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新大陸建国記 〜未開のアパラチア山脈から始まる世界蹂躙〜  作者: tky
第5章:鋼の川船と富の略奪反乱

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第75話:遅れた帰還と、軍拡への絶対的決意

北の森の奥深く、静寂に包まれた油田プラント。

郷田は、いつまで経っても現れない定期船を待ちわびながら、じりじりとした焦燥感を募らせていた。


「郷田さん……やっぱり、何かあったんでしょうか」


妻のティオが、不安げな表情で川の下流を見つめる。他の6人の妻たちも、作業の手を止めて寄り添っていた。


「わからねえ。だが、あの九条や東が、理由もなくスケジュールを遅らせるはずがねえ。……最悪の事態も想定しておくべきだ」


郷田が、手近にあった重い鉄パイプを握りしめた、その時だった。


ダダダダダダッ……!!


静寂な大自然には似つかわしくない、けたたましい内燃機関の駆動音が川下から響いてきた。


「……来た! エンジンの音だ!」


郷田たちが川岸へ駆け寄ると、黒煙を上げながら川を遡上してくる一隻の船が見えた。

だが、それは見慣れた平底の輸送船バージではない。真野が組み上げた、スクリュープロペラ付きの「小型ディーゼル船」だった。しかも、甲板にはマスケット銃でフル武装した兵士たちがずらりと並んでいる。


「郷田殿! ご無事ですか!!」


船首に立つ兵士が、拡声器代わりの竹筒で叫ぶ。

船が桟橋に接舷するなり、郷田は血相を変えて飛び乗った。


「何があった! なんでお前らみたいな完全武装の連中が、こんな特急便で来やがったんだ!」


「はっ! 昨夜、帝都にて内部の内通者の手引きにより、南ゲートが突破されました! ズガと名乗る部族の数百名が市街地に侵入し、大規模な暴動と略奪が発生したのです!」


「なんだと……ッ!?」


郷田の頭から、さぁっと血の気が引いた。


「鎮圧は!? 人的被害はどうなってる!」


「九条様と鬼頭殿の指揮により、暴動は昨夜のうちに完全鎮圧されました。市街地の一部が焼けましたが、市民の死者はゼロ。南ゲートの守備隊5名が犠牲となりましたが……本丸(要塞)への敵の侵入は完全に防ぎ切りました」


