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新大陸建国記 〜未開のアパラチア山脈から始まる世界蹂躙〜  作者: tky
第5章:鋼の川船と富の略奪反乱

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第71話:市街戦の混乱と、完璧なる「管制」

夜の闇を切り裂き、帝都の南側から赤黒い炎と黒煙が立ち上がり始めていた。


ズガが率いる数百の精鋭戦士たちが、開け放たれたゲートから怒涛の勢いでスラムを飲み込み、市街地へと雪崩れ込んだのだ。彼らは目に付く建物に火を放ち、手当たり次第に物資を略奪し、快楽主義的な暴力の歓喜に酔いしれていた。


だが、彼らは気づいていなかった。

この帝都が、これまでの彼らが襲ってきた「無防備な村」とは根本的に異なる、冷徹な『システム』によって統括されていることに。


カンッ! カンッ! カンッ!!


夜の帝都に、非常事態を告げる鋭い銅鑼の音が絶え間なく鳴り響く中、統治局の最上階。

暗い執務室の中で、東は次々と集まってくる報告を処理しながら、張り詰めた声で口を開いた。


「……九条。中央広場の鬼頭を経由して、第一報が上がってきた。タタンカからの伝令で『南ゲート突破、外敵数十と交戦中』とのことだ。同時に、鬼頭自身からの作戦行動の報告も来ている」


東は手元の図面に印をつけながら、迅速に読み上げる。


「鬼頭はタタンカの伝令を受け、独自の判断ですでに動いている。部隊を扇状に展開して前線を南側へ押し上げ、市民の避難時間を稼ぐための防衛線を敷いたそうだ。だが、『部隊を展開させた分、東西の路地へ迂回した敵を討ち漏らす可能性がある』と懸念を上げている」


九条は巨大な窓から燃え上がる市街地を見下ろしながら、一切の感情を排した声で応じた。


ふっ、と九条は冷徹に口角を上げた。


「さすがは鬼頭だ。見事な初動だな。だが、敵の規模は数十ではない」


「ああ。高所の監視塔からの視覚情報では、開け放たれたゲートから、途切れることなく松明の群れが雪崩れ込んでいる。青銅砲を撃たれても止まらず、およそ三百から四百の『本隊』が防壁を抜け、居住区へ向けて進軍中だ」


「やはり南が本命だったか。俺の予想より早かったが……」


九条が市街地の中央へ視線を移すと、そこにはすでに規則正しい松明の動きと、統制されたマスケット銃の銃声が響き始めていた。


「東、鬼頭に補足の司令サポートを送れ。敵の規模が三百から四百の本隊であることを伝えろ。同時に、鬼頭の懸念通りに東西へ散開した敵が前線の網の目をすり抜けてくるに備え、真野たちが本丸へ着いて武装が完了次第、本丸の予備兵力を東西と北の路地へ各15名展開させろ」


「了解した」


現場指揮官(鬼頭)の的確な状況判断と、総司令官(九条)の俯瞰的な情報管制。

二つの歯車が完璧に噛み合ったことで、圧倒的な初動の速さが生まれ、反乱軍の勢いを鈍らせ、致命的な被害を防ぐ最強の盾として機能し始めていた。


***


時を同じくして。

統治局から少し離れた工業区画にある、真野の工房。


「真野さん! 九条殿より緊急伝令です! 至急、全員で本丸へ向かえ!以上ですが、道中で南ゲートから銅鑼が鳴り始め、青銅砲の発砲音も聞こえました!敵が市街地へ侵入している可能性があります!」


真野に、九条からの指示を伝える為に走っている最中、南門の方角から銅鑼が鳴り響いた事で、伝令の男は血相を変えて叫んだ。


真野は伝令の男を見て、ピタリと固まった。


「……なんやと?」


内容を理解した真野の顔から、さぁっと血の気が引いていく。 彼の脳裏に浮かんだのは、今この工房にはいない、愛する妻の顔だった。


『エルワ……!!』


いつもなら、彼女は深夜までこの工房で真野と共に作業をしている。だが今夜に限って、エルワは「少し熱っぽくて体がだるい」と体調不良を訴えていたため、真野が強制的に作業を休ませ、本丸の居住区へと先に帰らせていたのだ。


