた。

単発のマスケット銃とは次元の違う、まさに「布を裂く」ような異常な連射音。


「おおおっ……!?」

「すげえ……!!」


郷田と東が、思わず耳を塞いで一歩後ずさる。


銃の右側面からは、撃ち終わった空の薬莢がチリンチリンと滝のように排出され、足元に黄金色の山を築いていく。

鬼頭が執念で錬成した「無煙火薬」のおかげで、射界を遮る白煙は一切ない。


そして、標的の丸太は。


バリバリバリィッ!!


毎分600発という、常軌を逸したサイクルの11ミリ大型弾丸を叩き込まれ、木端微塵に粉砕されていた。

「点」を狙うのではなく、弾丸の雨で「面」をなぎ払う、絶対的な制圧力。


150発の弾帯ベルトを撃ち尽くすのに、わずか15秒。

カチャッ、と機関部がホールドオープンし、静寂が戻った。

銃身を包む水冷ジャケットからは、熱湯となった冷却水がシュゥゥゥ……と白い水蒸気を上げている。


「……」


実験場は、水を打ったような静けさに包まれた。

標的だった丸太の柵は、見る影もなく消し飛び、ただ削り取られた赤土が露出しているだけだった。


「……ハハッ。こりゃあ、すげえや」


鬼頭が、引きつった笑いを漏らした。


「分かってはいたが、現実に見るとえげつねえな。……マスケットを持った戦列歩兵が何百人突撃してこようが、この『鋼鉄の暴風』の前じゃ、数秒で挽肉に変わるぜ」


「ああ。これなら、どんな狂信的な部族だろうが、どれだけ数がいようが関係ない」


東も、冷や汗を拭いながら頷く。

真野は、震える手でグリップから手を離し、大きく息を吐き出した。


『……出来た。ついに、出来よった』


彼らの目には、現代の平和な日本にいた頃には決して宿ることのなかった、残酷なまでの覇権国家の意思が宿っていた。


「見事だ、真野、鬼頭」


九条が静かに歩み寄り、まだ熱を持つ機関銃の銃身を見下ろした。


「お前たちの執念が、この物理的な『絶対防衛網』を完成させた。これで、帝国の防衛力は次の次元へ進んだ。……二度と、我々の懐に敵を入れさせはしない」


その時だった。


「九条様!! 真野様!!」


実験場の入り口から、息を切らしたタタンカが全速力で駆け込んできた。

その顔は、極度の緊張と興奮で赤く紅潮している。


「どうした、タタンカ。防衛線に異常か」


「い、違います! 本部(要塞)の病院から、緊急の連絡(伝令)が……!!」


タタンカは、膝に手をつきながら叫んだ。


「あ、アナヒータ様と……エルワ様が! 産気付きました!! 冴島先生が、大至急戻れと!!」


「……!!」


その言葉を聞いた瞬間、冷徹な九条の表情が一変した。

真野に至っては、工具をその場に放り投げ、一目散に出口へと走り出していた。


「おい真野! 川に出ろ! 船に乗れ、俺が飛ばす!」


郷田が叫び、実験場裏の船着き場に待機させていた小型のディーゼルボート(高速連絡船)に飛び乗る。

九条たちも慌てて甲板に飛び乗り、郷田がレバーを叩き込んだ。エンジンが重低音を上げて咆哮し、船は川面を白波を立てて滑り、要塞へと向かって全速力で爆走し始めた。


***


帝都の中枢、最も分厚いコンクリートと鉄条網で守られた「安全圏」。

そこに併設された、隔離病棟(無菌室)。


「ひっ……ふうっ……んんんっ!!」

「エルワさん、上手ですよ! その調子で、もう少し!」


病室の中からは、陣痛に耐えるエルワの呻き声と、ルミやミファたち助産・看護チームの励ます声が聞こえていた。


廊下では、血の気が引いた顔の真野と九条が、落ち着かない様子でウロウロと歩き回っている。