兵士の報告に、郷田はギリッと奥歯を噛み締めた。

市民の死者がゼロというのは奇跡に近い戦果だが、自分の仲間たちが血で血を洗う死闘を繰り広げている間、自分はこんな大自然のど真ん中で呑気にスープを啜っていたのだ。


「ティオ! お前たちもこの船に乗れ! すぐに帝都へ戻るぞ!」


「わかったわ! みんな、急いで!」


ティオたち7人の妻も慌ただしく船に乗り込み、小型ディーゼル船はすぐさま反転し、全速力で帝都へと川を下り始めた。


***


数時間後、帝都の港に到着した郷田たちが目にしたのは、無惨に焼け焦げたスラムの跡と、血の匂いがこびりついた市街地の光景だった。


「ひどい……こんなことに……」


心優しいヘマが、口元を押さえて青ざめる。


「郷田さん……私、なんだか……っ」


その時、気丈に振る舞っていたティオが、不意に足元をふらつかせ、その場にへたり込んだ。


「ティオ!? どうした、怪我でもしたのか!」


「ち、違うの。なんだか急に、目の前が真っ暗に……それに、吐き気が……っ」


ティオだけでなく、ソラやルルたちも顔面を蒼白にし、冷や汗を流してしゃがみ込んでしまった。

極度の緊張と、凄惨な焼け跡の光景によるショックが、彼女たちの身体に隠されていた「ある変化」を急激に表面化させたのだ。


「おい、しっかりしろ! 誰か、冴島を呼んでこい!!」


郷田の怒号に、港の兵士が弾かれたように救護室へと走った。


***


本丸内部、救護室。


ベッドに横たわるティオたちを診察した冴島は、無言で白衣のポケットに両手を突っ込み、深く、重い溜息を吐き出した。


「……冴島。ティオたちは、どうなんだ」


郷田が、祈るような目で冴島を睨みつける。


「……郷田。おめでとうと言うべきか、お前をぶん殴るべきか迷うところだが……」


冴島は、ひどく冷たい、だがどこか自嘲気味な声で告げた。


「ティオと、ミナ、それにソラの3人が……『妊娠』している。初期症状だ。他の4人も、極度のストレスで自律神経が乱れているだけで、命に別状はない」


「……は?」


郷田の巨大な身体が、ピタリと硬直した。

妊娠。自分の子供が、この過酷な状況下で、妻たちの腹の中に宿っている。


「他の奴らの妻も……エルワもゼナも、マヤもだ。俺たちの妻は、新しい命を宿している。俺たちは無意識のうちに、自分たちの子供を死の危険に晒していたんだ」


冴島の言葉が、重い鉛のように郷田の脳天を打ち抜いた。


「……ッ!!」


郷田は、丸太のような太い両腕で自身の顔を覆った。

土木工事の現場でどんな危険にも動じなかった巨漢が、ガタガタと微かに震えていた。


『俺は……俺の家族を、こんなにも無防備な状態に置いていたのか』


後悔と、そして「もしも」を想像したことによる底知れぬ恐怖が、やがてドス黒い怒りと殺意に変わっていく。

彼もまた、他の5人と同じように、現代の倫理観を捨て去り、絶対的な「庇護者(父親)」としての狂気に目覚めた瞬間だった。


***


その夜。

統治局の最上階、分厚い防音扉で閉ざされた円卓会議室に、6人の男たちが集まっていた。


部屋の空気は、かつてないほど重く、そして冷酷な殺意に満ちていた。


「……被害の収拾と、事後処理は終わった。市民の動揺も抑え込んでいる」


九条が、感情の欠落した声で切り出す。


「だが、昨夜の防衛戦で、我々の『システム』の致命的な欠陥が二つ浮き彫りになった」


九条の冷徹な視線が、円卓を囲む男たちを順番に射抜く。


「一つ。マスケット銃による一斉射撃(戦列歩兵)は、確かに面制圧力として優秀だが……リロードの隙があり、敵の『数』と『狂気』が一定のラインを超えれば、容易に距離を詰められる。もし昨夜、敵があと百人多ければ、防衛線は抜かれて本丸に敵が雪崩れ込んでいただろう」


鬼頭と真野が、無言で深く頷く。現場で敵の圧力の恐ろしさを一番理解しているのは彼らだ。


「そして二つ目」


東が、手元の図面をバンッと強く叩いた。


「情報の遅れだ。南の監視網が潰されただけで、俺たちは敵の規模も位置も把握できなくなった。郷田の油田プラントとも、物理的な距離のせいで連絡手段が途絶した。……距離という『見えない壁』が、愛する家族を危機に晒す最大の要因になっている」


東の言葉に、郷田がギリッと奥歯を鳴らす。


「……なら、どうする」


真野が、血走った目で九条を見た。

すでに答えは、この場にいる全員の頭の中で一致している。


「簡単だ」


九条は、机の上に置かれた一枚の白紙に、ペンで線を引いた。


「敵が何百人、何千人束になってこようが、壁に指一本触れさせることなく『一瞬で肉片に変える』絶対的な面制圧兵器を造る。……真野。機関銃だ。水冷式のマキシム機関銃を開発しろ」


「……ああ。やってやる。ゴムの密閉技術と油圧プレスで、連射に耐える『金属薬莢』を俺が執念で量産してやる」


真野の言葉に、東と鬼頭が続く。


「連続射撃には、黒色火薬では煤が詰まって無理だ。……俺とゼナで、『無煙火薬』を精製する」


「……よし。俺は、遠く離れた郷田のプラントや、各防衛拠点と『瞬時に』情報をやり取りできる通信網テレグラフの構築を最優先する」


最後に郷田が、分厚い拳を円卓に叩きつけた。


「俺は、その機関銃の素材となるレアメタルだろうが何だろうが、どんな奥地からでも掘り出して、帝都に運ぶための『重機』と『大動脈インクライン』を造る。……家族を脅かす奴らは、一人残らずこの大陸から駆逐してやる」


「父親」となる6人の男たちの意思は、完全に一つに統合された。


「……決定だ。これより、帝国の全リソースを『圧倒的な暴力(軍拡)』と『情報網の構築』へ極振りする」


九条が、冷酷に宣言する。


「我々の家族を脅かす要素は、一切の対話なく、物理的にすり潰す。……悪魔の兵器を、この世界に解き放つぞ」


建国3年の冬。 暴動と略奪の炎は鎮まり、帝国は新たな段階へと突入した。 愛する我が子と妻を守るため、男たちは躊躇うことなく「圧倒的な暴力」を手にする決意を固めたのである。

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