本丸は分厚いコンクリートの壁に囲まれた安全圏とはいえ、今、彼女はそこで一人で寝込んでいる。

そして、鬼頭が懸念した「網の目をすり抜けけた敵」が、いつそこへ到達してもおかしくない状況だ。


「ふざけんな……ゲートが抜かれたやと!? エルワが、エルワが一人で寝とるんやぞ!!」


真野は狂ったように叫び、図面を投げ捨てた。

彼は部屋の隅に立てかけられていた、巨大な鋼鉄の塊――油圧ジャッキの整備に使う、長さ1メートル、重さ十数キロにも及ぶ『超大型パイプレンチ』を鷲掴みにした。


「チャパ! お前らも武器を持て! 俺たちは本丸へ走る!」


「は、はい!!」


チャパや工員たちも、咄嗟に巨大なハンマーや鉄パイプなど、手近にあった「重い工具」を握りしめ、真野の後に続いて工房を飛び出した。


燃え盛る市街地を、真野たちは全速力で駆け抜ける。

その道中、鬼頭の防衛線を東西から迂回し、略奪のために工業区画へ入り込んできたズガの戦士数名と鉢合わせた。


「ヒャハッ! ここにも獲物が――」


戦士の一人が石斧を振り上げた、その瞬間。


「どけぇぇぇッ!!」


真野の咆哮と共に、遠心力が乗った巨大なパイプレンチが、凄まじい風切り音を立てて戦士の顔面に叩き込まれた。


メキバキィッ!!


分厚い鋼鉄の塊と職人の腕力。数百キロの圧力をねじ伏せるための重工具は、頭蓋骨を紙屑のように粉砕し、戦士の体を吹き飛ばした。


「ヒィッ!?」


仲間の無惨な死に様に怯む残りの戦士たちを、チャパたち工員が鉄パイプと大ハンマーで容赦なく撲殺していく。

個人の武勇など関係ない。そこにあるのは「圧倒的な質量」という物理法則に基づいた、泥臭く純粋な暴力だった。


「待っとれエルワ……絶対に指一本触れさせへんぞ……!」


返り血を浴び、鬼神のような形相となった真野は、ただひたすらに妻の待つ本丸へと向かって走り続けた。


***


一方、帝都の狂騒から遠く離れた、北の森の奥深く。


月明かりに照らされた大自然の中に、巨大なコンクリートと鉄の要塞――油田プラントが威容を誇っていた。


「……よし。各配管の圧力、正常。漏れもなしだ」


郷田は、バルブを締め直しながら満足げに頷いた。


完成間近のこの巨大なインフラ施設は、現在、試験稼働の最終調整段階に入っており、明日の定期便の船を待つ状態にあった。


「郷田さーん! お疲れ様! 夜食の温かいスープ、できたわよ!」


テントの方から、妻のティオが明るい声をかける。 ティオをはじめ、ヘマやソラたち7人の妻たちも現地に住み込み、現場のロジスティクスと郷田のサポートを完璧にこなしていた。


「おう、今行く! ……いやぁ、それにしても順調だな」


郷田は温かいスープを受け取り、月明かりに照らされたプラント群を見上げた。


「全て順調だ。明日の定期便が追加の資材を運んできてくれれば、いよいよ試験稼働に入れる」


彼の頭の中にあるのは、予定通りに進むインフラ開発のスケジュールと、美味しい夜食、そして笑顔で支えてくれる妻たちのことだけだった。


彼が構築した物流スケジュールと現場の進行状況に、一秒の遅れも狂いもない。

【完全に異常なし】だ。


郷田は穏やかな夜風に吹かれながら、熱いスープをゆっくりと啜った。

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