鬼頭や郷田たちも駆けつけていたが、男たちにはもはや、祈ることしかできない。


「アカン……エルワの体、細いのに……耐えられるんか……!?」


真野が、自分の髪を掻きむしりながら壁に頭を打ち付ける。


「落ち着け、真野。冴島とシラたちがついている。帝国の持つ最高の医療リソースが集中しているんだ。……絶対に、大丈夫だ」


九条は冷静を装って真野を諭していたが、彼自身もまた、組んだ手が白くなるほど強く握りしめられていた。


『……俺が設計したシステムの中で、唯一、俺自身の手でコントロールできない事象……。それが「命の誕生」だ』


どれだけ強大な機関銃を作ろうと、どれだけ堅牢な要塞を築こうと。

愛する妻が命懸けで新しい命を産み落とすこの瞬間だけは、完全な無力感に苛まれる。


数時間にも及ぶ、長く、永遠にも思える時間が過ぎた。


――オギャアアアアッ!!!


不意に、病室の中から、力強い産声が響き渡った。

それも、一つではない。


「おぎゃあっ!! ああっ、おぎゃあああ!!」


「!!」


真野と九条が、弾かれたように病室の扉に駆け寄る。

ほどなくして、汗だくになった冴島が、マスクを外しながら扉から出てきた。


「……終わったよ。母子ともに、健康だ」


冴島の眼鏡の奥の瞳は、極度の疲労と、それ以上の安堵で潤んでいた。


「九条のところは、元気な男の子だ。……真野のところは、男の子と女の子の『双子』だよ。エルワ、よく頑張ってくれた」


「あ……ああ……っ」


真野は、その場に崩れ落ち、顔を覆って号泣し始めた。

九条もまた、深く、長く息を吐き出し、天井を見上げて静かに目を閉じた。


「中に入ってやってくれ。シラたちが綺麗に拭いてくれたところだ」


冴島に促され、消毒を済ませた男たちが、恐る恐る病室へと足を踏み入れる。


白いシーツの上に横たわるアナヒータとエルワは、蒼白な顔をしていたが、夫たちの姿を見ると、ふわりと幸せそうな微笑みを浮かべた。


「……蓮様。見てください」


アナヒータの腕の中には、まだ赤くシワシワの、小さな赤ん坊が眠っていた。


「ああ……よく、頑張ってくれた。アナヒータ」


九条は、震える手で、赤ん坊の小さな指に触れた。

自分の指をギュッと握り返してくる、その強烈な生命力。


『……俺の、息子』


「名前は……決めてある」


九条は、アナヒータの額に優しく口付けをし、静かに言った。


「『シオン』だ」


一方、真野は、ベッドの脇で膝をつき、二つの小さな命を抱きかかえるエルワの手を、泣きながら何度も何度も握りしめていた。


「エルワ……ホンマに、ホンマにありがとう……っ!」


「真野さん……ふふっ、泣きすぎですよ。……ほら、私とあなたの子供たちです」


「名前……名前は『テツ』と『スズ』や! 俺と、お前が愛した金属の名前や……!!」


真野の言葉に、エルワは涙を流しながら嬉しそうに頷いた。


窓の外では、夏の太陽が帝都を明るく照らしていた。


すべてを粉砕する「最悪の制圧兵器」の完成と、同じ日に産声を上げた「帝国の未来(第一世代)」。

その圧倒的な暴力は、ただ純粋に、この脆弱で愛おしい命を守り抜くためだけに存在する。


「……絶対に、守る」


九条は、シオンの小さな寝顔を見つめながら、誰に聞こえるでもなく呟いた。


「この子が育つ世界に、一切の脅威バグは残さない。……どんな手を使ってでもな」


父親となった男たちの愛情は、世界の形を力ずくで変えていく「狂気」へと、完全に昇華されていた。

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